フィットネスクラブ(フィットネスジム、スポーツジム)を開業する場合、ターゲット層の明確化や競合との差別化が経営を成功させる鍵です。この記事では、これから開業を考えている方に向けて、開業資金や運営コスト、経営のコツをくわしく解説します。この記事を読むことで、具体的な手順やポイントがわかります。ぜひ参考にしていただき、お客さまが満足するすばらしい店舗を実現しましょう。
INDEX
1. ステップ1:開業形態を決める
フィットネスクラブを開業する際に、まずは開業形態を決める必要があります。開業形態には、「個人経営」と「フランチャイズ」の2種類があります。
1-1. 個人経営
個人経営は、その店舗で独自のビジネスモデルを展開できる一方で、大きなリスクを伴う形態です。個人経営の場合、事業を独自に立ち上げるため、自由度が高い点が強みといえます。たとえば、料金プランや導入するマシン、提供するレッスン、内装などを自由に決められます。オリジナルのレッスンを開発し、特徴的なサービスを提供することで、他店との差別化も図りやすいでしょう。
しかし、経営がうまくいくかどうかは、経営者の経験や知識、能力に大きく依存するため、起業や経営、マネジメントの経験がない状態で個人経営を選択すると、大きな失敗のリスクがあります。
1-2. フランチャイズ
フランチャイズは、フィットネスクラブを経営している会社の看板を借りて出店する方式です。すでに成功したビジネスモデルや蓄積された経営ノウハウが提供されるため、失敗のリスクが低い点が強みといえます。大手チェーンのブランド力やマーケティング戦略が活用でき、安定した経営が期待できます。
一方で、独自の色を出すことは難しく、料金プランやトレーニングメニューが決まっていたり、導入設備が固定されていたりするなど、自由に選択できる要素が制限される場合があります。また、看板を借りる対価として、加盟金やロイヤリティを支払う必要があります。
2. ステップ2:種類を決める
開業形態を決めたら、次はどのようなフィットネスクラブにするか業態を決めましょう。業態は、大きく4つに分類されます。
2-1. 無人店舗
無人店舗とは、スタッフを配置せず、無人で経営する方式です。スタッフ配置による人件費がかからず、運営コストが低いため、利益率が高い点が強みです。トレーナーやスタッフが居ないため、お客さまは自分の好きなように設備を使えます。
一方で、トレーナーやスタッフが居ないため、サービス面での差別化が難しい点がデメリットです。24時間営業やスマートロック(物理鍵を使わず、スマートフォンなどの機器を使ってドアの施錠管理ができるシステム)の導入など、お客さまの利便性を高めることで差別化を図る必要があります。
2-2. パーソナルジム
パーソナルジムは、専門のトレーナーが提供する個別指導を特徴としているため、サービス面での差別化が比較的容易です。お客さま一人ひとりに合わせたカスタマイズプログラムを提供することで、高い顧客満足度を実現できます。一方で、専門の人材を確保する必要があるため、人件費や運営コストが高くなるデメリットがあります。
2-3. 専門スタジオ
ヨガやピラティス、ダンスなど、特定のジャンルの指導を提供します。レンタルスペースや自宅を利用するなどであれば、集客できる人数は限定されますが、開業費用を安く抑えることができます。
2-4. オンラインフィットネス
オンラインフィットネスは、自宅のパソコンやスマートフォンなどで映像をみながらトレーニングを行う方式です。場所や時間に縛られないサービスを提供できるため、ジムに通う時間が取れない人や、近くに店舗がない人など、さまざまな需要に応えられます。
オンラインフィットネスでは、ライブ配信や録画されたトレーニングプログラムを提供するため、人件費や設備費も抑えられます。一方で、お客さまとの直接的なコミュニケーションが難しいため、満足度やリピート率に影響が生じることがあります。
3. ステップ3:開業資金の調達
開業資金の調達方法には、以下の方法があります。それぞれメリットとデメリットが存在するため、事業計画に合った方法を選択することが重要です。
- 自己資金
自己資金は、自らの貯金や資産を活用する方法です。利益を他者と分ける必要がなく、借入返済のプレッシャーが少ない点がメリットです。一方で、資金調達の上限が自身の貯金や資産に依存する点や、事業に失敗した場合のリスクが大きいことがデメリットです。 - 銀行融資
銀行融資は、銀行から資金を借りる方法です。大きな資金を調達できることや、長期的な資金調達が可能なメリットがある一方で、信用審査が厳しく、返済期限や利息負担が発生すること、担保や保証人が必要な場合があることがデメリットです。 - クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットをとおして多くの人から資金を調達する方法です。報酬型、寄付型、融資型、出資型などがあります。一般の人からの支援を得られ、PR効果もあります。一方で、方式によっては、思ったように支援者が集まらないことで目標金額に達成せず、資金調達ができない結果に終わる可能性があります。 - 政府や自治体の助成金・補助金
政府や自治体が提供する助成金や補助金には、事業者が事業の開始や拡大に必要な資金を支援する制度があります。一定の条件を満たすことで、返済不要の資金を得られるものもあります。デメリットは、審査が非常に厳しい点です。
4. ステップ4:出店地域の選定
出店する地域を選定する際は、次の手順で行うといいでしょう。
4-1. ターゲット層の設定
主婦、ビジネスマン、高齢者など、どのような人物をメインターゲットにして集客するかを考えます。ターゲットが決まったら、ターゲット層の生活圏内を調査し、集客が見込めるエリアを選定します。
たとえば、ターゲットが主婦の場合、住宅地や商店街、商業施設などに出店することで、家事の合間や買い物のついでに、店舗に立ち寄るといった需要が見込めます。ターゲットがビジネスマンの場合は、オフィス街に出店することで、仕事帰りにトレーニングに立ち寄るといった需要が見込めるでしょう。
4-2. 地域内にある競合の調査
地域内に競合となるフィットネスクラブがある場合は、サービス内容や料金、レッスン内容、営業時間などを調査し、差別化できるポイントを検討しましょう。評判や経営状態なども把握するとよいでしょう。単独での調査が難しい場合、コンサルや広告代理店に依頼するのも一つの手です。
4-3. 周辺施設や人通り
周辺に商業施設があれば、買い物ついでにフィットネスクラブに立ち寄る可能性があります。駅の近くであれば、帰宅途中のビジネスマンや学生の需要も見込めるでしょう。人通りが多い場所に出店することで、知名度や集客力も上がります。
5. ステップ5:物件の選定・契約
ターゲットを決め、出店地域を選定したら、物件を選定しましょう。交通アクセスと駐車場、周辺施設や人通りなど、これらの要素を総合的に検討し、ターゲット層に適した立地と物件を選ぶことが重要です。
物件選定のポイントは以下のとおりです。
- 適切な広さと間取り
お客さまの利便性やスタッフの働きやすさを考慮し、提供するレッスンやサービス内容に適した広さと間取りの物件を選ぶとよいでしょう。将来の拡張や改装の可能性も考慮し、柔軟性を持たせておくと安心です。 - 設備・環境
エアコン、換気、照明など必要な設備が整っていて、騒音や振動が近隣に影響しない物件を選びましょう。防音性が低い場合、クレームに発展することがあります。近隣に住宅がある場合や、ビルの中に出店した場合は特に注意しましょう。
また、床の耐荷重についても確認してください。フィットネスクラブでは重量のあるマシンや器具を複数設置します。設置予定のマシンや器具の重量と床の耐荷重を確認し、思わぬ事故や床の破損を防ぎましょう。 - 立地とアクセス
ターゲット層が集まるアクセスのよい立地を選ぶとよいでしょう。公共交通機関からのアクセスや駐車場の有無を考慮します。駐車場を設ける場合は、敷地が広く簡単に駐車できるかどうか、中央分離帯がなく幹線道路から入りやすいかなども検討するとよいでしょう。都心では電車や徒歩が主な移動手段になりますが、地方では車移動が多くなるため、地域性も考慮すると安心です。
6. ステップ6:開業届の提出
フィットネスクラブを開業するためには、いくつかの書類を提出しなければなりません。主なものは下記の書類ですが、開業を考えている場所によって異なります。よく調査して、早めに準備しましょう。
- 開業届
個人事業主として開業したことを報告する書類を税務署に提出します。原則として開業から1ヶ月以内の提出が求められています。最近では、下記の青色申告承認申請と合わせてオンライン上で申請を行えるサービスもあります。 - 青色申告承認申請
所得税の特別控除を受ける場合、原則として開業から2ヶ月以内に提出が必要です。青色申告しない場合は提出の必要はありません。 - 事業開始等申告書
開業届は税務署に提出するものですが、事業開始等申告書は、開業したことを各都道府県に報告するものです。地方税の管理の観点から、事業開始等申告書を都道府県税事務所に提出することが望ましいとされています。提出期限は都道府県により異なります。 - 営業許可申請
フィットネスクラブで食品を取り扱う場合、保健所への届け出が必要です。食品を取り扱わない場合は、申請の必要はありません。 - 公衆浴場営業許可申請
フィットネスクラブにシャワー室を設置する場合、保健所に届け出が必要です。東京都福祉保健局によると、計画段階で一度相談してほしいと記載があるため、施設の平面図などを準備して、許可申請前に一度事前相談をしましょう。シャワーを設置しない場合は申請不要です。
(参照:東京都福祉保健局 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/minamitama/youshiki/yokujyou.html)
- 防火対象物使用開始届
建物の一室を借りて事業を行うほか、形態を変更する場合、使用の7日前までに「防火対象物使用開始届」の提出が必要です。工事を伴う場合は「防火対象物の工事等計画の届出」もあわせて提出が必要です。都道府県によっても異なりますので、手続きについてご不明な場合は最寄りの消防署に確認してください。
(参照:東京消防庁 https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/bouka/02.html)
そのほか、 地域ごとに開業できる業種の制限などについて決められている都市計画法や、フィットネスクラブを建築する場合は建築基準法といった、法律に基づく申請が必要になる場合があります。必ず事前に確認しましょう。
7. ステップ7:必要な資格を取得
フィットネスクラブの開業に特別に必要な資格はありませんが、一部の資格が役立つことがあります。たとえば、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーや、NSCA認定パーソナルトレーナーなどの資格が有効です。
8. ステップ8:運営に必要な機材、備品の購入・搬入
フィットネスクラブのタイプ、提供するサービスに応じて、必要なマシンや器具、消耗品などをリストアップして購入します。お客さまのニーズに合わせたマシンの選定や器具を行い、品質や価格、アフターサービスを比較して最適な仕入先を決めます。コロナ禍や材料費の高騰などにより、納期に遅れが発生しているケースもありますので、事前に納期を確認してから購入すると安心です。
必要な機材と備品の購入後は、店舗に搬入して適切な場所に設置します。重量物や大型の機材は、専門業者への依頼が必要な場合もあります。搬入後は、機材や備品が正しく設置され、安全に使用できることを確認しておきましょう。
また、定期的なメンテナンスや整備のスケジュールを立てておきましょう。安全管理の面からも、機材や備品の耐用年数や更新時期を把握しておくことは重要です。
9. ステップ9:運営に必要なシステムの選定
運営に必要な管理システムのリストアップを行い、システム導入にかかる費用を把握して予算を設定します。運営で発生する作業は、会員管理、スケジュール管理、予約システム、消耗品の在庫管理、決済など多岐にわたります。
管理システムを導入するのか、スタッフが手作業で行うのか、まず検討しましょう。導入費用だけでなく、ランニングコストやアップグレード費用の考慮も必要です。
次に、可能であれば選定した管理システムを実際に試用し、操作性や機能が期待どおりか確認しましょう。管理システム導入後は、必要に応じて、システム操作習熟のためにスタッフの研修を行います。
10. ステップ10:集客施策(プロモーション活動)
リスティングやSNS広告などのWeb広告(オンライン広告)やチラシ、新聞折込、雑誌広告などを活用して、集客施策(プロモーション活動)を行います。フィットネスクラブの公式SNSアカウントやホームページを作成・運営し、情報発信やお客さまとコミュニケーションを行いましょう。オープン記念イベントや体験イベントを開催し、ターゲットに店舗の魅力をアピールすることも有効です。
11. 開業
開業後は、継続的にマーケティング施策を行い、新規顧客の獲得と会員の継続率向上を目指します。店舗内の設備やマシン、器具の安全性を確保するため、定期的な点検やメンテナンスを行うことも重要です。また、レッスンの質やイベント内容などを改善し、既存顧客や体験に参加したお客さまの満足度を高めることで、口コミによる集客力を向上させます。アンケートを定期的に実施し、その結果を分析したうえで、改善に取り組むことも大切です。
12. フィットネスクラブの開業資金の目安
フィットネスクラブを開業するにあたって必要になる資金は、開業する店舗の業態によって異なります。ここでは、業態ごとの開業資金の目安をご紹介します。
12-1. 業態別の開業資金目安
- 無人店舗
無人で運営する店舗の開業資金は、マシン代や広いスペースの物件賃料を考慮して約2,000万円〜3,000万円が必要です。初期費用は高額ですが、ランニングコストは家賃と光熱費のみで運営できるのが特徴です。 - パーソナルジム
パーソナルジムは、マンションの一室で行う場合、マシンの大量購入が不要なため、物件契約や改装費用が主な初期費用となります。したがって、約300万円〜500万円程度の開業資金で運営が可能です。 - オンラインジム
オンラインは、自宅で営業可能です。物件やマシンが不要で、資金も約10万円〜50万円程度で開業可能です。費用の大半は撮影・配信環境の整備やプロモーション広告費で、音質や画質にこだわる場合、機材に10万〜20万円程度の投資が必要になる場合もあります。
12-2. 運営に必要なランニングコスト
- 店舗家賃
店舗家賃は、立地や規模によって大きく異なります。たとえば小規模な店舗であるマイクロジムは、15万円ほどの家賃の物件で運営できるといわれています。 - 人件費
人件費は、スタッフの数や給与水準により大きく異なります。たとえば、パーソナルジムのように、トレーナーがオーナーを兼ねて1人で働く場合は、人件費を抑えられます。一方で、無人運営を併用する場合、お客さまの多い日中は1名程度スタッフを配置し、夜間のみ無人で運営することで費用を抑えられます。 - 光熱費
光熱費は、フィットネスクラブの規模や営業時間によって変動します。省エネ設備やLED照明の導入、店舗の営業時間や来店のピーク時を考慮して、電力使用量をコントロールすることもコスト削減に繋がります。 - 集客費用(プロモーション費用)
集客(プロモーション)にかかる費用は、広告効果を最大化するためにターゲット層を明確にし、SNSやインフルエンサーマーケティングなど、効果的なプロモーション方法を選択することが重要です。
また、広告の効果測定やROI(投資対効果)の検証を行い、広告費の継続的な調整が必要です。オンライン型店舗の場合、基本的に高額な開業資金は必要ありませんが、プロモーションを行う際の広告費が主なコストになるでしょう。
13. フィットネスクラブを経営する際のコツ
フィットネスクラブを経営する際に、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。ここでは、経営のコツをご紹介します。
13-1.ターゲットを明確に設定する
お客さまのニーズに合わせたレッスンやサービスを提供するために、ターゲット層を明確に設定しましょう。たとえば、若者向けの高強度なトレーニングや中高年向けの健康維持を目的とした低強度のトレーニングなど、ターゲットに合ったレッスン内容を提供することが重要です。
13-2. ターゲットに合わせた料金設定をする
ターゲット層の予算に合わせて、適切な料金設定を行いましょう。価格帯を広げることで、幅広い年齢層を獲得できます。
13-3. 設備を充実させる
最新のトレーニングマシンや器具などをそろえることで、顧客満足度を向上できます。また、清潔で整った環境であることも重要なポイントです。ターゲットに合った適切な設備を導入するためにも、ターゲットを明確にしておくことが必要です。
13-4. 独自のレッスン内容を打ち出す
競合店舗との差別化を図るために、独自のレッスンやサービスを提供しましょう。ブランディングに成功すると、お客さまにとって替えがきかない魅力的な店舗になります。
13-5 .物件の立地、環境のリサーチを徹底する
アクセスのよい場所や、競合が少ないエリアを選ぶことが重要です。また、周辺の環境もチェックしましょう。駐車場がある場合は、幹線道路に面しているか、中央分離帯がなく右折でも入りやすいかといった点も確認してください。住宅街やビル、マンションの中に出店する場合は、周辺への騒音にも配慮しましょう。
13-6. インストラクターやトレーナー、スタッフの採用・育成に力を入れる
インストラクターやトレーナー、スタッフは店舗の顔になるため、採用や育成に力を入れることが大切です。スキルも重要ですが、それ以上にモチベーションが高く、お客様とのコミュニケーションが得意な人材を選ぶことが望ましいです。
13-7. ブランディングに即したプロモーションを展開する
SNSやチラシ広告を活用して、店舗の魅力を最大限伝えるプロモーション活動を行いましょう。口コミや紹介制度を活用するなど、場面にあわせて、効果的なマーケティング戦略を立てることが重要です。
14. まとめ
本記事では、フィットネスクラブ開業時に重視すべきポイントについて解説しました。開業にあたっては、ターゲット層の設定、適切な料金設定、ターゲットにあったマシンや設備の導入、独自レッスンの開発、立地環境のリサーチなどが重要です。経営に成功するためには、「顧客のニーズに応えるレッスン・サービスの提供と店舗の差別化を追求すること」「効果的な集客施策の実施によって集客力を高めること」の2点に留意するとよいでしょう。
開業費用およびランニングコストに関しては、店舗の業態や運営方針によって大きく変わるため、まずはフィットネスクラブをどのようなターゲットに向けて、どういった業態で運営するかを明確にしましょう。