【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
【後編】はこちらから
「マナビバ」は、ミドル・シニア層をターゲットにした健康スタジオです。運動系とカルチャー系を合わせて40種類以上と豊富なレッスンを提供しています。同世代が集う気楽さや楽しさもあり、コロナ禍中もお客さまからは「絶対に閉めないでほしい」とお願いされたといいます。「マナビバ」を運営する株式会社スマイルラボの水野 佑希氏に、ミドル・シニア層をターゲットとしたビジネス運営のポイントについて伺いました。
INDEX
PROFILE
水野 佑希 株式会社スマイルラボ 取締役 兼 事業本部長
IT企業でエンジニアとして従事した後、株式会社スマイルラボへ転職。エンジニアとしての経験を元に、アナログであったレッスンの予約手続きを「hacomono」でオンライン化したほか、データを元にした分析で積極的に運営の改善に取り組んでいる。
1. ミドル・シニア層の健康増進に立地やサービスに工夫を凝らした「マナビバ」を考案
「マナビバ」は、以前に老人ホームを経営していた代表の成田が、そこでさまざまな方と接した経験より生まれました。老人ホームには、ご本人は望んでいないけれども、介護の必要性からやむなく入居してくる方がたくさんいらっしゃいます。介護が必要な状態になるのをできる限り遅らせるために、ミドル・シニア層への予防介護にもっと力を入れる必要だと感じたことが、「マナビバ」を発案するきっかけでした。予防介護に取り組むことは、健康寿命の延伸にもつながります。
「マナビバ」では、ミドル・シニア層の多くの方に気軽に参加していただけるよう、立地やプログラムに次のような工夫を施しました。
・プログラム
日々、いきいきと過ごしていただける状態をつくるためにも、「マナビバ」では身体能力を高めるフィットネスプログラム「カラダレッスン」と、脳を刺激するカルチャープログラム「アタマレッスン」を用意しています。プログラム数の割合は前者が8割、後者が2割と、「カラダレッスン」を中心に提供しています。
フィットネスプログラムでは、フラダンスやストレッチなど複雑な動きがなく強度が低いものを中心にそろえており、カルチャープログラムでは、ペン字や英会話など、集中力や意欲の向上が期待できるものを提供しています。
・立地
出店にあたっては、実際に出店を検討している場所に何度も足を運びました。その地域に住んでいる世代について調査を行うことはもちろん、データだけでは把握できない、ミドル・シニア層の活動状況を調査するためです。そこで元気に活動しているミドル・シニア層が多いと感じた地域を選び、気軽に利用してもらえるよう商業施設内を中心に店舗を展開してきました。「自宅からすぐ通える」「買い物ついでにふらっと立ち寄れる」ことを重視しています。
通りすがりの方がレッスン風景を自由に見られるよう、施設には通路に面して小窓をつけました。実際、小窓からのぞいている方に店長がお声をかけて入会に至るケースも多く、小窓の効果は大きいですね。
レッスン時間は、1時間ではやや長く、30分では短いと考え、中間をとってすべて45分間としました。
・ホームページ
予防介護を目的に立ち上げた「マナビバ」ですが、お客さまがご覧になるホームページではあえて「予防介護」という言葉は控えています。「介護」と書くと重々しい雰囲気が出てしまいますし、「まだ自分には必要ない」と感じてしまう可能性が高いためです。心と体を元気にする健康スタジオとして、楽しさをアピールしています。
ホームページの導線は、わかりやすくするためにシンプルさを追求しました。そのため掲載している情報も最低限にとどめ、不明点があれば問い合わせてもらうようにしています。お問い合わせフォームを用意していますが、電話に慣れ親しんだ世代であるからか、電話が多いですね。同じように、体験予約もホームページから可能ですが、直接店舗に来て予約される方がほとんどです。
2. 女性に寄り添うカウンセリングで「私には難しそう」から「私にもできそう」へ
体験に来られるお客さまのうち、特に女性の特徴として、興味や意欲があるから体験に来たはずなのに、「私にはできないかも」「私には難しそう」と、自信がないことが挙げられます。「私にもできそう」と自信を持ってもらうためにも、カウンセリングでは、日ごろから興味がある分野は何か、体に痛いところはないかなどを丁寧にヒアリングして、一人ひとりの方に最適なレッスンを提案することを心がけています。
「マナビバ」への入会理由のほとんどは、「仕事や子育てがひと段落し時間に余裕があるから」というものです。フィットネスプログラムを中心に提供していることもあり、ほとんどの方が入会されるとフィットネスプログラムに参加します。過去に一般的なフィットネスクラブへ通っていたが、「幅広い世代が来るので混んでいる」「スタジオレッスンが若い子と一緒でついていけない」という理由で「マナビバ」へ入会された方もおり、ミドル・シニア層向けへとターゲットを絞っていることに安心感を覚えてくれているようです。
3. 会員は女性が9割・平均継続年数は2〜4年、同世代の安心感が好影響
会員層は、9割以上が女性です。1割の男性も、奥さまとともに入会されている方がほとんどですね。女性が多い分、店舗は驚くほど賑やかですよ。初対面の方ともすぐに打ち解けて、女性はコミュニケーション能力が本当に高いなと感じます。
毎回、レッスンにはほぼ同じ方が参加されるため、コミュニティが醸成されやすい状況です。レッスン仲間ができるため、一度入会されたお客さまは比較的長く継続されます。会員の平均継続年数は2〜4年ほどです。ここで友だちになることで興味が広がってほかのレッスンに一緒に参加したり、一緒に食事に行くなど行動範囲が広がる方は多いです。
紹介入会もありますが、特典は入会金無料のみで、他のインセンティブはありません。紹介してくれた方にも感謝をお伝えするのみです。昨年までは双方にプレゼントをお渡ししていましたが、プレゼントを意識している方がいなかったため、今年から廃止しました。それでも、紹介が減るなどの影響はまったく出ていません。
プレゼントにかけていた費用は講師のインセンティブにまわしました。インセンティブで講師のモチベーションが上がれば、結果的に質のよいレッスン提供につながります。お客さまのためになる、より有意義なことに費用を使えるようになったと考えています。
なお、会員の年代的に「体調不良」を理由に退会や休会される方が出ることは、仕方がないことだと考えています。60代の方ですと「(80代や90代の)両親の介護のため」と言う方も最近は増えてきました。どちらも致し方ない理由ですから、強く引き留めるようなことはしていません。
4. 店長のレッスンが人気No.1、健全な店舗運営に必要なファン化
フィットネスプログラムで人気No.1は、各店の店長が提供する「マナビバ」オリジナルのストレッチレッスン、No.2はフラダンスです。どちらも強度が低く、複雑な動きもないので取り組みやすいことが人気の理由です。ストレッチレッスンに関しては取り組みやすさに加え、レッスンを提供する店長の影響がより大きいですね。どこの店舗の店長も人気があり、一定数のファンが付いています。「店長に会うためにレッスンに通っている」とおっしゃるお客さまも多いです。
店長の平均年齢は20代です。採用において経験よりも、清潔感のある見た目や、明るく元気であることを重視しています。お客さまにとっては、自分の子どもや孫に近い年代であることで、親しみやすさを感じられるようです。なかでも男性店長だと、女性のお客さまにとっては、自身の身なりを意識するきっかけにもなるようですね。心の健康にはとても重要なことだと思いますし、日々、お客さまが顔を合わせる店長が人気者であることは、店舗を安定的に運営していくためにも大切だと考えています。
カルチャーレッスンで人気No.1は、ペン字です。ミドル・シニア層の方はまだまだ手紙を書く習慣があるようで、もともと皆さんとても上手なんです。「書く」という行為に集中しているときは雑念も消えて、リラックス効果が得られることも人気の理由となっています。
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この記事は前編・後編に分けてお届けします。後編では、ミドル・シニア層に向けた集客戦略について紹介します。