株式会社108&Co.は、2019年にAsuka氏と鈴木氏が創業し、ヨガブランド「108.Tokyo」の展開をスタートしました。ペルソナを自分たちに設定し理想を追求した商品は、これまでにない華やかなデザインで注目を浴び、販売数を増加。過去最高売上を達成したタイミングの2024年4月、全国に店舗を展開する大手フィットネス企業に事業を譲渡しました。社会人経験も十分でなかった2人がどのようにして理想の商品を実現し、事業として成長させていったのでしょうか。その過程で起きた学びや失敗談をお聞きしました。
INDEX
PROFILE
Asuka 株式会社108&Co. CEO/鈴木 史弥 同 マネージャー
学生時代からの親友であったAsuka氏と鈴木氏が2019年、理想のヨガグッズを実現するために株式会社108&Co.を創業。ヨガブランド「108.Tokyo」を展開し、従来の商品にはない華やかなデザインで順調に販売数を拡大し、2024年4月に過去最高の売上を達成したタイミングで全国にフィットネスジムを展開する大手フィットネス企業に事業を譲渡した。現在は、2019年10月にオープンしたパーソナルジム「Style.Tokyo」を運営する他、これまでの経験を基にフィットネス事業に関するコンサルティングやM&Aの認知拡大に向けた講演会を行っている。
1. これまでにないヨガマットを作るために起業を決意
1-1. アルバイト時代の親友と起業に向けてスタート
福井県で生まれたAsuka氏と鈴木氏は高校時代のアルバイト先で出会い、親しくなりました。高校卒業後、Asuka氏はブライダルヘアメイクアップアーティストを経てヨガのインストラクターに、鈴木氏はネイリストとして活動するなど、しばらくは別々の業界で働いていましたが、Asuka氏が抱いていたある想いが、起業に向けて2人で動き出すきっかけとなりました。
「ヨガマットはシンプルなものが多く、もっと可愛いものがあれば楽しく運動できるのにと感じるようになったんです。そうすれば、ヨガに取り組みたい方やもっと続けたいと考える方が増えるのではないかと思いました。どんどん実現させたい気持ちが強くなって、鈴木に手伝ってくれないかと連絡したんです」(Asuka氏)
突然の提案に驚きつつも、「アルバイト時代も『将来、一緒に仕事をしたいね』と話していたほど呼吸が合うことを感じていた」という鈴木氏は快諾。2人で理想の商品を実現するため動き出しました。
1-2. 想いを発することでビジネスが形に
ビジネスに関する知識は全くありませんでしたが、「この商品を待っている方は絶対にいる」という強い想いだけはあり、出会う人々に自分たちの想いを伝え続けました。すると、ヨガマットの生産やプリント工場、仕事部屋の物件を紹介してくれる方が現れ、少しづつビジネスが形になっていきました。
2019年にはネーミングに仏教の用語「煩悩(欲)」の数を用いた株式会社108&Co.を創業。ネガティブな意味で使われやすい「煩悩(欲)」ですが、誰もがもつものであり、人が前へ進む力になるものであるというポジティブな意味を込めました。
2. 届いた粗悪品や売れ残った商品、数々の失敗が成長の糧に
ヨガマットの開発や販売に取り組み始めた当初は様々な失敗も経験しましたが、一つひとつの経験が、ビジネススキルの向上やビジネス自体の成長につながりました。
2-1. 翻訳アプリを利用した発注で粗悪品が届く
ヨガマットの生産は中国の企業へ依頼しましたが、当初届いたのは粗悪品でした。日本語を翻訳アプリで中国語に変換して発注メールを作成していたことで、「現地の方からしたら文章がぎこちないので、ビジネス相手として認められていなかったんだと思います」と、Asuka氏は粗悪品が届いた要因を分析します。
「当時はお金を使うべきところもよくわからなくて、気軽に翻訳アプリに頼ってしまったんです。粗悪品が届いたことで、決して安くはありませんでしたが、中国語が使えて、中国でビジネスの経験がある方にコーディネーターを依頼しました」(鈴木氏)
品質に関するチェックシートも作成し、チェック項目を細かく設定。加えて、Asuka氏や鈴木氏による商品画像のチェックをクリアしてから発送してもらうことで、高い品質を実現しました。
2-2. 「売れるに違いない」大量のヨガマットを持ち込むも約半分が売れ残る
完成したヨガマットを初めてお披露目したのはフィットネス業界向けの展示会でした。商品に自信のあった2人は「売れるに違いない」と大量のヨガマットを持ち込んだものの、約半分が売れ残りました。
「ヨガでは自分自身に向き合うことが大切。そういう意味で、ヨガに取り組む人々は『今の自分に必要かどうか』をしっかり考えるのかもしれません。インフルエンサーや人気のインストラクターの方に商品を紹介もしてもらいましたが、思うような売上にはつながりませんでした」(Asuka氏)
想いや勢いだけでは売れないことを学んだ2人は、売れ残った商品をスタジオやインストラクターへ無料で貸し出すことで、地道に認知を広げていきました。
2-3. 商談で好反応も、届かない発注連絡
営業先より好反応を得て、生産を進めていたが資金不足により途中で話が頓挫するということも何度か起きました。Asuka氏は当時を振り返り、「全て口頭でのやりとりだったため、相手が軽い気持ちで話した言葉にも過剰に期待してしまったんです」と反省します。しかし、周囲からのアドバイスを受け、商談の際はしっかりと議事録を作成し、相手に小まめに状況を確認するようにしたことで、認識の相違が起こることもなくなりました。
3. 創業翌年に新型コロナが発生、SNSに商機を見出し販路を拡大
株式会社108&Co.を創業した翌年の2020年は新型コロナの感染拡大が始まった年でした。フィットネスクラブは休館を余儀なくされ、働く場所を失ったインストラクターの中にはYouTubeやTikTokに活動の場を移した方も多くいました。2人はここに商機を見出します。
「多くのコンテンツがひしめくSNS上で注目されるのは容易ではありません。当社のヨガマットは名前や写真をプリントできるので、差別化アイテムとして利用いただけるのではと考えました」(Asuka氏)
インストラクターの方に連絡を取ると狙い通り好評を得て多くの方に利用していただくことができ、ヨガマットの認知を広げることにつながりました。
4. 過去最高売上で事業を譲渡、経験をもとに中小企業のサポートに取り組む
ヨガブランド「108.Tokyo」は順調に成長していきましたが、家族が営む介護事業を手伝うために鈴木氏がブランドを離れることを機に、事業譲渡を決意。M&Aの仲介会社を通じてオファーを受けた大手フィットネス企業へ、過去最高売上を達成した2024年4月、事業を譲渡しました。
自身が一からビジネスを立ち上げ、事業譲渡に成功した経験を元に、株式会社108&Co.では現在、起業サポートや、フィットネス店舗の経営に苦戦している中小企業へのコンサルティングを行ったり、M&Aについての講演会を実施しています。「想いを持って立ち上げた事業がうまく行かなくても、すぐに辞める決断はしないで欲しい」とAsuka氏は語ります。M&Aを活用することで、新しい形で事業を継続・成長させてくれる企業と出会える可能性があります。この手法は決して大手企業だけが活用するものではなく、中小企業にとっても身近な選択肢であることを知ってもらうため、同社では今後も積極的に取り組んでいく予定です。