hacomono代表取締役CEO蓮田健一氏をホストとするシリーズ対談の第4回は、子どもとお出かけ情報サイト「いこーよ」を運営するアクトインディ代表取締役の下元敬道氏を迎え、同サイトに込めた思いやファミリーレジャーの最新動向、さらに自治体との連携による地域活性化の可能性などについてお聞きしました。
※本記事は、「月刊レジャー産業 2024年10月号」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。
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PROFILE
下元 敬道 アクトインディ株式会社 代表取締役
1976年12月、高知県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、商社、広告代理店勤務を経て、2003年にアクトインディ株式会社を設立、代表取締役を務める。2008年に子どもとお出かけ情報サイト「いこーよ」をスタート。国内最大級の親子のお出かけポータルサイトとして多くの家庭で利用されている。
1. アタッチメントを育む機会創出のための情報発信
蓮田:貴社は「いこーよ」というWebサイトを運営しておられます。これはどのようなサイトなのでしょうか。
下元:「いこーよ」では、親子でお出かけする場所を紹介するという切り口で、その特徴をはじめ、どんなイベントがあるか、暑い日でも大丈夫かなど細かな情報までWebメディアとスマートフォンのアプリで提供しています。旅先などでも、位置情報を使って近場の最適な場所を探すことができます。
蓮田:子育て世代に非常に有用なサイトだと思いますが、立ち上げようと思った動機は。
下元:当社は、「次世代に価値を残す」ということを理念に掲げています。短期的な利益を追求して会社を運営しても、本質的な価値にはたどり着けないと思っています。次世代を担う子どもたちがどのように育つのかということは、すごく大事なテーマです。
子どもたちが大きく羽ばたいていくことに間接的にでも関われれば、次世代の価値創造につながるのではと考えたのがきっかけですね。子育てにおいて最も大切なのは、親からの愛情をしっかり受ける「アタッチメント」といわれています。しかし日本の子育て家庭では、親は仕事に忙しく余裕がない。もちろん子どものことはすごく愛しているけれど、それを十分に伝えきれていないという実情があります。
では、どうすれば愛情をしっかり伝える機会がつくれるのか。たとえば公園の滑り台で遊ぶだけでも、子どもは自分が親から注目されていて、親も喜んでいるのがわかる、それがアタッチメントを醸成する契機になっていると知りました。そこで、限られた親子のコミュニケーションの機会をより濃密な時間にするために、「お出かけ」という切り口を考えたのです。最初はレジャー施設などではなく、小さな公園や広場、児童館など、身近な遊び場の情報提供からスタートしました。
蓮田:単にお出かけ情報の提供というより、子どもがよりよく育っていくための仕組みづくりをされているのですね。いまはどのくらいの施設が掲載され、また利用されているのですか。
下元:掲載施設数は約10万件、利用状況は年間6,000万ユニークブラウザー(閲覧数)です。当社のリサーチによると、9歳以下の子どもがいるパパ、ママの9割以上が使っているという結果が出ています。
蓮田:非常に高い利用率ですが、そこまで普及拡大した要因は何だとお考えですか。
下元:旧来の紙とは異なるメディアを活用した点と、東京など大都市圏だけではなく、全国の多様な地域の情報を掲載してきた結果、「いこーよ」のWebサイトを訪れなくても、「子ども」というキーワードを含んで検索すると、「いこーよ」の情報が表示されるようになったことも大きいと思います。
アクトインディ株式会社 下元 敬道氏
2. 子どもが地域の魅力を知り、さらに磨き上げるサイクルを
蓮田:下元さんはこの分野のレジャー施設の情報を熟知されていると思いますが、近年、施設のあり方として注目しているポイントはありますか。
下元:たとえば飲食店でもメディアで取り上げられると一見客が押し寄せ、地元の常連さんの足が遠のき、ブームが去ると誰も来なくなるというケースをよく聞きますが、長期的には、地元の人たちに愛される取り組みをバランスよく行なうことが大事だと思います。たとえば最先端のハードがなくても、子どもたちが安心して楽しめるような工夫に一生懸命取り組んでいる老舗遊園地のように。こうしたホスピタリティの発露は、回りまわって地元以外に広く観光客、さらにはインバウンドにも訴求するのではないかとみています。
蓮田:実際に、いま子育て世帯に人気の施設とは。
下元:子育て世帯にも多様な層がありますが、多少お金がかかっても、その遊びが子どもの何らかの能力開発につながるなど理由付けのある施設を経験させたいという層は一定数います。また中学受験の比率が高まるなか、問題の解決能力などが問われる入試が増えるともいわれていますが、そうした力を育むことができることを積極的に謳う施設も人気が高いですね。
蓮田:貴社は自治体などと体験イベントのコラボもされています。
下元:はい。いわゆる「お仕事体験」の企画は人気ですね。たとえば横浜市では、今年の「うみ博」の企画・運営をさせていただきました。海に関するお仕事体験や港に停泊中の船舶の見学などを行ったところ、過去最高の来場者数を記録したと聞いています。
また神市では、市の基幹産業である神戸港で働く日本人が減っているという課題に対し、お仕事体験をプロデュースしました。海や港の安全を守る海上保安庁の巡視艇や港湾での物流を支えるフォークリフトなどの特殊車両の操縦席に乗せてもらうなど、子どもたちも大喜びでした。市としても、子どもたちが港の仕事に興味を抱き、こういう仕事があるおかげで地域が成り立っていることへの気づきが生まれる企画として高く評価していただきました。
蓮田:自分が住んでいる地域の特徴や優れた点を理解することは子どもにとって大切なことだと思います。
下元:そうですね。これからわが国で観光産業が重要になるとしても、どこも画一的では意味がない。次世代の価値という観点からも、それぞれの地域に個性や特徴があり、それを認識した子どもたちがさらに磨いていくというサイクルが必要だと思います。
蓮田:同じく地域との関係性という意味で、スポーツにもいろいろな可能性があるなと最近思っています。地元のスポーツチームを応援することで「おらが街」という意識が醸成され、よりよいまちづくりにもつながってくる。レジャーであると同時に、スポーツ+ツーリズムによる地域活性化という側面もある。当社でも自治体とプロスポーツや運動スクール、また各種のスポーツ大会とコラボするなどの取り組みを始めています。
下元:大切な取り組みですね。地域住民や街と良好な関係をつくっているプロチームも出てきていますし、「いこーよ」としても大会やイベントを盛り上げる働きができるといいなと思っています。こうした楽しい遊びの場を通じて、次世代の価値を担う子どもたちに、よりよい体験をたくさんしてもらえればと思っています
hacomono 蓮田健一