株式会社hacomonoは12月3日(火)、業界の有識者4名をお招きして「hacomono Fitness Headlines 2024」を開催しました。それぞれの方にはディスカッションに先立ちインタビューを実施し、2024年に起きたニュースの中から特に注目した3つを選んでいただきました。約25年間に渡り大手総合クラブで働き、現在は株式会社hacomonoでマーケティングを担当する鶴橋 亮が、そのニュースを選んだ理由や得られた示唆について聞きました。
INDEX
PROFILE
越塚 麻未 SOELU株式会社 取締役CPO
新卒で株式会社UZABASEに入社し、カスタマーコンサルティング業務、マーケティングや広報チームの立ち上げを経験。2016年4月、HowTwo株式会社(現AIロボティクス)を起業しCOOとして3年間従事する。フリーランスの後、現在SOELU株式会社の取締役CPOに就任。オンラインのマーケティングやプロテイン事業の立ち上げを歴任し、現在は店舗事業の責任者を担当している。
1. スマートスイミングレッスン、サービス開始から約3年で200店舗超に導入
—— このニュースを選択した理由を教えてください。
現在、当社が取り組みたいと考えている方向性に近く、大変参考になると感じました。当社は会費を抑えている分、人件費に十分な予算を割くことが難しい状況です。そのため、インストラクターも、キャリアのある方を即戦力として採用するよりも、未経験でもやる気のある方を採用し、当社で研修してデビューさせる形をとっています。
研修カリキュラムは十分に整備していますが、知識と経験に磨きをかけるには、それなりの時間が必要です。その時間を短縮したり、知識と経験の不足を補うために、映像とAIを組み合わせたICTソリューションである「スマートスイミングレッスン」のようなシステムを活用したいと考えています。
—— ICTソリューションを活用することで、指導のクオリティや顧客体験の質を向上させたいと考えているのですね。
実は注目した理由はもう1つあって、当社のオンラインレッスンでは、お客さまにカメラをオンの状態で受けてもらっています。お客さまからすると、鏡で自分の姿を見ながらポーズをとる感じです。それが意外に好評なので店舗側でも同様の仕組みを取り入れたく、それにスマートスイミングレッスンのようなものがあるといいのではないかと感じました。
正しい動き方を視覚的に把握できるだけでなく、「(自分では)うまくできていないと思っていたけれど、映像を見たらきちんとできていた」ということになれば、お客さまのモチベーションアップにもつながるはずです。
—— 映像を使うとフォーム改善に効果的ですが、インドアゴルフがその好例だと思います。フォーム確認とコーチの指導で成長がスムーズに進む点について、どうお考えですか?
私もインドアゴルフの店舗に通っていたことがあって、練習データをスマートフォンで確認できる仕組みがとても便利でした。つい何度もデータを見てしまい、「そろそろ店舗に行こうかな」という気持ちにもなりますし、ICTソリューションは会員の来館を促したり、継続利用をサポートするのに効果的だと考えています。当社は現在、店舗を拡大中ですが、会員数が増えている一方で退会者も増えてきたので、そのような方々に続けてもらう施策づくりに活用したいと考えています。
—— このスマートスイミングレッスンは2024年1月のニュースなのですが、フィットネス業界出身ではない越塚さんとして、フィットネス業界は少しデジタル化が遅れているなと感じることはありますか?
私は現在、24時間ジムに通っているのですが、先日やっと専用アプリがリリースされて、スマートフォンで入館できるようになりました。他の業種と比較すると少し対応が遅いように思います。例えば飲食店では、監視カメラの映像データを活用して回転率を上げるための提供時間の分析をしたり、売上や利益を高めるための分析でデータを活用することが当たり前になっています。逆にいえば、そういうことがフィットネス業界でもできるはずです。
—— 「SOELU」では、参加率が高いレッスンや継続につながりやすいレッスン構成などをデータで分析していると聞きました。そこからわかったことを1つ教えていただけませんか。
お客さまが「SOELU」に入会する理由で一番多いのが「マシンピラティスに興味があるから」なのですが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値。自社の商品・サービスの利用中にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表した指標)は、マシンピラティスに限らず、月に5回以上店舗でレッスンを受けている方が高く、満足度につながっているようです。オンラインレッスンではヨガが人気ですが、店舗ではマシンピラティスやトランポリン、ダンベルトレーニングなど、「静」と「動」の違いがあることもわかってきました。
越塚 麻未氏
2. ルネサンスが2025年度新卒社員の初任給を10%引き上げ
—— なぜこのニュースを選んだのでしょうか。
現在の我々の課題にもマッチしますし、フィットネス業界としても給与水準をもっと底上げすべきだと感じているためです。給与水準を底上げしなければ良い人材も集まりにくく、業界として良いサービスを提供し続けることが難しくなると思います。
—— 越塚さんとしては、理想的な給与水準について、どの業界を参考にすべきとお考えですか?
当社としてはフィットネス業界で「No.1」と言われるほどになりたいです。現場スタッフ、本部スタッフどちらもコンサルティング業界に匹敵する給与水準を目指しています。例えば、ITの活用により、エリアマネージャーが1人で10店舗以上を管理するなど、1人あたりの生産性を高めることは可能だと思います。
—— それは、例えば100人いるスタッフ全員の生産性をITの力で高めようということではなく、始めから1人あたりの生産性を高めた運用で30人など少ないスタッフ数で取り組みたいということでしょうか。
その通りです。フィットネス業界の方は何か課題があると、すぐに「人が足りないから」と採用で解決しようとする傾向があるように感じます。当社は、まずは1人でも、業界内外問わず優秀な方を巻き込み、ITを活用することで少数精鋭でも生産性高く取り組んで行こうと考えています。もちろん、採用した方にはそれまでと同様の報酬をきちんとお支払いするつもりです。
3. ルネサンス、ベトナムハノイ市にパーソナルトレーニングジム「Re PT GYM」を開業/「chocoZAP」が中国・台湾へ進出/ホットヨガ「LAVA」がベトナムへ進出
—— 企業の海外進出に関するニュースを選んでいますね。
当社もいつか海外に挑戦したいと思っているので、応援したい気持ちと、成功するのかどうか注目したいという意味で選びました。
—— フィットネスの店舗を運営していた企業が、新たにオンラインレッスンを始めたケースは多くありますが、「SOELU」のように逆パターンはないように思います。「SOELU」が海外でベンチマークしている企業や、進出を検討している国はありますか。
中国では同じくオンラインから始まり店舗も出した「Keep」や、一時期の勢いに比べて現在はやや苦戦していますが米国の「Peloton」もチェックしています。
進出先はアジアを検討しています。低価格を含めた「SOELU」の特徴を活かしたいものの、成功するためには現地の文化に合わせることも必要だと思うので、そこは市場を見ながら調整したいと思っています。例えば中国なら、低価格の事業は本国のブランドの方が強いと思うので、日本ブランドを持っていくなら高く設定した方がいいように思うんです。そのような点で、日本とほぼ同じ水準の低価格で進出した「chocoZAP」の現地での反応には注目しています。