大阪に2校を構える「アインス体操クラブ」(以下、アインス)は、国際大会を目指す選手から、初めて体操を始める2歳児まで、多くの生徒が通う体操クラブです。在校生や卒業生は多くの大会に出場し、華々しい記録を残しています。「アインス体操クラブ」を運営する株式会社アインス代表の冨岡直彦氏に、立ち上げ経緯や事業の方針についてお伺いしました。
INDEX
PROFILE
冨岡 直彦 株式会社アインス 代表
小学校5年生から体操を始め、全国高等学校総合体育大会や全日本選手権へ出場するなど体操選手として活躍。多くのオリンピックや世界選手権日本代表選手を輩出してきた清風高等学校や日本体育大学の体操競技部では副キャプテンを務め、全国高等学校総合体育大会で団体総合2連覇に導いたほか、国内最大のスポーツ大会である国民体育大会では優勝を経験。選手引退後は「トミオカ体操スクール」で体操指導者としての経験を積む。2016年4月、株式会社アインスを設立し「アインス体操クラブ」の運営を開始。キッズコーディネーショントレーナーとしての資格を活かし、一人ひとりの子どもたちの才能を開花させるべく指導にあたっている。
1. 両親が経営する体操スクールの生徒数2倍を達成、分社化し経営者として体操クラブをオープン
—— アインス体操クラブを始められた経緯を教えてください。
もともと両親が「トミオカ体操スクール」という体操スクールを経営していたんです。その影響で、小学校5年生から体操を始め、選手として体操に打ち込んできました。オリンピック出場を目指していたのですが怪我をしてしまい、選手を引退して両親の体操スクールで指導者として働くことにしました。その後、「自分の城を持ちたい」という気持ちになり、分社化して株式会社アインスを設立し「アインス体操クラブ」を始めました。
—— 分社化は問題なくできたのでしょうか。
両親は末っ子の私にスクール経営ができるのかと不安だったようで、「試しにやってみなさい」と、生徒数が180名ほどで伸び悩んでいた生野校の立て直しを任されました。結果、3年後には生徒数400名まで伸ばすことができたうえ、毎年スクール内でやっているトミオカ杯という大会でも他校を圧勝することができたんです。体操指導者としても経営者としても、独立してやっていけるだろうと認めてくれて、分社化できました。
—— 3年間で生徒数を倍以上に増やされたんですね。どのような施策を実施されたのでしょうか。
生徒が通いやすい時間割に変えたり体験枠を増やしたり、体験から1週間以内にフォローの電話を必ず入れたりと、当たり前のことを当たり前にやっただけなんです。生徒や保護者へ感謝の気持ちを表すために実施した、還元イベントなども効果がありました。「ワンコイン体育館開放」というイベントで、500円で「アインス体操クラブ」の体育館を開放し、生徒や生徒の関係者が自由に使えるようにしたんです。生徒が友だちを連れてきてくれて、目の前でバク転をやって見せたりすると「僕もやりたい!」とその友だちが入校してくれたりと、生徒や保護者への還元イベントのはずが、思わぬ集客につながりました。
2. 指導者から経営者へ。大量離職に直面し、スタッフの個性重視や待遇改善の経営改革に取り組む
—— 体操クラブの指導者から経営者になられたわけですが、指導者と経営者の違いは何だと感じていますか。
経営者は決断を下し、責任を負う立場であることだと思います。自分が責任を負うという覚悟があれば、思い切った変革もできます。例えば以前、保育士と体操の先生が在籍している「スポーツ学園」というコースがあったのですが、そのコースを「体操学園」という認可外保育園にしようとしたんです。その際に、私の考えとのズレから保育士さんが全員辞めてしまって。元々会社に対して不満があったところに、「体操学園」の件が引き金になってしまったんですね。その時はとても辛い思いをしました。
—— 経営的にも大変だったと思いますが、どのようにリカバリーされたのでしょう。
「体操学園」は閉鎖するしかないかとも考えたのですが、本当に困った時というのは、不思議と助けてくれる人が現れるんですよね。保護者の方が「実は保育士免許を持っているので、手伝いましょうか?」と言ってくれたりして、なんとか「体操学園」をスタートさせることができました。
—— 助けてくれる人が現れたのは、冨岡さんのお人柄でしょうね。そういった苦い経験から何か学ばれたことはありますか。
やはりスタッフを大事にすることですね。一人ひとりの個性を大切に、経営者として強みを活かせるように心がけています。待遇面では、それまで出していなかったボーナスを支給するようにしたり、有休が取りやすくなるように人員体制を整えたりしました。引き続き、給与のベースアップなど、できることから少しずつ待遇面の改善には取り組んでいきたいと思っています。
3. 動画や画像を保護者に共有することで安心感を提供し、継続を促進
—— 生徒たちも華々しい成績を残されていますが、生徒への指導などは体系化されているのでしょうか。
先生たちにそれぞれの個性を発揮してもらうためにも、指導法は各先生に任せています。一人ひとりのキャラクターを活かして、その先生らしく子どもたちと接してもらっているんです。色々なキャラクターの先生がいることで、色々な子どもたちを受け入れられるスクールにしたいと考えています。
—— 保護者とのコミュニケーションはどのように取られていますか。
定期的に合宿を実施しているのですが、前もって生徒には「この合宿でバク転をマスターする!」など目標を決めてもらいます。そのうえで、合宿の様子を動画で撮影しておくんです。初めてバク転ができた瞬間を撮影できたら、それを関係者のみが閲覧できる掲示板で保護者に共有するのですが、とても喜ばれます。「合宿ではこんなことをやっているのか」と合宿内容の共有にもなり、安心感につながっているようです。
—— 合宿の様子がわかることで保護者も安心できますね。
一般的に、合宿やイベント開催において集客には力を入れるけれど、実施後の取り組みは軽視しがちだと思うんです。「アインス体操クラブ」では、掲示板で合宿の動画や画像を共有したり、参加した子どもに「合宿に参加する前の目標に対して合宿で何ができるようになったか」などを書いてもらった紙を掲示するなど、合宿の様子や成果を見える化することで、次回の合宿への集客やスクールの継続につなげています。
—— 冨岡さんはずっと体操に関わってこられていますが、現在の体操業界について感じている課題はありますか。
世間へのアピールが足りないことでしょうか。体操は陸上スポーツの基本です。走ったり、飛んだり跳ねたりするために必要な体のバランスを取るスキルは、どのスポーツを行う上でもアドバンテージになります。2歳くらいから体操を始めておくことで、体も柔らかく、自由に扱うことができるようになります。このようなメッセージをもっと発信した方がいいと考えています。
—— 「アインス体操クラブ」の、今後の展望について教えてください。
体操競技はドイツが発祥なのですが、アインスというのはドイツ語で「一番、最上級」という意味なんです。大阪は日本の中でも体操クラブが多い方なんですが、その中で競技力や集客など、すべてにおいて一番を目指したいと「株式会社アインス」「アインス体操クラブ」と名付けました。今後もそこはブレずに、関西、そしてゆくゆくは日本で一番を目指して頑張っていきたいと思います。