人材育成は、事業や店舗の成長に欠かせない取り組みの一つです。しかし、効果的な人材育成の方法を知らないままインストラクターやトレーナー、スタッフを教育しても、十分な効果は得られないでしょう。優秀な人材を育てるには、育成ポイントを押さえ、人材育成の考え方やフレームワークを理解する必要があります。本記事では、人材育成の成功ポイントと、人材育成に活用できるフレームワークを紹介します。
INDEX
1. 店舗で働く人材の育成とは?
人材育成とは、自店舗で働く人材の能力やスキルを成長させるための取り組みのことをいいます。事業や店舗の成長や売上を拡大するためには、いかに優秀な人材に成長させられるかがポイントです。事業や店舗の長期的な成長には優秀な人材が必要不可欠であり、人材は経営資源で最も重要な要素ともいえます。
2. 店舗で働く人材を育成する目的
店舗で働くインストラクターやトレーナー、スタッフの人材育成をする主な目的は、以下の2点です。
2-1. スキルアップ・モチベーション向上のため
店舗で働くインストラクターやトレーナー、スタッフのモチベーションを向上させるには、業務の習得具合にあわせてスキルアップを図ることがポイントです。徐々に業務の範囲を広げられれば、さまざまなポジションの業務を任せることもできます。時には、責任の大きな業務を任せてみることも、スキルアップ・モチベーション向上につながるでしょう。
2-2. 顧客満足度の向上のため
店舗に来店するお客さまに満足してもらうためには、店舗で働くインストラクターやトレーナー、スタッフのサービスの質を高め、品質を統一させることが大切です。直接お客さまに関わるため、顧客満足度にも直結します。人によってサービスの質にばらつきがあると顧客満足度は低下するため、だれが接客をしても一定の高いレベルのサービスを提供できるように育成するとよいでしょう。
大手の店舗では安定したサービスを提供できるよう、全店舗共通の人材育成マニュアルが用意されています。人材育成にマニュアルを活用すると、サービスの質を一定に保ちやすくなるため、顧客満足度の向上に効果的です。顧客満足度が向上すると、リピーターの獲得や売上アップにもつながります。
3. 店舗で働く人材を育成するメリット
人材育成に注力することで、採用コストの削減や生産性向上による業務効率化ができるなど、店舗にとってもさまざまなメリットがあります。
3-1. 採用コストが抑えられる
人材育成を行い、離職率の低下が実現すれば、採用コストを抑えることが可能です。採用コストは、教育研修コストとあわせて、人材を1人採用するたびに約100万円程度のコストがかかるといわれています。採用コストを抑えるためにも、適正な人材育成を行わなければなりません。
新人は適切な教育ができないと、すぐに離職してしまうことも多いです。行き届いた教育を行うことで新人は安心感が得られるため、離職防止につながります。またスキルアップをして昇給・昇格できる評価制度があれば、モチベーションが上がり、定着率向上にもつながるでしょう。
3-2. 新人研修に取る時間を抑えられる
新人の研修は、時間と労力がかかる作業です。しかし、人材育成に力を入れている企業は離職率が低く、職場の人間関係も良好な傾向があります。離職する人材が少なければ、その分、新しい人材を採用する必要はなくなります。その結果、新人研修に取る時間が抑えられ、店舗の既存の人材の育成に時間をかけられるようになるのです。
3-3. 業務効率(生産性)が向上する
人材育成に注力することで、人材は徐々にスキルアップしていきます。既存のインストラクターやトレーナー、スタッフのスキルが上がれば業務効率が上がり、生産性の向上にもつながります。一人ひとりのスキルが上がれば、必要最低限の人数で店舗を回せるようになり、増員する必要も少なくなるでしょう。
3-4. ブランド力が高まる
お客さまはサービスを求めて来店しますが、それだけではなく、インストラクターやトレーナー、スタッフの接客態度やスキルもお店を継続して選ぶ基準になります。人材育成を行いサービスの質が向上すれば、ブランド力向上にもいい影響があり、お客さまに「またお店に来たい」と思ってもらえる可能性が高まるでしょう。
既存のインストラクターやトレーナー、スタッフのなかには、社会人経験の浅い人材もいるかもしれませんが、言葉遣いや顧客対応の仕方など、教育が行き届いていればサービスの品質を保つことができます。どのインストラクターやトレーナー、スタッフが対応しても、お客さまに満足してもらえるようにすることは、継続率を上げるうえでも重要です。
4. 店舗で働く人材の効果的な育成ポイント
人材育成に取り組む際は、ただ闇雲に指導をするだけでは十分な効果は得られません。人材育成のマニュアルを作成したり、評価制度を取り入れるなど、人材育成のポイントを押さえて取り組むことが成功の鍵となります。
4-1. 人材育成マニュアルを作成する
人材育成に取り組む際は、職種ごとに育成用のマニュアルを作成しましょう。マニュアルがないと教育担当者によって指導にばらつきが発生したり、日によって指導内容が変わってしまったりする可能性があります。
店舗内で指導内容が統一できていないと、インストラクターやトレーナー、スタッフごとにオペレーションや説明が違うなどトラブルの原因にもなりかねません。トラブルを防ぐためにも、指導内容を統一したマニュアルを作成し、マニュアルに沿った教育を行う必要があります。
4-2. 社内研修を行う
社内研修の効果は人材のスキルアップだけでなく、組織全体の成長と顧客満足度の向上にも効果的です。社内研修で学んだことをインストラクターやトレーナー、スタッフが店舗で実践することで、他のメンバーにもよい影響を与え、店舗全体のスキルアップが見込めます。接客の質が高まれば顧客満足度向上にもつながって、継続率が上がり、好循環が生まれるでしょう。
インストラクターやトレーナー、スタッフの人材育成は現場で指導するOJTが基本ですが、現場を離れてOff-JTを行うと、日々の業務を見直すよい機会になります。社内研修の内容は、顧客対応に役立つ「コミュニケーション能力」分野の中でも、特にお客さまが何を求めているのか察知する「洞察力」にポイントをおくのがおすすめです。
4-3. 人材にあわせた教育を行う
店舗で働く人材の社会人経験や持っている能力、スキルはさまざまです。人材育成はマニュアルにそって進めることが重要ですが、時には個人の能力にあわせて進めなければ、途中でつまずいてしまう可能性もあります。
指導を行っているインストラクターやトレーナー、スタッフが何につまずいているのか、わからないことがそのままになっていないか、理解度のチェックや進捗管理を行うことも人材育成のポイントです。必要に応じて個人に合わせた個別の教育を行い、取り残される人材が出てこないように注意を払いましょう。
4-4. モチベーションが保てる社内環境を作る
人材育成を行ううえで、教育を受けているインストラクターやトレーナー、スタッフのモチベーションを維持させることも重要です。ただマニュアルにそって教育を行っているだけでは、本人が成長を実感できず、モチベーションの低下や不安を抱えてしまう可能性があります。成果が出たときには褒め、できていないことに関しては叱らず適切に指摘するなど、本人に成長を実感させることが大切です。
また、教育担当者は、教育を受けているインストラクターやトレーナー、スタッフと積極的にコミュニケーションを取るように意識しましょう。定期的に面談を実施すると、彼らの不満や不安を知ることができます。こうした問題をいち早く解消することで、モチベーションを保ちやすい社内環境を作ることができます。
4-5. 教育担当者を配置する
人材育成は店舗を支えていくうえで必要不可欠な取り組みのため、できるだけ教育担当者を配置するのが理想です。教育担当者がいない店舗の場合、人材育成は先輩からOJTで学んでいくことになります。しかし、OJTでは指導内容に限界があるうえ、指導担当者の業務が忙しければ十分かつ行き届いた指導ができません。新人のモチベーション低下につながる恐れもあるため、適切な教育担当者を配置して、適切な人材育成を行う必要があります。
教育担当者を配置することで得られるメリットは、新人がスキルアップに専念でき、効率よく業務を覚えられることです。また、教育担当者がいれば適切に評価をフィードバックできるため、自身の成長を実感できる機会を増やせます。
4-6. 時間をかけて育成する
人材育成の取り組みをはじめても、すぐに結果として現れないのが人材育成の難しいところです。「現場が忙しくて、教育に費やす時間がない」と考える店舗も多いですが、優秀な人材を育成できれば、利益拡大にもつながります。「人材育成は時間がかかるもの」と念頭におき、結果が出るまでじっくりと時間をかけて人材育成を行うことがポイントです。
4-7. 評価制度を取り入れる
人材育成を成功させるポイントは、インストラクターやトレーナー、スタッフの成長やがんばりを評価する評価制度を取り入れることです。評価制度がないとがんばりが認められず、やる気やモチベーションは低下してしまいます。適切に努力を評価できる評価制度があれば、インストラクターやトレーナー、スタッフの意欲をかき立てることができるでしょう。
評価制度を取り入れる際は、評価の基準をわかりやすくし、必ず給与や待遇に反映させることが重要です。店舗側からの評価だけでなく、インストラクターやトレーナー、スタッフの自己申告により評価できる制度を取り入れると、意欲やモチベーションを保つのに役立ちます。
5. 店舗で働く人材の育成に活用できるフレームワーク
人材育成方法には、PDCAサイクルをはじめとするフレームワークを活用すると効果的です。PDCAとは、もともとはアメリカの統計学者により提唱された、品質管理の方法です。
- P=計画を立てる(Plan)
- D=実行する(Do)
- C=評価する(Check)
- A=改善する(Action)
以上のPDCAサイクルを繰り返すことにより、品質の維持と向上をさせるのがPDCAサイクルの手法です。現在では、PDCAを人材育成に活用するシーンも多く、人材育成に活用する場合もPDCAサイクルの回し方は変わりません。
インストラクターやトレーナー、スタッフの人材育成にPDCAを活用する際は、「P:人材育成計画を立てる→D:計画を実行する→C:評価する→A:改善を図る」の流れで行います。
- P:人材育成計画を立てる
人材育成の目標を設定し、教育手順を計画します。 - D:計画を実行する
教育担当者が手本を見せ、新人スタッフに実行してもらいます。 - C:評価する
計画が実行できているか確認します。できた部分は評価しましょう。 - A:改善を図る
身についていない部分を再指導し、改善を図ります。
PDCAサイクルを回す際の注意点として、できないことばかり指摘してしまうと新人の意欲が低下する恐れがあります。指摘することも大切ですが、できたことを評価することを忘れてはいけません。各人の成長度合いにあわせて、適切にPDCAサイクルを回しましょう。
6. 店舗で働く人材の育成にフレームワークを活用する際の注意点
フレームワークを人材育成に活用するのは効果的な方法ですが、フレームワークにこだわりすぎることで起きる問題点もあります。人材育成にフレームワークを活用する前に、注意点について正しく把握しておきましょう。
6-1. 実践と検証を繰り返す
人材育成にフレームワークを活用しても、必ずしも育成に成功するわけではありません。実践と検証を繰り返し、フレームワークを自店舗にふさわしいものにしていく必要があります。効果を検証して改善するポイントがあればフレームワークを見直し、それを繰り返していくうちにより自店舗に合ったフレームワークが完成します。
6-2. フレームワークにこだわりすぎない
フレームワークにこだわりすぎると考え方が偏ってしまい、柔軟に物事を考える力を損ねてしまう恐れがあります。店舗業務のなかで起こることは、必ずしもフレームワークに当てはまることばかりではありません。
型にはまった考え方しかできなくなると、ケースバイケースの対応ができなくなる可能性があります。あくまでもフレームワークは人材育成の手法の一つとして考え、こだわりすぎないように注意しましょう。
6-3. 個々や店舗にあわせてアレンジする
人材育成は、必ずしもフレームワークどおりに行う必要はありません。自店舗の求める人材を育成するためには何が必要なのかを考え、アレンジを加えることでより最適なフレームワークを作ることができます。
また、新人を育成する場合と、リーダーを育成する場合では教育内容は異なります。個々の能力や店舗のニーズにあわせて、アレンジを加えて実践することがフレームワーク活用のポイントです。
6-4. フォロー体制を作る
人材育成に取り組む際は、新人をフォローできる体制を整えておく必要があります。フレームワークにそった育成を行ったら進捗結果を検証し、新人に自分の仕事を振り返る機会を与えましょう。
その際に、教育担当者は新人にヒアリングを行い、必要であれば軌道修正をすべきか検討します。フォロー体制を作ることで新人の現状を把握することができ、より適切な人材育成が可能です。
7. まとめ
店舗で働くインストラクターやトレーナー、スタッフを優秀な人材に育てるには、育成ポイントを押さえた教育をすることが大切です。育成ポイントを知らずに闇雲に教育しても、かえって混乱させ、トラブルの原因になりかねません。人材育成にフレームワークを活用する場合も、注意点を把握して正しく活用する必要があります。教育担当者は育成ポイントを十分に理解し、実践に取り入れていきましょう。