【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
日本とベトナムに合計274軒(2024年3月末時点)の店舗を展開する株式会社ルネサンス(以下、ルネサンス)。企業理念に掲げる「生きがい創造企業」を目指し、快適な日々へのベースとなる健康づくりに取り組んでいます。そのルネサンスにテニスコーチとして入社し、スポーツクラブ事業に長らく携わった後、2020年のコロナ禍時に社長に就任した岡本利治氏に、当時の心境や大切にしていることについて聞きました。
INDEX
PROFILE
岡本 利治 株式会社ルネサンス 代表取締役社長執行役員
1982年、テニスコーチとして入社。支配人など店舗でのキャリアを積み、本社へ。営業本部長やスポーツクラブ事業本部長を歴任した後、2020年6月に代表に就任。現場に精通し、従業員数1,400名以上を抱える企業のトップでありながら現在も店舗スタッフ、さらに会員と積極的に交流を図っている。
1. テニスコーチからスタートしたキャリア、予期せぬコロナ禍突入時での社長就任
私はテニスコーチとしてルネサンスでのキャリアをスタートし、その後は支配人を務めるなど店舗にて多くのお客さまと接してきました。2011年にはスポーツクラブ事業の本部長に就任し、2020年4月に社長に就任した前任の高崎尚樹の急逝を受けて、同年6月16日に社長に就任しました。高崎は亡くなる1週間前までミーティングにも参加していましたので、斎藤(代表取締役会長執行役員 斎藤 敏一氏)から高崎が亡くなったことを知らされ、「明日から社長に就任してほしい」と言われたときには「まさか」という気持ちでした。
高崎はヘルスケア領域に強く、私は長年スポーツクラブ事業に従事してきた身として、これから二人三脚でそれぞれの分野を成長させていこうというところでした。今でも大変残念な想いで一杯です。
翌週には株主総会が控えるなかでの突然の社長就任でしたので、正直、社長という重責について深く考える余裕もなかったというのが正直なところです。当時はコロナ禍で、スポーツクラブ事業が大変厳しい状況に置かれていました。店舗は感染症対策に追われ、お客さまの接客も制限される日々ですから、店舗スタッフの気持ちが相当落ちてしまっていることが予想されました。不安を軽減させるためにも直接話さなければと考え、緊急事態宣言が解除されるのを待って、店舗の巡回をスタートさせました。
2. 全店舗を訪問して直接スタッフと交流、店舗経験を元に共通言語で課題を把握
会社の成長には、店舗・本社で働く社員はもちろん、多くのパートナースタッフ(ルネサンスでの呼び名。アルバイトスタッフのこと)が良い状態で働けていることが大切です。私は本部長時代から、店舗を巡回し、可能な限り直接スタッフと話すことを心がけてきました。店舗数が増えた今、全店舗を訪問するのは大変ですが、実際に足を運ぶことでわかること、感じられることがあります。本部長時代は2〜3年をかけて全店舗を一巡していましたが、社長就任後の3年間は毎年全店舗を訪問しています。
スタッフには、最前線で店舗を支えてくれていることに対する感謝をまず伝えます。それから困っていることはないか、それぞれどんな目標を掲げて業務に取り組んでいるのかなどを聞いています。本部長時代から各店舗を訪れていましたから、社長となった今でもスタッフは気負いなく話してくれるように感じています。
店舗および本社での勤務を通して、私もスポーツクラブ事業について大抵のことは把握しているつもりです。スタッフからの質問や困り事に対しても、「あの状況のことを言っているのだな」とすぐにイメージすることができます。スタッフと「共通言語」で会話ができることで店舗の課題をきちんと把握し、アドバイスや、社長として対応すべき優先度を判断できることは、店舗勤務の経験がある私の強みといえるかもしれません。
なお、私はルネサンスにおける最高健康責任者として、健康経営(※)の浸透や従業員の健康意識の向上、働き方改革による生産性の高い職場づくりの実現も担っていますから、当然ながら自らの健康管理も意識しています。月2回は本社で実施しているクラブ活動に参加していますし、スタッフや、時にはお客さまと一緒にテニスを楽しむこともあります。スポーツはコミュニケーションを図る良い機会となっています。
※従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの1つ
3. 44年間不変、ホスピタリティの高さがルネサンスの魅力
44年間、ルネサンスで働いてきた私が自社の魅力であり、また誇りに感じていることを挙げるとすれば、やはりスタッフのホスピタリティの高さでしょう。「生きがい創造企業」という理念に共感してルネサンスで働くことを選び、理念の実現に向けて指導力を含めサービス品質の向上に邁進してくれる姿勢には感謝しかありません。
当社は長期ビジョンとして「人生100年時代を豊かにする健康のソリューションカンパニー」を掲げていますが、このビジョンを作成する際に、パートナースタッフ、インストラクター、取引先などにも協力してもらい、ルネサンスの魅力を挙げてもらいました。するとホスピタリティのほかにも、「お客さまに寄り添う力がすごい」「お客さまへの伴走力が高い」という声が挙がりました。スタッフがお客さまをナビゲートする様子を表した当社のロゴに込めた想いをまさに体現しているのだと、嬉しい気持ちになりました。
4. キーワードは「人×デジタル」、フィットネス業界に求められるIT人材
当社は2016年、スポーツクラブ事業方針のなかに「人×デジタルでいいサービスを提供しよう」というような記載を加えました。ホスピタリティはフィットネスクラブで働くうえでとても大切ですが、お客さまとの接点もデジタル化されつつある昨今、これからフィットネス業界を目指す方には、ホスピタリティに加えてITリテラシーもあると望ましいでしょう。
進む人手不足を解消するためにも、IT化があらゆる場所で必要となっています。これまでのように、人に依存したサービス提供を行っていては、いつか事業が成り立たなくなってしまうかもしれません。少なくなる人手をITの力でカバーしながら、いかに生産性を高めていくかが課題です。特に当社は、2023年に株式会社東急スポーツオアシス(以下、オアシス)と資本業務提携を締結しました。オアシスが利用しているシステムとの統合も進めて行く必要があります。
私がルネサンスに入社したころは、フィットネス業界ではどこの企業も対面での接客を重視し、「いかにホスピタリティを磨くか」が課題でした。スタッフは「他業界含めて、さまざまな良い接客サービスに触れなさい」と言われたものですが、現在ではオフラインおよびオンライン、双方の良いサービスに触れてほしいと思っています。
なお、フィットネスビジネスの知識については、当社も監修に関わっている「フィットネスクラブ・マネジメント技能検定」(一般社団法人日本フィットネス産業協会)で学ぶことをぜひお勧めしたいですね。