元格闘家の中澤純氏が群馬県を中心に展開するキックボクシングジム「Aimhigh(エイムハイ)」。選手として活動しながらこのジムを立ち上げた同氏に、開業時の苦労やビジネスにおいて大切にしていること、さらに今後の目標について語っていただきました。
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PROFILE
中澤 純 株式会社Aimhigh 代表取締役
10歳でキックボクシングを始め、数々の大会で王座を獲得。現役選手であった2016年に株式会社Aimhighを立ち上げパーソナルジムを開業、2017年にキックボクシングジム「Aimhigh」を開業する。会社経営を行いながら2017年に日本最高峰キックボクシングイベント「Krush.75」でスーパーライト級王者を獲得。引退後は自身の経験を元に考案したメソッドを提供するストレッチ専門店やセミパーソナルスタジオも開業するなど、実業家として活動の場を広げている。
1. 想像していた格闘家の生活とは違う現実、自らの手で資金を稼ぐことを決意
——格闘家として活動されていた中澤さんがキックボクシングジム「Aimhigh」(以下、エイムハイ)を開業したきっかけを教えてください。
格闘家として活動していましたが、生活や活動資金を集めるために練習の合間に仕事や営業活動をしていました。「付き合いで仕方なく」協力してくれる人に頭を下げなければならないときもあり、想像していた格好いい格闘家のイメージとは遠い日々でした。次第に「自分はお金に魂を売っているのではないか?」と感じ始めたことがきっかけで、もっと自分が得意なことで資金を稼いでいこうと決めました。自分の得意なことの一番目と二番目を掛け合わせたビジネスならば成功する確率が高くなるだろうと考え、一番目の格闘技と二番目の筋トレを合わせて生まれたのがエイムハイでした。
——ジムの経営は初めてだったと思いますが、どんな点に苦労しましたか?
格闘家としてトレーニングに励んできたので知識はありましたが、一般の方への指導経験がなかったので、伝え方や強度調整に苦労しました。開業当初はお客さまの入りも悪く、最初の2ヶ月間の月の売上は10万円ほどしかなく、非常に厳しい状況でした。しかし、そこから「お客さまの求めるもの」を考え、強度を抑えたり楽しさを追求したりと改善を重ねていったら徐々に良い口コミが増えて、3ヶ月目には売上が100万円にまで増えました。
——売上が10倍とはすごいですね。指導方法を変えたことや口コミ以外にも集客につながる何かがあったのでしょうか。
パーソナルトレーニングでミット打ちを行うのですが、あの動きって人に見せたくなるんですよね。「ムービーを撮りたい」というお客さまが多くて、皆さんSNSに投稿してくれたことも、エイムハイの認知度拡大につながりました。
あと、「元格闘家」や「K1ファイター」を看板や広告で全面に出さないようにしていることや、上半身裸でのトレーニングを禁止にしていること、プロ用のレッスンは一般の方から見えないようにしていることも、入会しやすい雰囲気づくりにつながっているのだと思います。
——選手とジム経営の両立は大変だったのではないでしょうか?
開業2ヶ月ほどでトレーナーを採用して現場を任せることができたんです。僕はジムの経営で収入が確保できるようになって、選手としての練習に専念できるようになったことで、翌年、キックボクシングジムイベント「Krush.75」でスーパーライト級王座を獲得することができました。
「Krush.75」でスーパーライト級王座を獲得した中澤氏
2. 「売上はお客さまを笑顔にした数」罪悪感を払拭し売れるトレーナーに
——店舗数の増加とともにトレーナーの数も増えていると思いますが、教育で注力していることはありますか?
特に職人気質なトレーナーに多いのですが、入会を勧めるなど「売ること」に罪悪感を感じてしまう子がいます。僕は先輩から教えられた「お客さまを笑顔にした数がお金の数だ」という言葉がとても気に入っているんですが、自分たちのサービスでお客さまを笑顔にできるなら、どんどん売ったほうがいいと思います。だから教育では、「自分たちはお客さまに価値あるサービスを提供していて、売ることはお客さまを幸せにすることなんだ」というマインドを浸透させることに力を入れています。
——確かに指導は得意だけれど営業は苦手、というトレーナーの方は多いと聞きます。
マインドが変わって売ることができるようになると、自信がつき、それに伴って意識や行動もより良く変わります。それでも高額な商品になると躊躇することがあるようですが、高額な商品を購入したお客さまほど「やるしかない」というスイッチが入って目的を達成しやすい傾向があります。例えば当社には短期集中のダイエットプランとして、30万円と20万円のコースがありますが、30万円コースに申し込んだ方の目標達成率はほぼ100%と、20万円コースの方より高いんです。この結果から見ても、30万円コースに申し込んだ方のほうが幸せになっているということですよね。
——トレーナーさまの評価について、指導内容や売上のほかに、見ているポイントはありますか?
お客さまからお土産をもらうことも評価の対象にしています。ジムの外でもそのトレー ナーのことを考えてくれるぐらい、信頼関係が構築できている証ですから。
3. 格闘家のセカンドキャリアを後押しする場に、部活動への参入も夢
——今後の展開について教えてください。
エイムハイが、格闘家のセカンドキャリアをサポートする場になれば良いなと考えています。独立を希望する子がいれば、FCオーナーになってもらうか、またはのれん分け、子会社化するなど、いくつかのパターンを準備して後押ししていきたいです。
複数のパターンを用意する理由は、FCやのれん分けの形式だと、やってほしいこと、やったほうがいいことがあっても、徹底させることが難しいです。その点、子会社であれば、僕の意志を反映できるので、ビジネスとして成長させやすくなります。それぞれ、メリット、デメリットがあるので判断が難しいところですが。
——店舗が増えたら、さらにいろいろなビジネスができそうですね。
簡単ではないと思いますが、いつかキックボクシングが部活として認められて、さらに僕たちがその指導を担当できたら嬉しいです。そのためにも、まずは経営者として今の事業をもっと伸ばして地域の財政に貢献し、群馬県知事自ら「会いたい」と言ってくれるぐらいになりたいですね。
——最後に、これから起業を考えている方へのアドバイスをお願いします。
成功する魔法のレシピなどありません。成功するためにはとにかく行動して、たくさんの失敗経験を積むことに尽きると思います。あと、僕は流行っているからと、すぐに新しい事業に手を出すようなことはしないよう心がけています。自分が得意としていて実績もある、今の事業を伸ばしていくことが成功への一番の近道と考えています。