子ども向けスクールは、ダンスの技術を教える場であると同時に、子どもたちが将来「どんな大人として生きていくか」を学ぶ場でもあります。
広島県を拠点に、創設から10年で会員数1,800名(島根県のクラスを含む)まで成長したダンススクール「BRED」は、ダンスを通じて子どもたちとインストラクター双方の“生き方”に向き合ってきました。
代表の寺西竜二氏は、かつてプロダンサーとして活動する一方で、一度はダンスの道を離れ、外資系製薬会社でビジネスの世界を経験した異色の経歴を持ちます。
その経験を経て再び地元・広島で立ち上げたBREDには、「ダンサーの社会的地位を上げたい」「ダンスで食べていける環境をつくりたい」という明確な意思がありました。
本記事では、BREDがどのようにして成長を遂げてきたのか、その背景にある3つの挑戦についてお話を伺いました。
INDEX
PROFILE
寺西 竜二(てらにし・りゅうじ) 株式会社BRED 代表取締役
15歳からダンスを始め、高校時代にはバトルコンテストで優勝。大学在学中もイベント主催やインストラクターとして活動するが、「ダンスだけでは食べていけない」という現実に直面し、一度ダンス業界を離れる。
外資系製薬会社、ベルギー系製薬企業での勤務を経て、2014年に地元・広島でダンススクールBREDを創設。現在は広島・島根エリアで会員約1,800名規模まで成長させている。
正社員インストラクター制度や、学生ダンス大会「SYNERGY」の運営などを通じ、ダンサーの社会的地位向上に取り組んでいる。
1. ダンスを一度離れたからこそ見えた、業界の現実
—— BREDを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
寺西:
僕はもともと野球少年でしたが、高校時代にダンスと出会い、人生が大きく変わりました。弟のダンス発表会で見た大人たちの姿が衝撃的で、「自分もこの世界で生きたい」と思ったんです。
高校3年ではバトルで優勝し、「ダンスで食べていける」と本気で信じていました。ただ、大学受験に失敗して浪人生活に入り、深夜のコンビニで働いたり、ロサンゼルスに修行に行ったりする中で、徐々に現実も見えてきました。
大学進学後もダンスイベントを主催し、インストラクターとして活動していましたが、「このままでは将来が描けない」と感じるようになったんです。そこで就職を選び、外資系製薬会社に入りました。
—— ダンス業界を離れてみて、どう感じましたか。
寺西:
ビジネスの世界に入ったことで、「働く」「生活を支える」という視点を初めて強く意識しました。同時に、ダンス業界が抱える構造的な課題も冷静に見えるようになったんです。
多くのダンサーやインストラクターが、レッスン単価に依存し、ケガをした瞬間に収入が途絶えてしまう。夢を追い続けたい気持ちがあっても、生活が成り立たずに業界を離れる人を、何人も見てきました。
「この構造を変えなければ、業界は良くならない」
そう思ったことが、BREDを立ち上げる原動力になりました。
2. 正社員インストラクター制度とSYNERGYが生む“新しい循環”
—— BREDの大きな特徴として、正社員インストラクター制度がありますね。
寺西:
はい。ダンス業界では、インストラクターは業務委託が当たり前です。でもそれだと、将来への不安がどうしても消えない。そこでBREDでは、インストラクターを正社員として雇用し、レッスン以外の業務にも携わってもらう形を取りました。
発表会やイベントの運営、新人育成、スタジオ管理、保護者対応など、ダンス以外の仕事も含めて関わってもらいます。そうすることで、年齢を重ねても働き続けられるキャリアが生まれますし、保護者からの信頼も高まります。
—— こうした雇用の仕組みを成り立たせるためには、一定の事業規模も必要になりますよね。現在の規模感について教えてください。
寺西:
今は広島・島根エリアで会員が約1,800名。2030年には広島県内だけで1万人を目指しています。そのためには、インストラクター全体で150名ほど、そのうち50名は正社員として活躍してもらう体制が必要だと考えています。
—— その成長を支える“拠点”として、広島PARCOへのスタジオ出店も印象的でした。
寺西:
PARCOは、単なる教室ではなく「文化を発信する拠点」にしたかったんです。
オープンして半年余りですが、体験レッスン数はこれまでの約1.5倍に増え、スタジオレンタルやイベント利用も広がっています。レンタルだけで月20〜30万円ほどの売上が出る月もあり、イベントと組み合わせると200万円規模になることもあります。
これからまだまだ伸びていくと確信しているプロジェクトです。
—— そして、その文化を“外の世界”へ広げているのが、学生ダンス大会「SYNERGY」ですね。
寺西:
SYNERGYは、大学生・高校生を対象にしたダンス大会で、次回で4回目になります。
参加費は無料、賞金総額は100万円。エントリー数は330名まで増えました。
多くのダンスイベントは、ダンサーが参加費を払う仕組みです。でもSYNERGYは、企業スポンサーに協賛いただき、ダンサーが挑戦しやすい環境をつくっています。
企業にとっては、ダンスを通じて学生の人柄や熱量を知る“採用接点”にもなっている。ダンサー、企業、地域がつながる循環を生み出したいと考えています。
3. 2030年、会員1万人へ。BREDが描くダンス業界の未来
—— 今後の展望について教えてください。
寺西:
2030年に会員1万人。その先は全国展開も視野に入れています。ただ、規模を大きくすること自体が目的ではありません。
僕がやりたいのは、ダンスを仕事にする人が、安心して人生を設計できる業界をつくることです。東京で経験を積んだダンサーが地元に戻り、正社員として働きながら次の世代を育てる。そんな「U型の働き方改革」を実現したいと考えています。
—— 最後に、BREDを通じて実現したい未来を教えてください。
寺西:
ダンスは夢が大きい。でも、現実が追いつかない世界でもあります。
だからこそ、BREDが目指すのはこれです。
「ダンスへの情熱が、そのまま仕事になり、
その仕事が自分の人生や家族を支えてくれる。
そんな当たり前を、業界につくりたい。」
ダンスを選んだことを、後悔しない人生にしてほしい。
BREDは、そのための場所であり続けたいと思っています。
—— 本日はありがとうございました。
編集後記
寺西さんの言葉は、ダンスの話でありながら「働くとは何か」を問い続けていました。夢を語るだけでなく、雇用や仕組みとして形にしていく。その姿勢こそが、BREDの成長を支えているのだと感じます。情熱が仕事になり、人生を支える。
そんな当たり前を本気でつくろうとする挑戦でした。
