【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
【後編】はこちらから
株式会社Ractoryでは現在クロスフィット、エステサロン、マシンピラティスの3業態の店舗を運営しています。代表の安田 良氏は、マーケティング知識を活かして自らそれぞれの店舗の集客を実施しています。これまでの店舗運営を通して同氏が考える店舗ビジネスのポイントについて教えていただきました。
INDEX
PROFILE
安田 良 株式会社Ractory 代表
17歳からプログラミングをはじめ、大学のシステムやWebサービスを作るエンジニアを経験。2004年に母親がダイレクトメールの発送業務を中心に行う株式会社シンメールを創業し、2019年に安田氏が経営を引き継ぐ。現在ではクロスフィットジム、エステサロン、マシンピラティスと3業態の店舗運営も行うほか、クロスフィットの立ち上げをサポートするコンサルティング業務も実施。2022年には業務内容の拡大を理由に株式会社Ractoryに商号を変更した。
1. 魅了されたクロスフィットにマーケティング知識を活用、実績を積み3業態へ拡大
株式会社Ractoryの前身となる株式会社シンメール企画は2004年に私の母が創業しました。創業当初はダイレクトメールの発送業務が中心でしたが、2019年に私が経営を引き継いでから「クロスフィット尼崎」、2020年にエステサロン「h:be room」(エイチビールーム)、2024年1月にはマシンピラティススタジオ「Rive Pilates」(リーヴ・ピラティス)と、3業態の店舗運営もスタートさせました。
クロスフィット尼崎を立ち上げた理由は、クロスフィットというプログラムに魅了されたことが一番ですが、それに加えて、これまで学んでいたマーケティングの知識を自店舗で実践してみたいという想いもありました。実際にクロスフィット尼崎の運営を通じてマーケティングの知識を磨き、経験を蓄積することができました。その結果、現在はクロスフィットジムの立ち上げをサポートするコンサルティング事業も行っています。コンサルティング事業では、広告の戦略立案やHP作成のほか、HPへの訪問者数やクリック率、広告からの問い合わせ数など、運営に必要な各種データが取得できるような設定まで細かく作り込み、アドバイスを提供しています。
クロスフィット尼崎に通うお客さまの声を元にエステサロン、マシンピラティスの店舗も立ち上げるなど、業務の幅が広がってきたため、より業務内容に合うよう、2022年1月に株式会社Ractoryに商号変更を行いました。
2. ボーナスタイムを逃さない集客施策で209人の体験者を獲得
クロスフィットジム、エステサロン、マシンピラティスの店舗を運営するなかで、どの業態の店舗ビジネスにも共通して大切だと私が感じるものがあります。以下に上位3つをご紹介しましょう。
・集客
集客は、売上を上げるだけでなく、スタッフのモチベーション向上にもつながるため、最も大切です。店舗のオープン時は特に集客力が高いため、そのチャンスを大いに活用するためにも、私はどの店舗も綿密に集客戦略を立ててからオープンしています。
「Rive Pilates」のオープンにあたっては、HPのSEO対策やMEO対策を実施し、さらに先着50人限定で「入会金+1ヶ月分の月会費無料」キャンペーンを広告で打ち出して体験へ誘導しました。結果、一気に209人が予約してくれるほど好評であったため、キャンペーン対象人数を100人に増やしました。その後、2月末で体験受付は一旦締め切り、3月は募集を一切行わず、3月半ばに4月の体験受付を再開しました。すると、再開を待っていた方たちの予約ですぐに体験枠の7割が埋まりました。体験枠が埋まる様子が見えることで、お客さまも「急がなければまた締め切られてしまう」と感じ、背中を押されたのだと思います。
キャンペーンの人数を増やしたり、途中で体験予約を締め切るなど、一見すると状況に応じて対応しているように見えるかもしれませんが、私はほぼすべてのことを事前に予想し、戦略を立てていました。体験を2月で一旦締め切り、4月より再開した理由には、インストラクターが対応できる適正な体験者数にしたかったこともありますが、一旦締め切ることで体験申込を迷っていた方の「本当に締め切られてしまった」という悔しさを促し、受付再開への期待値を高めることも目的でした。さらに、だいたい入会3ヶ月ほどすると退会する方が出てくるだろうと予想されたことも理由です。体験から最終的に160人が入会してくれました。
現在、オープンから約半年が経ちましたが、当時ほどの集客の勢いはありません。オープン2ヶ月前からオープン後3ヶ月ごろまでは、その店舗において一度しかない集客のボーナスタイムなんです。ここでしっかり集客しておくことが、とても大切です。
なお、集客を成功させる前提として、販売しているプロダクトがお客さまを満足させるものであることや、継続したくなる仕組みが大切であることも付け加えておきます。
・コミュニティ
コミュニティがあることで、お客さまの入会や継続につながりやすくなります。特にクロスフィットのようにハードなトレーニングでは自然と励まし合う雰囲気が醸成されるため、仲間意識からコミュニティが生まれやすいという特徴があります。クロスフィット尼崎では、10人以上の会員さまで食事に行くこともあります。ここ数ヶ月は「格好良く歳をとりたい」ということで、40〜50代の中年男性、いわゆる“おじさん”たちの体験が増えています。入会を悩んでいるおじさんに、会員のおじさんが「一緒にやりましょう」と声をかけてくれ、入会につながったこともありました。コミュニティがあるからこそ行われた「おじさんクロージング(※)」です(笑)。
皆さん、大体仕事終わりに来て、互いに励まし合いながらトレーニングを頑張っています。その光景を見ていると、私もあんなふうに歳をとりたいなと感じます。
※クロージング:営業活動において、購入につなげる最後のフェーズ。フィットネス業界においては、入会へ結び付けることを指す。
・適切な入会キャンペーンの設定
目先の投資回収を急ぐと、結果的に効率の悪いことを行いがちになるため、注意が必要です。例えば、クロスフィットのコンサルティング事業において、オープン時に私がお勧めしているのは、月8回以上の会員プランに申し込んだ方の入会金を無料とするキャンペーンです。これは週2回のペースで通っていただくことで習慣化につなげやすくすると同時に、少しでも顧客単価を高めたいことが理由です。
しかし、コンサルティングしている企業の方にこのキャンペーン方法を提案すると、投資回収を急ぎたいため、無料を避けて「すべての会員プランにおいて初月会費を半額とする」キャンペーンを希望するケースが多いです。すると当然、ほとんどのお客さまが一番会費がお得な月4回を選ぶわけですが、平均在籍期間で考えると「月4回・初月会費半額」と「月8回・初月会費無料」、両者の合計のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値。お客さまが在籍期間中に自社に払ってくれた金額)は実はほとんど変わりません。それならば、月8回プランに申し込んでいただいた方がいいはずです。
投資回収を急ぎたい気持ちはわかりますが、キャンペーン設定では、一旦冷静になって考えることをお勧めします。