近年、気軽に練習を楽しめるインドアゴルフ施設の開業が増えています。飲食業のような仕入れが発生しないため安定した収益を得やすいことや、無人運営も可能なことがその理由です。インドアゴルフビジネスを成功させるにはどうしたらいいのか、ゴルフビジネスのコンサルティングを行う、株式会社ONE Story(以下、ONE Story)の代表取締役社長である山﨑 博之氏にポイントを聞きました。インドアゴルフの開業に必要な資金と利用できる補助金などを詳しく解説するほか、インドアゴルフ開業の流れやコツも解説していますので、ぜひご覧ください。
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PROFILE
山﨑 博之 株式会社ONE Story 代表取締役社長
ゴルフビジネスプロデューサー。ゴルフコーチとしてスクールノウハウを研究した後、RIZAP GOLFをプロデュース。その後、ゴルフ練習場の支配人などを経て、独立。ゴルフビジネスのコンサルティングなどを行う株式会社ONE Storyを立ち上げ、既存練習場の新規来場者とリピータを増やす活動や、他業種からのゴルフビジネス参入に対して成功するステップを伝えている。
1. インドアゴルフ施設を開業するまでの道のり
インドアゴルフ施設の開業を決めたら、どのようなことに、どのような順番で取り組めばよいのでしょうか。開業までにすべきことを順に示します。
1-1. ターゲットや施設コンセプトを決める
インドアゴルフ施設の経営を成功させる一番のポイントは、どんな方に、どんなゴルフ体験を提供したいのか?という想いにあるといってもいいかもしれません。それが、ターゲットや施設コンセプト、出店エリアを決める要素となることはもちろん、継続してよりよいサービスを提供することにもつながっていきます。
1-2. 出店エリアを決める
出店エリアの候補をいくつか決めたら、商圏分析を実施して以下のポイントを確認し、ターゲットが多く存在し、集客に最適なエリアを見極めましょう。
1-2-1. 大まかなマーケットの規模を把握する
- 対象エリアに、24時間ジムを含めた運動施設が複数あると良い。そのエリアには運動する方が多くいることが予想されるため、集客できる可能性が高まる。24時間ジムが多ければ、24時間、運動できる場へのニーズも高い可能性があるため、24時間・無人運営のインドアゴルフ施設を開業した場合でも、集客できる可能性が高まる。
- 対象エリアに、インドアゴルフ施設やゴルフショップ、ゴルフ場など、ゴルフ関連施設が複数あると良い。ゴルフ人口が多いことが予想されるため、集客につながりやすい。
1-2-2. 商圏の特性を把握する
- ゴルフに取り組みやすい年代である20~69歳が、対象エリアの人口に対して7割程度いると集客につながりやすい。
- 年収が500万円以上ある世帯が多いと集客につながりやすい。
- 対象エリアが再開発されているか、または今後、再開発の予定があると良い。再開発により、ほかのエリアより新たな住処として移ってきた方が入会してくれると、その後、長く続けてくれる可能性が高まる。
1-2-3. 人口の流れを把握する
- 一軒家より高層マンションが多いなど、人口密度が高いエリアに施設があると集客につながりやすい。
- 夜の人口比率が多いエリアであれば、夜は会社帰りの方が、昼は主婦の方の利用が見込まれる。オフィス街の近くも、夜は会社帰りの方の利用が見込まれるものの、昼の利用を促すことは難しくなる。
1-2-4. 交通状況を把握する
- 商圏を分断する道路、鉄道、川、山は避ける。
- 地元の方が日常的に使用する道路や鉄道の近くであれば、集客につながりやすい。
1-3. 出店エリア内にあるインドアゴルフ施設を体験する
体験することで、施設コンセプトがより明確になるはずです。有人運営、無人運営のどちらにするのか、ラグジュアリーにすべきかカジュアルにすべきかなども決まってくるでしょう。
なお、体験したことがない施設を「話題になっているから」という理由でベンチマークするのはやめましょう。体験することで、会員の目線で施設の良い点や課題を把握することができ、より良い施設づくりにつながります。
多くの施設を体験してみた結果、理想の施設を見つけ、そのブランドがフランチャイズも実施しているのであれば、そのフランチャイズに加盟するのも1つの案です。開業や経営について資金的なサポートやアドバイスを受けられるケースが多いためです。
逆に、理想に近い施設が見つからない場合は、ゼロからつくることをおすすめします。
1-4. 物件を決める
不動産会社をたくさん回りましょう。インドアゴルフ施設に適した複数の物件をすぐに提案してくれる不動産会社であれば、インドアゴルフ施設に関して詳しく、その後のやりとりもスムーズに進むと考えられます。
物件を選ぶ際の主なポイントを以下の表に記しますので、参考にしてみてください。
項目 | 推奨 | 理由 |
---|---|---|
立地 |
| 仕事帰りや買い物ついでに立ち寄れる、人々の生活動線上にあると集客や利用が進みやすい |
形 | 長方形 | 無駄なスペースを生まずに打席を配置しやすい |
天井高 | 3m以上 | 日本人の平均的な身長からするとクラブを振り上げてもあたることがほぼない |
築年数 | 40年以内 | 築40年以上などの古い物件は外部への音漏れの可能性が高い |
近年、高騰している電気代を抑える目的では、保温効果や保冷効果を保ちやすい地下物件がおすすめです。地上に建てる場合は、断熱材を入れることはもちろん、離れた対角上に窓をつくるなど、空気の流れがよくなるつくりを意識することが大切です。
1-5. 開業申請を行う
法人経営、個人経営の場合、それぞれで以下にあるような申請が必要となります。設立の日(設立登記の日)以後2ヶ月以内、または「事業の開始等の事実があった日から1月以内」などの提出期限がありますので、必ず国税庁のホームページを確認し、期間内に手続きを実施しましょう。
経営方式 | 開業申請に必要な書類(一部抜粋) |
---|---|
法人経営の場合 | |
個人経営の場合 |
なお、インドアゴルフ施設を開業するとなった場合の費用ですが、一般的に多い4〜8打席・広さ40〜80坪(1打席1坪換算)の施設の場合、都心であれば総費用は3,000〜5,000万円ほどが平均です。そのなかでも特に高額になりがちな費用に、施工費用、シミュレーションマシン購入費用、保証金の3つがありますが、地方の場合は坪単価が下がることで保証金が抑えられるため、都心より1,000万円ほど少ない2,000〜4,000万円と見積もるとよいでしょう。
2. 開業資金や運営費用を抑えるポイント
インドアゴルフ施設を経営するにあたり、開業資金および運営費用を抑えたいと考える方は多いと思います。費用削減を実現するためには、押さえるべきポイントがいくつかあります。
施工費用を抑えるには、施設コンセプトにもよりますが、できるだけ無駄なスペースをつくらないことが重要です。ほかにも、トイレを男女共用にしたり、照明の数が少なくて済むように調整する、利用者が立つスタンスマットやボールの跳ね返りを軽減する圧縮チューブマットなどの備品を中古品にするなどといった対策も効果的です。
コロナ禍によって売上が減少した中小企業を後押しする目的で導入された「事業再構築補助金」を利用するのも1つの方法です。新たな商品・サービスを開発したり、業種・業態を転換するなど、新しい取り組みを行う中小企業を支援する制度であり、採択されれば補助額は数百万円〜数千万円にもなります。実際、飲食業を営んでいた企業が新たにインドアゴルフ施設の運営に取り組む際に適用されるケースも増えています。
一方で、インドアゴルフ施設の施工には、安全かつ快適な環境を提供するために必ず押さえておくべきポイントもあります。ただ「安いから」という理由で施工会社を決めることはせず、一度はインドアゴルフ施設の施工経験が豊富な企業に相談するようにしてください。
開業後のコストは、消耗品の交換を遅らせることで抑えることが可能です。プロジェクターのランプは小まめに埃をぬぐったり光量を下げる、スクリーンは一部分だけに負荷がかかり続けないように時々回転させるなどの対応をすると良いでしょう。打席に置くマットは、ボールの接地面が消耗しやすいですが、メーカーによってはその部分だけの交換ができない商品もありますので、購入する前に確認しておくことをおすすめします。
3. インドアゴルフ業界の動向は大型化が進む可能性
2022年より、パチンコ店の経営者がパチンコの施設をそのままインドアゴルフ施設に転換するケースが増えています。要因は、2022年3月30日に警察庁から「技術上の規格解釈基準」が通達され、著しい出玉の獲得を防ぐ機能がパチンコ台に搭載されたことにあります。以前に比べて玉が出づらくなることで、客離れが進むと予想した経営者が、インドアゴルフ施設の運営へと切り替えているのです。パチンコ店は比較的大型の施設が多いため、打席数も10打席以上など、これまでのインドアゴルフ施設と比較して、規模が大きくなっています。
そのほかにも、ボウリング場からインドアゴルフ施設に転換するケースも聞かれており、施設規模の大型化は今後も進んでいくでしょう。そのような大型施設は充実したサービスを提供することが予想されるため、これからインドアゴルフ施設を開業する方は、人件費をかけずに提供できる、ゴルフ以外のサービスを組み合わせるなど、差別化を意識することが大切になりそうです。
この記事は、2回に分けてお届けします。後編では、インドアゴルフ施設の経営を成功に導くための「集客方法」「退会率を下げるコミュニティ施策」「トレーナーの採用」などについて、具体的に解説します。