まだ日本におけるピラティスの認知度が低い時代から、世界最高品質のピラティスを普及すべく取り組んできたピラティスメソッドジャパン株式会社 代表取締役社長の櫻井淳子氏。同氏にこれまでの歩みや、日本における近年のピラティスブームについてどう感じているのか、お聞きしました。
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PROFILE
櫻井淳子 ピラティスメソッドジャパン株式会社 代表取締役社長
元物理化学研究者。妊娠・出産を機に体調を崩したことがきっかけで始めたピラティスの効果に感動し、ピラティスの追究を始める。考案者であるジョセフ・ピラティス氏より公式にピラティス指導者として認定されたロリータ・サン・ミゲェル氏の元で学び、2024年5月にドイツで開催された Internation Pilates Heritage Congressにて、同氏より公式な継承者として世界5人のなかの1人に、唯一のアジア人として選ばれるという快挙を成し遂げた。2010年に「PILATES BODY STUDIO」(静岡・沼津)、2021年に「Plates Legacy® Studio」(東京・目黒)を立ち上げ、世界最高品質のピラティスを発信し続けている。
1. 効果に感動しピラティスを探求。いつか来るチャンスを信じて準備を続け、夢の指導者に辿り着く
—— 櫻井さんはどのようにしてピラティスを知ったのでしょうか。
妊娠・出産を機にひどく体調を崩したことがきっかけでした。布団から起き上がれない状態が1年以上続いて「このままでは子どもを育てられない。なんとか体調を回復させなければ」と危機感を覚えました。自宅で、今の自分でもできるトレーニングをWebで検索してヨガの本を購入したつもりだったのですが、届いたのはピラティスについての本だったんです。
—— 想像と違っていた本が、結果的に櫻井さんの人生を大きく変えるきっかけになったのですね。その本にあるトレーニングを実施したら体調にどのような変化が起きたのでしょうか。
本には「30日で新しい体に生まれ変わる」と書いてあったのですが、今の自分はその3倍はやらないと変わらないだろうと、最低90日間続けるつもりで取り組みました。そうしたら徐々に体調がよくなり、まさに90日ほど経ったころには、約1年半ぶりに薬に頼らずに眠ることができたんです。
—— そこからどのような流れで指導者の道へ進んだのでしょうか。
ピラティスはかつての自分のように体調に問題を抱えて苦しむ人々の助けになるのかもしれない、ピラティスの本質を深く学びたいと強く思いました。それには考案者のジョセフ・ピラティスから学ぶことが一番ですが、残念ながら亡くなっていました。でも、彼から直接、公式にピラティス指導者として認定された方がまだ2人いることがわかって、ぜひその方(今の師匠であるロリータ・サン・ミゲェル:以下、ロリータ)に教わりたい!と思ったんです。
ピラティスに関する資格はゼロ、英語もできません。チャンスもいつ来るかわかりませんが、いざチャンスが来た時にしっかりつかめるよう、ひたすらピラティスを学び続けました。指導スキルも上げる必要があると思い、ある程度知識やスキルがついてきたら、学んだことをアウトプットするため公民館で指導を始め、2010年には静岡に自分のスタジオ「PILATES BODY STUDIO」を立ち上げました。当時はスタジオで指導しながら育児をし、深夜には自宅で自主練習という日々でした。さらに、言葉の壁にぶち当たりながらも積極的に海外での修行にもチャレンジをし続けてきました。
—— 寝たきりの状態からそこまで動けるほどに体調が回復したと考えると、すごいですね。そうしていよいよチャンスが巡ってきたのでしょうか?
ある日、ロリータが新たな生徒を募集するという情報が入ってきたんです。参加には、指導履歴や指導内容、参加したい理由を綴った論文の提出が必要など、いくつかの応募要件が設定され審査がありましたが、すべてクリアできました。長年「いつかチャンスが来る」と信じてコツコツと準備してきたことがまさに活きた瞬間でした。
2. 認知が低い時代、ピラティスの価値を伝える“教育”で開業時に80名を集客
—— 「PILATES BODY STUDIO」を立ち上げた2010年当時はピラティスに対する認知度はまだ低かったと思いますが、集客はどのように行ったのでしょうか。
当時はピラティスと伝えても「何それ?ティラミス?」という反応をされる時代でしたね(笑)。しかも、公共施設で低価格な運動講座がたくさん提供されていたので、価格だけ見たらピラティスは選ばれません。そこで、ピラティスの価値を知ってもらうための“教育”に力を入れようと、開業の半年前からピラティスの素晴らしさを伝えるブログを書き続けました。そして、いざ開業したら「ずっと興味があった」と言う方がたくさん来てくれたんです。このブログと、地域誌の8万円の広告だけで80名もの方が来てくれました。
—— 2021年には東京・目黒にも店舗を開業しています。お客さまの反応など、静岡の店舗と何か違いは感じますか?
東京はジムやスタジオが多く、情報も豊富です。希望すればすぐに体験にも行ける環境が整っているため、人は自然と能動的になります。そのため、自ら調べて比較した上で当社に来てくれる方が多いです。一方の静岡の方々は、どちらかというと受動的になりがちなので、HPを充実させるなど、こちらから情報を提供することが大切だと感じています。そこをきちんと対応すれば「世界レベルのものを地方でも受けられるなんて」と、皆さん喜んで来てくれます。
—— 質の高いレッスンを提供するためにはインストラクターの養成も大切になると思います。
だから当社では、養成コースへの申し込み方法が複数あったり、お金を振り込む最終段階で「本当に挑戦しますか?」と確認をいれて「本当に自分がピラティスを極めたいのか」と自問するようなステップをあえて設けています。当社の養成コースで学ぶにはそれなりの高い意識をもって取り組んでいただく必要がありますから。
3. 本質を究め、ピラティスの公式継承者に唯一のアジア人として選出、今後は後進の育成に注力
—— 櫻井さんは、近年のピラティスブームで店舗が増えている状況についてどのように感じていますか?
アメリカでも、今の日本と同じようなピラティスブームがかなり前に起きたんです。当時はピラティスの本質をきちんと学んでいない人たちがピラティスを広めていくことに対して論争が巻き起こりました。でも、私の考えとしては、安全をきちんと担保した上であれば、人々が体を動かすきっかけになるのでいいことなのではないかと思います。ピラティスの裾野が広がることで、「もっと本質を知りたい」という方も出てくると思いますし、そういう方が指導者の道へ進んでくれれば業界の発展にもつながるはずです。
—— 活動の範囲を着実に広げていますが、今後挑戦してみたいことがありましたら教えてください。
ジョセフ・ピラティスの唯一の公式認定者2人のうち、現在も指導しているのはロリータだけですが、彼女もまもなく90歳を迎えます。今年、ロリータが公式な継承者(第二世代ピラティスティーチャー)として世界から5人を選び、私もそのうちの1人に選出されるという、想定外のことが起こりました。これで、ピラティスの本質を継承したいという私自身の夢は叶いました。
これからは後進の育成と、これまで通り最高品質のレッスンを提供することに情熱を注いでいきたいと思います。そのためにも、全国に最高品質の指導者を育成するためのトレーニングセンターを設置したいと考えているんです。ピラティスに必要な本質的なマシンやツールがすべてそろっていてスキルアップに努められるだけでなく、ピラティスの本質に触れられる場所になればと考えています。