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「子どもを教え込む」のではなく、“育つ力”を信じる。

2026.08.12

モンテッソーリ×音楽教育で未来の教育を創る、大城美有紀

子どもに「教え込む」のではなく、子ども自身が持つ“育つ力”を信じて引き出す——。

沖縄を拠点に、ピアノを中心とした音楽教室とモンテッソーリ教室を運営する大城美有紀さん。両教室をあわせて約300名の子どもたちが通い、「コンクールで勝つため」でも「受験のため」でもなく、一人ひとりが自分の感覚と興味に従って学ぶ環境をつくってきた。

母から引き継いだ公文教室を10年続けたのち、音楽教室を開校。リトミックの研修で出会ったモンテッソーリ教育に衝撃を受け、独学と資格取得を重ねながら、「音楽×モンテッソーリ」という珍しい掛け合わせの教育を形にしてきた。同じ建物の中で別業態として両方を運営する例は全国でも数少ない。

AIが急速に進み、子どもの教育格差が広がる時代。「幼児期に、どれだけ感覚を豊かにできるか」が子どもの一生を左右すると語る大城さんに、その教育観の原点と、未来への構想を伺った。

INDEX

PROFILE

大城 美有紀(おおしろ・みゆき) にじいろMusic School(音楽教室)代表
にじいろKids School(モンテッソーリ教室)代表

大城 美有紀(おおしろ・みゆき)

沖縄県出身・在住。3歳でピアノに触れるが、引っ越しなどで一度は習うことから離れる。音楽が盛んなキリスト教系の全寮制中学に進み、合唱・吹奏楽・ピアノ・声楽に打ち込み、音楽への思いを深める。

大学院を修了した年に母が病で倒れたことをきっかけに、母が営んでいた公文教室を引き継ぐ。結婚式で歌うブライダルの仕事と並行して公文教室を10年間運営したのち妹に引き継ぎ、音楽教室を開校。開校前には3年間、他の音楽教室で実務経験を積み、新規教室を80名規模まで育てるなど準備を重ねた。

開校に先立つ2011年、リトミックの研修の中でモンテッソーリ教育と出会い、2023年に教師資格を取得。現在は音楽教室2拠点とモンテッソーリ教室の1拠点を運営し、2024年からはピアノ指導者向けのオンライン講座も展開している。2026年アジア・モンテッソーリ・カンファレンスin 沖縄にて研究報告を行った。

1. 母の公文教室から始まった教育人生

—— まず、大城さんの”音楽との出会い”から教えてください。

大城: 母も小学校教員の資格を持つ公文の先生で、ピアノを弾ける娘に憧れがあったようなんです。「自分の子どもが生まれたら必ずピアノを習わせる」と決めていたそうで、私も3歳で最初に鍵盤に触れました。

ただ、そこから継続して習っていたわけではなくて、やったりやめたりという感じだったんです。小学校の低学年の頃は習っていたのですが、引っ越しで近所に教室がなくなって、習えなくなってしまって。それでもずっと「またピアノを習いたい」という気持ちは持ち続けていました。

—— その思いが叶ったのは、いつ頃だったのでしょう。

大城: 中学生になった時です。キリスト教系の学校に進んだのですが、そこがとても音楽が盛んで。合唱部も吹奏楽もあって、ピアノのレッスンも歌のレッスンもある。それを全部やっていました。そこから音楽に対する興味が一気に深まっていきました。

—— そこから、お母様の公文教室を引き継ぐことになったと伺いました。

大城: 大学・大学院と進み、大学院を修了した年に母が病気で倒れてしまったんです。そこで父とも今後について話し合い、公文教室を継ぐことになりました。

公文は週2回だったので、当時続けていたブライダル(結婚式での歌唱)の仕事も両立できました。「安定した収入を得ながら音楽活動も続けられるよね」と言われて、確かにそうだなと。引き継ぐときに「親孝行だから10年は続けよう」と決めて、ちょうど10年経ったところで妹に譲りました。

—— 公文を続けながら、音楽教室の開校準備も進めていたのですね。

大城: もともと10年で区切ると決めていましたし、やはり自分の専門である音楽に戻りたいという思いがありました。公文でも小中学生までは教えられるのですが、「ちゃんと音楽を自分の専門にしたい」と。

そこでブライダルをやめて、開校に向けて3年間、他の音楽教室にヘルプで入って実務を積みました。1店舗は100名規模の教室、もう1店舗は新規立ち上げの教室で、そこを80名まで増やすところまで手伝いました。戦略的に計画を立てて準備していたんです。

—— 満を持して開校された音楽教室は、どんなスタートでしたか。

「子どもを教え込む」のではなく、“育つ力”を信じる。

大城: ありがたいことに、初月から30名の方が入会してくださいました。隣の地域に教室はあったのですが満員だと聞いていたので、近くに開いてもご迷惑にならないなと。新興住宅地で、ガラス張りで教室の前に5台駐車できる——理想どおりの物件だったので、すぐに契約しました。翌年には100名を超えて、個人レッスン・グループレッスンで最大は約290名まで増えました。

2. 「この子に本当に合った教育なのだろうか」

—— 公文教室を運営される中で、感じていたことがあったそうですね。

大城: 公文に通う子の中には、勉強が好きで来ているというより、苦手だから来ているという子も多かったんです。地域性もあると思いますが、嫌々プリントに向かっている子を見ていて、「私は音楽の人間だし、別に勉強が好きじゃないなら無理にやらなくてもいいんじゃないか」と思うようになって。「好きなことに特化して没頭していってもいいんじゃないかな」と。

—— 何か 価値観が大きく変わるきっかけがあったのでしょうか。

大城: 昔、世界の同じ年齢の子どもたちの生活を比べる番組があったんです。その中で、フィリピンのスモーキーマウンテン——ゴミ山で暮らす子どもたちの特集を観ました。

鉛筆を持ったこともないような子たちが、「人の役に立ちたい」「お医者さんになりたい」と、目をキラキラさせて語っているんです。一方で、私の手元にいる子どもたちは、鉛筆も折れていて、靴も並べられない、宿題もやってこない、「勉強なんて嫌だ」と文句ばかり。

この二つの瞳を見比べたときに、「どうして目の前の子どもたちは、こんなに目に輝きがないのだろう」と思ったんです。与えられすぎていて、自分から学びたい、貪欲になる、というハングリーさが弱い。いつか、学ぶことが楽しいと目をキラキラさせた子どもたちを育てたい、とそのとき強く思いました。

—— そこから、ご自身で教育を学び直されたのですね。

大城: 児童心理学や学校教育の本をたくさん読んだり、海外の教育を勉強したりして、日本の教育と比較していきました。自分の中に「理想の教育」のイメージはあったのですが、それがまだ言葉にならなかった。後にモンテッソーリ教育を知ったとき、「これだ」と腑に落ちた——そんな感覚でした。

3. モンテッソーリ教育との衝撃的な出会い

—— モンテッソーリ教育とは、どのように出会ったのでしょう。

大城: 最初の出会いは、音楽教室を開く1年ほど前、2011年に受けたリトミックの研修でした。そのカリキュラムの中にモンテッソーリの考え方が入っていたんです。「私が探していた理想は、これだったんだ」と。

ただ、モンテッソーリの教師資格を取るには沖縄から毎月、県外に1週間通わなければならず、ハードルが高かった。しばらくして、学研さんがやっているオンラインの研修を見つけて、理論はオンラインで、実践は夏休みに1週間通って学べると分かったんです。ちょうどコロナ禍で教室も少し落ち着いていて、一緒に働く従業員からも「今なら行ってきていいですよ」と背中を押してもらえたので、そのタイミングで資格を取りました(2023年)。

—— 音楽とモンテッソーリは、相性が良いということでしょうか。

大城: とても良いんです。実は、リトミックを作った人とモンテッソーリさんは同じ時代に生きていて、お互いに影響し合いながら理論を育ててきた。脳科学や数値で測れない時代に、「子どもの精神・脳・体はこんなふうに発達するのだろう」という予測の中で築かれたものですが、もう130年の歴史があります。だから音楽の先生たちの間では、「音楽とモンテッソーリは相性がいい」というのはよく知られていることなんです。

—— 学ばれた中で、特に衝撃を受けたことはありますか。

大城: 子どもがハイハイして、向こうにある物を自分で取りに行こうとしている。そのとき、近くにいる大人が親切心で、その物を子どもの近くに寄せてあげる——これがモンテッソーリではNGなんです。

子どもは、そこまで自分の力で行って「やった、手に入れた」という達成感を得るはずだった。それを大人が半分にしてしまう。本人にとっては、成長の機会を奪われたことになるんです。良かれと思ってやっている手助けが、実は子どもの育ちの邪魔になっている。これは私にとって本当に衝撃的で、「日常的に、邪魔していることがいっぱいあるな」と気づかされました。

—— たとえば、どんな場面でしょう。

大城: 「靴を片付けなさい」「ご挨拶しなさい」と命令すると、子どもは自分で考えて動けなくなる。言われたからやる、になってしまうんです。

だから「やりなさい」ではなく「やってみせる」。これを“提示”と言うのですが、たとえばコップを置くときも、「乱暴に置かないで」と叱るのではなく、ゆっくり置いて見せる。すると子どもも自然とゆっくり置けるようになる。挨拶も、親がしている姿を見て「私もしよう」となる。見て学べる環境をつくることが大事なんです。

もちろん、それには大人側に精神的な余裕が必要です。完璧でなくてもいいけれど、「なんでちゃんとできないの」と叱られるのか、「こう置くんだよ」とただ見せてもらえるのかで、子どもの受け取り方はまるで変わってきます。

4. 技術ではなく、自立を育てる

—— モンテッソーリ教育を一言で表すと、何になりますか。

大城: 一言ではないですが、「全人教育」知性や認知だけでなく、情緒や社会性、身体の感覚などをバランス良く育て、生涯にわたる「全人的な発達」を促すこと、そして「自立」です。自分で自分の人生を歩いていけるようになる。ただ、どんな教育も最終目的は自立なので、「それなら他の教育でもいいじゃない」となってしまう。だからモンテッソーリならではの良さを一言で言うのが本当に難しくて、この3年間ずっと悩んでいることでもあります。

あえて挙げるなら、一番の特徴は「感覚を豊かにする」ことだと思っています。「感覚から具体、そして抽象へ」という学びの特徴だと思っています。

—— 感覚を豊かにする、というのは。

「子どもを教え込む」のではなく、“育つ力”を信じる。

大城: 具体物と呼ばれる教具を用いて “筋肉記憶”という言い方をするのですが筋肉記憶にしていく、たとえば「1」という単位の教具と「1000」の教具では、重さも大きさも大きさも重さもまったく違う。量感を体感で覚えるんです。そして抽象化された学びに入っていく。

よく例に出るのですが、平和教育で「1名亡くなりました」と「1000名亡くなりました」と聞いたとき、量感を体感している子は、ビーズ一粒一粒が人だったらこんなに大きな山になる、とその衝撃を言葉から感じ取れる。でも体感していない子は「ふーん」と実感なくで終わってしまう。平和の尊さの感じ方が変わってくると思います。理解の深さがまるで違うんです。

—— 教室では、具体的にどんなことから始めるのですか。

「子どもを教え込む」のではなく、“育つ力”を信じる。

大城: 最初にやるのは「日常生活の練習」という分野です。プラスチックではなく、ガラスや陶器の器を扱ったり、2〜3歳でも包丁で野菜を切って料理をしたり、縫い物をしたり、陶器のお皿をきちんと洗ったり。昔ながらの“手を使う”ことから始めます。

子どもって不思議で、偽物は雑に扱って、本物は丁寧に扱うんです。プラスチックは壊れないと思っているから投げたり雑に置いたりするけれど、ガラスは割れると分かるから本当に丁寧に扱う。いろんな素材の感触を感覚に取り込むことで、脳が発達していく。今は何でも壊れない便利なもので囲まれていますが、それは大人に都合がいいだけで、発達途中の子どもにとっては機会損失なんです。だから、あえて本物を扱わせて、扱う機会を大事にしています。

—— 子どもの変化は、現場で実感できるものですか。

大城: はっきり分かります。1歳の子でも、最初は何も分からないのが、奥の物をゆっくり取って見せると、次からは何も言わなくても自分で元に戻せるようになる。トレイの支え方も、何回か伝えると落とさずに運べるようになります。

印象的な子がいて、1年生で「勉強が好きじゃない」と入ってきたのに、夏休みの宇宙の講座をきっかけに宇宙に夢中になって。今は4年生で「宇宙飛行士になりたい」と、天体を一つひとつ自分でパソコンで調べて、難しい漢字や知らない言葉も全部調べてノートにまとめているんです。自分の興味に従って、能動的に進めていく姿に感動し、本当に変わったなと思います。

—— 通わせている保護者の方とは、どのように関わっていますか。

大城: モンテッソーリでは勉強のことを「お仕事」と呼ぶんです。大人がここでお仕事をしているように、小さな子どもも社会の一員で、魂は対等である、という考え方から来ています。

だから私が先生たちや保護者の方にお願いしているのは、「全部、子どもと相談して決める」こと。今日は何をしたいか、どこまで進みたいか、どこまでできたら合格にしたいか。先生が一方的に「ああしなさい、こうしなさい」と決めるのではなく、子ども自身の学びとして取り組んでほしいんです。これは音楽教室にも共通していて、楽譜どおりに弾かせるだけでなく、自分の音楽として向き合えるようにしています。

5. AI時代だからこそ必要な教育

—— いま、改めてこの教育が必要だと感じるのはなぜでしょう。

大城: AIはとても便利ですが、少し危うい方向にも進んでいると感じています。学校教育にもモバイルが持ち込まれ、10歳までにたくさん体を使って感覚を豊かにした子と、モバイルだけで育った子とでは、能力の発達がまるで違ってくる。脳科学的にも、感覚が豊かになった分だけ才能が花開くことは分かっているんです。

脳は8〜10歳くらいで大人とほぼ同じになり、10〜12歳でようやく自分の頭で考えられるようになると言われています。本来、それまでは自分の手で、運動で学びを吸収するほうがいい。海外では8歳くらいまでモバイルを禁止している国も多いんです。

—— 海外と日本では、流れが逆なのですね。

大城: 北欧などは早くにデジタル教育を取り入れたのですが、結局子どもの学力が下がって失敗し、「排除しよう」となった。なのに日本は、今からまたデジタル化していこうとしている。少しずれているんです。

そもそもモンテッソーリは、藤井聡太さんが受けていたことで日本でも注目されましたし、海外でも、イーロン・マスク氏がとても評価していたり、GAFAMの創業者たちも実際に受けてきた教育だと言われています。沖縄で暮らすアメリカ兵の子どもたちは殆ど子がモンテッソーリ幼稚園に通っています。イギリス王室の子どもたちもそうです。海外では「当たり前」に近い教育なんです。

—— 日本でなかなか広まらないのは、なぜなのでしょう。

大城: 一つは、小学校の文科省認定のカリキュラムに当てはまらないこと。もう一つは、やはり受験です。日本には厳しい受験戦争があって、「決まったことをたくさん、正確に覚える」ことが評価される。これはモンテッソーリと真逆なんです。モンテッソーリは、仕組みを考える、能動的に自分で調べる——だから受験には向きにくい。でも、人生や仕事にはとても向いていると思うんです。

それに、モンテッソーリの先生になるトレーニングはとても厳しい。指導者の養成のハードルが高いことも、広がりにくい理由の一つだと思います。

—— それでも、社会が動き始めている兆しはありますか。

大城: トヨタのウーブンシティの中の幼稚園がモンテッソーリを取り入れていて、『自主選択をする子どもがどう成長していくかをモデル校として観察する』と日本政府も観察する話題になっています。やっと動き始めたのかな、と感じています。

実際、自己選択をしてきた子は、人生の幸福感が高く、将来的にも良い社会で役立つポジションに就き、豊かになりやすいというのは、教育経済学のデータとしても表れているんです。

—— 最後に、これからの構想を聞かせてください。

大城: 正直、今は目の前の教室で精一杯ですが、広がるのであればやりたいという思いはあります。

モンテッソーリ教育は子どもの育ちを支える素晴らしい教育法です。AIが進むこれからの時代、本当はみなさんが求めている教育だと思います。もっともっと大勢のご家庭に、お子さんに、教育者の方に広がって欲しい。でもまだ言葉にして広く届けられていない。だからこそ、2024年に始めたピアノ指導者向けのオンライン講座などを通じて、この教育の考え方を全国の先生方に伝えていきたい。子どもの“育つ力”を信じる教育を、もっと多くの人と一緒に広げていけたらと思っています。

—— 本日はありがとうございました。

編集後記

今回のお話は、音楽教室の話でありながら、一貫して「育てるとは何か」という問いに向き合うものだった。

子どもが自分の力で物を取りに行こうとするのを、大人が良かれと思って手伝う——それが成長の機会を奪うことになる。この一節は、習い事に関わる多くの大人にとって、ハッとさせられる指摘ではないだろうか。

技術を教えることよりも、子どもが本来持っている“育つ力”を信じて引き出す。その積み重ねが、10年、20年先の人生の土台になる。沖縄の地で「音楽×モンテッソーリ」という珍しい掛け合わせに挑む大城さん。その話は、子どもに関わる仕事をしている人なら、きっと一度は立ち止まって考えたくなるものだった。

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