体を鍛えあげた男性で構成された筋肉紳士集団「ALLOUT」を立ち上げ、彼らをイベントにキャスティングする事業を始めたことがきっかけで、ジムの運営事業に参入した株式会社スマイルアカデミー。同社代表の中込智喜氏に、パーソナルジム「Body Hackers Lab」を立ち上げるまでの経緯やこれまでの苦労、人材育成について聞きました。
INDEX
PROFILE
中込智喜 株式会社スマイルアカデミー CEO
早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科卒業後、株式会社リクルートにて企業の採用活動をサポート。29歳で株式会社スマイルアカデミーを立ち上げ、筋肉をつかったイベント企画・キャスティング・マッチョのフリー素材サイト運営など筋肉に関する事業を展開するほか、福岡・熊本でパーソナルジム「Body Hackers Lab」を12店舗運営する。
1. 福岡でマッチョ事業を立ち上げ
——スマイルアカデミー立ち上げ前はどんなお仕事をされていたのでしょうか。
新卒でリクルートへ入社し、企業の採用活動をサポートしていました。家族や親戚の多くが全員起業している家系ということもあって、当時から「30歳で自分も独立する」と期限を決めておき、29歳の時にリクルートの同期と一緒にスマイルアカデミーを立ち上げ、最初は福岡で学童保育+人材紹介の事業をスタートしました。
ちなみに企業のミッションは「smile make smile」。関わる人を全力で幸せにして、幸せになった人がまた近くの誰かを幸せにする「笑顔の連鎖」を創ろうというものになります。そのため、どの事業もコアとなるこの考えがブレず筋が通っていれば、とりあえずやってみようといろいろ挑戦しています。
——福岡という地を選んだことや、学童保育の事業を始めた理由は何でしょうか?
前職の時に福岡に転勤で来て、この街を気に入ったのが一番大きいのですが、前職時代に200〜300社の企業を担当しており経営者とのつながりも多かったので、ビジネスを始めるには福岡がベストだと判断しました。
学童保育事業は商店街とタイアップして、子どもたちを学童で無料で預かる代わりに、働きたいお母さんたちを企業に紹介する人材紹介事業で売上を作る形で運営しました。
——学童保育事業からどういった経緯でジムを始めるようになったのでしょうか。
残念ながらスケールするイメージが湧かず、このまま自分たちが続けるのがベストではないなと商店街にはごめんなさいしてピボットすることにしました。その後はリクルート時代の先輩の事業を手伝ったり、サイト制作や人材紹介事業はそのまま継続していたんですが、たまたま周囲にマッチョ仲間が多くて、彼らが結婚式などイベントに参加すると周囲の方からとても喜ばれるところからヒントを得て、筋肉紳士集団「ALLOUT」を作り、マッチョのキャスティングやイベントを企画する事業を始めました。
そんなとき、偶然知り合いから「ジムを買わないか」と声がかかったんです。マッチョな登録者(私たちはボディハッカーと呼んでいます)の中にはトレーナーも多くいましたから、みんなが集まれる場所にもなるのでいいかなと思い、ボディハッカーたちの集まる研究所として「Body Hackers Lab」を立ち上げました。
2. 見える効果による紹介が多数、トレーナーへの信頼で継続率アップ
——ジムを運営するのは初めてだったと思いますが、経営は順調でしたか?
慣れないことも多かったですが、Web周りは事業をピボットするなかでいろいろやってみたこともあってWebからの集客が最初からかなりできたのはもちろん、トレーナーとしての彼らが元々お客さまを抱えていたこともあり、3部屋が毎日ずっと埋まっていて自分たちの休憩スペースもないような状態でした。ただ、指導方法や接客などもそれぞれのトレーナーに任せている感じだったので、最初の1店舗目は経営しているというよりも、Webからの集客だけ僕たちがして、あとはメンバーに場所を提供していた、といったほうが正しいかもしれません。
——もともとトレーナーとして人気の方が多かったんですね。
これまでの筋肉活動などもあり、各々が福岡で知名度があったので人気といっても過言ではなかったと思います。ただ、メンバーとも付き合いが長かったのでトレーナー個々に指導内容やコミュニケーション方法なども委ねていたんですが、目に見えて各々のモチベーションやパフォーマンス、顧客満足度に差があるなと感じていて、これはラボに期待して来てくれるお客さまにきちんと価値を提供できてるのだろうか…という懸念はありました。メンバーもこれまで自身でやってきた自負があるので、もっとこうしたほうがいいという話をしてもそこまで響かないだろうと思い、それであれば一から自分たちでラボの理想を体現できるトレーナーを育てようということで、開業から半年ほど経ったところで社員を採用し、教育体制を整えるなど社内体制を整備しました。
それ以外だと、ちょうど10店舗くらいになったところで産休やもろもろの要因が重なって、トレーナーの休職が重なってしまった時期がありました。抜けてしまった穴を他店舗のメンバーが代打で入らなければいけない状況になってしまったりと、全体の業務量が増加してしまったうえ、ルールが比較的ゆるい組織だったので、「これは誰がやるべきことなのか」が明確でなかったことでメンバー間のハレーションや、忙しい中でネガティブな発言が生まれて全体の空気が悪くなってしまったこともありました。今は仕組みをしっかりと整備し、組織全体の強度を整え終えた段階なので、より店舗が増えても同じようなことにはならないかと思います。
——お客さまはどんなことがきっかけで「Body Hackers Lab」に来られるのでしょうか。
Web集客がもちろん一番多いですが、効果が見えることによる紹介も多いです。体型が変わると表情も明るくなって、周囲の方が気になり始めるんですよね。「聞いたら、『私はこんなにすごい先生に教わってる、あなたも行ったほうがいい』とここを勧められた」ということで来てくれます。ほとんどのお客さまがダイエット・ボディメイク目的ですので、科学的にきちんと行えば効果が出るのは当然ですが、もう何年も通っているお客さまはトレーナーとの関係性・信頼感から、「トレーナーに会いたいからジムに行く」という意識に変わり、継続への動機づけにもつながっています。
——入会率はどれぐらいですか?
直近の3ヶ月のデータだと入会率は89%といったところです。一時期75%くらいまで落ちてしまったことがあったのでいくつか試作や仕組みなど取り入れ、ほかのパーソナルジムなどと比較したとしても、体験に来た方のほとんどに「Body Hackers Lab」を選んでいただけている状態です。現在は継続率のテコ入れもしており、個々の力量によらず仕組みでできる限り改善できるように日々試行錯誤しています。
3. 採用はスキルより人間性を重視、未経験でもお客さまのフィードバックを活かして自信を養う
——店舗を展開するには、トレーナーを採用し続けることが必要かと思います。
福岡ならではの地域性もあると思いますが、採用はずっと課題ですね。月に80件近くの応募がきたりするときもあり、応募自体はたくさん来るものの、素養の高いメンバーを見つけることが難しいです。基本は未経験から育てるので、現状の育成システムだと採用しても現場デビューまでに半年ぐらいかかりますから、メンバーを揃えることに時間がかかってしまい、新しい店舗を出す時の一番のネックとなっています。今後は育成のスピードアップなど、のれんわけした際にもきちんと機能する育成マニュアルや仕組みを改善しなければいけないなというところです。
——採用で重視しているポイントを教えてください。
トレーナーとしてのスキルや経験はまったくみておらず、社会人としてのマナーがあることは当然として、素直さやお客さまが応援したくなるような人柄などの人間性を重視しています。ですのでぜひ、経験がないからと尻込みせずにどんどん応募してきてもらえると嬉しいです。実際に元々はお客さまだった方を採用していたり、過去の職歴もホテルマンや銀行員、研究職などいろいろなメンバーが活躍しています。あくまでポテンシャル採用ですので、トレーナー経験者の方が少ないです。
——未経験者はどれぐらいの期間で現場に立てるようになるのでしょうか。
自信をもってお客さまに向き合えるように、半年程度をみています。当社では、本格的に現場デビューをする前に、新人トレーナーのセッションを低価格でお客さまに提供し、フィードバックしてもらうというモニター制度も実施しています。実際にお客さまに接してこそ学びや気づけることがありますから。独り立ちした後は、結果を数字で見ながら、弱い部分を伸ばしていくようサポートしています。
——競合も増えていると思いますが、今では10店舗以上を展開されています。ここまで展開できたポイントは何だと思いますか?
ただただどこよりもしっかりと自分たちの提供価値である「人生を変える」を徹底して行い、愚直に「関わる人を幸せに」をやれて、お客さまに支持されているところだと思いますが、あとはやってみてうまく行かなかったら変えていく柔軟性と意思決定の速さ、打ち手の多さでしょうか。新しいコースを追加してみたり、集客施策もSEO、MEOを中心にしつつも、毎日いろいろな方法や仕組みを実験しています。
また、各々のKPIとなる数字をデータ化し、毎週数字で変化を見る社内体制が整っていることも強みかもしれません。データを可視化することで、課題がどこにあるのかを明確に把握できます。入会率、継続率などの重要数値はもちろん、今後独立して自身で集客や経営を行うようになったときにきちんと振り返りと改善ができるように、全員が自身の数字を把握している状態を作っています。半期の個人面談や、毎週のチーム会、個人振り返りなどで数字を見つつ、課題が見つかれば対策を打ち、改善を継続的に行ってきました。
——目標とする店舗数はありますか?
実はお恥ずかしい話ですが、お客さまが家の近場で通いやすいように、またはトレーナーからの「家の近くに出してほしい」といった要望に応えて店舗を増やしていたら、気づいたら10店舗を超えていたという感じで、明確な目標店舗数があるわけではないんです。ただ、僕たちの理念である「関わる人を全力で幸せにする」からブレないことであれば今後もいろいろな事業に挑戦していきたいなというところと、売上については筋肉事業も含めて、10年後に一旦10億円を超えている状態は作りつつも、そこからはまた楽しいことがあればいろいろやってみようかなという感じでしょうか。
——将来のことも考えて集客や経営について教育されていることや、セッションの現場やイベントなど活躍できる多くの場が用意されていることは、トレーナーの方のキャリアにおいても安心感につながる気がしました。本日はありがとうございました。
※画像引用元(マッチョのフリー素材写真サイト):https://freephotomuscle.com/