株式会社hacomono(以下、hacomono)は12月3日(火)、業界の有識者4名をお招きして「hacomono Fitness Headlines 2024」を開催しました。それぞれの方にはディスカッションに先立ちインタビューを実施し、2024年にフィットネス業界で起きたニュースの中から特に注目した3つを選んでいただきました。約25年間に渡り大手総合クラブで勤務し、現在はhacomonoでマーケティングを担当する鶴橋 亮が、そのニュースを選んだ理由や得られた示唆について聞きました。
INDEX
PROFILE
鈴木 太郎 株式会社MIGRIDS 代表取締役
メーカーでの勤務後、フリーランスとしてオンラインでの物販販売や、Webメディア運営事業などを手がけた後、2018年に株式会社MIGRIDSを起業。2019年より「ELEMENT」を展開し、2024年現在、首都圏を中心にフランチャイズも含めて50店舗を展開する。2022年からスタートしたパーソナルマシンピラティスも1年間で27店舗まで展開するなど、順調に事業を拡大している。
1. 暗闇ボクシング「b-monster」、ワールドフィットへ譲渡
—— なぜこちらを選んだのでしょうか。
暗闇フィットネス業界を牽引してきた企業が事業を譲渡したことも驚きでしたが、譲渡先がパーソナルジム「BEYOND」を展開する株式会社ワールドフィットであったことも衝撃でした。パーソナルジムを中心事業とする企業が他社のフィットネス事業、それもスタジオ事業を購入するという取り組みはフィットネス業界でもほぼ初めてだと思います。
—— 2024年を振り返ると、パーソナルジムとピラティスが大きく躍進した年でした。一方で、パーソナルジムでは成長する企業と苦戦する企業の差が広がっています。「24/7Workout」がNOVAホールディングスに買収されたニュースもありましたが、この件について経営者としてどう感じていますか?
「24/7Workout」は「RIZAP」に続くかたちで短期間でのダイエット効果を謳い上場もしましたが、「RIZAP」が英会話やゴルフなどに次々着手していったのに対して、そこに追随する感じでオリジナリティを出せなかったのがもったいない印象でした。フィットネス業界は変化が激しいため、他にはない新しい取り組みに着手していくことが成長の鍵だと感じています。
—— 現代は特に変化のスピードが早いですから、プロダクトライフサイクルを見据えて新たなプロフィットセンターを作り続けていくことが大切かもしれませんね。このようなニュースを踏まえて、今後、自社で取り組んでいこうと考えていることはありますか。
当社の規模では、1つの店舗が接点を持てるお客さまの数は数十名から多くても100名程度で、24時間ジムや総合クラブと比較すると圧倒的に少ないです。企業として成長するためには、より多くのお客さまと接点をもてる施策を実行していかなければと感じています。
—— 成長していくためには多角的な経営が必要であると考えられているのですね。具体的に考えている施策はありますか。
当社は創業以来、「運動の習慣化」に注力してきました。その結果、現在ではお客さまの約9割が「週2回以上」の運動を行っており、「運動の習慣化」が実現できていることがわかったため、次のステージへ移ろうとリブランディングを実施しました。現在は、「一人ひとりの健やかな時間を拡張し、人生を通して感じる、幸せの総量を増やす。」をビジョンに掲げています。このビジョンを実現するためにも、より幅広い商品・サービスを提供していきたいと考えています。
—— パーソナルジムは「卒業」が伴いやすく、顧客との関係が短期的になりがちです。今後は業態にこだわらず、顧客と長く関係を築く取り組みを進めるということでしょうか。
当社に入会されるお客さまの9割は運動初心者で、運動が苦手な方が多い傾向にあります。しかし、「卒業」する時には入会前よりも運動が好きになっていて、食事や生活習慣など健康意識も向上しています。そのため、将来的な展望としては運動だけでなく食事や衣服といったさまざまな分野からアプローチすることで引き続き、お客さまと接点をもち続けられると考えています。
鈴木 太郎氏
2. 日本のフィットネス市場、令和5年は4,886億円/「ELEMENT」累計会員数が4,000人を突破
—— こちらを選んだ理由は何でしょうか。
まず、フィットネス市場規模については、単純に嬉しかったからです。新型コロナの発生によりフィットネス業界は大きな苦しみを味わい、この業界の先行きに不安を感じたときもありましたが、売上がコロナ前に近い規模まで回復し、このままの勢いで今後も盛り上がっていくであろう兆しを感じました。
—— 追い風を受けて、取り組んで行こうと考えていることはありますか?
今後の取り組みは、自社のことで恐縮ですが3つ目として選んだ「『ELEMENT』累計会員数が4,000人を突破」というニュースにも関連しています。この要因には、マシンピラティス業態の成長が影響しています。2023年は1年間で27店舗をオープンしました。このマシンピラティスとパーソナルジム事業に取り組んできたノウハウを活かして、来年からは地方で運営しているスポーツ施設との協業に力を入れていきます。
地方には、長年その地域で愛されているスポーツ施設がたくさんあります。そのようなスポーツ施設のなかには、成長に向けて新サービスを開発したくても、人やノウハウの不足から取り組めないという施設もあります。そのような施設に「ELEMENT」のマシンピラティスやパーソナル事業を提案することで、新しいサービスの実現をお手伝いしたいと思っています。
—— フィットネス業界としても、これからは「競合」ではなく「共創」することが大切になると感じますか?
そう思います。当社はすでに、パーソナルジムの「REAL WORKOUT」や「ExerciseCoach」、24時間ジムの「RETIO BODY DESIGN」や「VERUS」と共創し、各店舗のなかで当社のサービスを提供し、売上が上がっている店舗もあります。今後は総合クラブとも、より共創できたらと考えています。長年パーソナル指導に取り組んできた経験を活かし、スタッフの方々にパーソナル指導やマシンピラティスの研修を提供することで、スキル向上やサービスの充実を図り、店舗の価値をさらに高められると考えています。
—— 皆さんがトレーニングベンダーとしてサポートを提供していくのですね。「REAL WORKOUT」や「ExerciseCoach」は本来であれば競合ですが、どのような経緯で協業に至ったのでしょうか。
REAL WORKOUT池袋東口店で当社のサービスを提供しているのですが、同店は広く、活用できていないスペースがあるという課題をお持ちでしたので、そのスペースをお借りするかたちでマシンピラティスの指導を提供しています。当社としては顧客を拡大できるうえ、「REAL WORKOUT」はスペースの有効活用につながるということで、協業することができました。「ExerciseCoach」はFC店舗で、オーナーさまがマシンピラティスという新しいサービスを取り入れたいということでお問い合わせいただき、本社にも話を通してくれました。その店舗では、「ExerciseCoach」と当社のマシンピラティスの両方に通える新しいプランも設定し、運営も順調です。
パーソナルジム1店舗で、その地域に住んでいる全ての方をカバーすることなどできません。そうならば、むしろ手を取り合ったほうが、多くのお客さまの健康に貢献できると思います。