フィットネス業界で働く方なら、「メディカルフィットネス施設」という名前を一度は耳にしたことがあるかもしれません。名前から医療との関連は予想できるかもしれませんが、一般的なフィットネスクラブ(以下、フィットネスクラブ)と何が違うのか、知らない方も多いかもしれません。実際に福島県で「Medical fitness Re-Birth」を運営する四家 卓也氏に、メディカルフィットネス施設を開業する際の準備や運営面において意識すべきポイントについて、お聞きしました。
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PROFILE
四家 卓也 Medical fitness Re-Birth ゼネラルマネージャー/メディカルフィットネス研究会 委員
病院で理学療法士として勤務した経験より、病気を発症する前や、怪我をする前の“予防”の大切さを実感し、「Medical fitness Re-Birth いわき本店」を2016年にオープンする。地域の人々が健康について医療や運動の専門家に「相談」「学び」「体験」できる「Wellness station(健康ステーション)」を目指して取り組み、2022年には2店舗目となる富岡店をオープンした。メディカルフィットネス施設に関するセミナーへの登壇のほか、開業に向けた相談対応やコンサルティング経験も豊富。
1. メディカルフィットネス施設の目的は病気や怪我の予防と未病改善
1-1. フィットネスクラブとの違いは提供するサポート内容
「メディカルフィットネス」は、1985年に医療機器メーカーが生み出した造語とされており(日本メディカルフィットネス研究会より)、メディカルフィットネス施設とは、広義な意味で医療的要素を含んだサポートを提供する施設を指します。この「医療的要素を含んだサポートを提供する」点が、フィットネスクラブとの違いといえます。
メディカルフィットネス施設では、主に病気や怪我の予防および未病(発病してはいないものの、心身が良いとはいえない状態)の改善を目的に会員のサポートに取り組んでいます。
メディカルフィットネス施設の運営形態には、医療法人が運営する施設(医療法42条施設)と、Re-Birthのように民間企業が運営する施設、さらに医療法人が環境を用意し運営を民間に委託するケースの大きく3つがあります。
メディカルフィットネス施設だからといって必ずこのマシンを用意しなければならないといったことや、特定の資格をもったスタッフを置かなければならないなどの条件はありません。しかし、医師と連携したり、医療的要素を含んだサポートを実施するために、スタッフとして医療従事者である理学療法士を雇用しているケースが多いです。
一般的に運動施設は、厚生労働省が定める、国民が安全に健康づくりを推奨できる環境を整えていることを示す「健康増進施設」の認定を受けています。そのうえで、健康運動指導士および健康運動実践指導者の配置など「指定運動療法施設」の要件を満たした施設は、医師の処方に則った運動療法を実施した際の施設利用料が医療費控除の対象となります。
Medical fitness Re-Birth(以下、Re-Birth)は、いわき本店と富岡店の2店舗がありますが、いわき本店は健康運動指導士を置いていないため「指定運動療法施設」にはあたりません。これは、病気を発症したり怪我をする前の“予防”に力を入れるためや、お客さまからの要望に応えるために、理学療法士を積極的に採用しているためです。
そのため、施設カテゴリーとしてはフィットネスクラブと同じ「健康増進施設」となりますが、理学療法士のほか、管理栄養士などをそろえ、医療的な要素を含んだサポートが実施できる体制を整えています。
1-2. 規定緩和や高まる医師からの注目により期待される施設数の増加
日本に1960〜1970年代に誕生したとされるフィットネスクラブに対して、比較的新しいメディカルフィットネス施設の存在はまだ多いとはいえません。しかし次の5つの理由により、私はこれから増えていくものと考えています。
- 医療保険の適用期間が終了したリハビリテーション患者の受け皿としてメディカルフィットネス施設が注目されている
- 自身でも運動に取り組むなど、健康に対する運動の重要性を実感する医師が増えている
- 2022年4月1日に厚生労働大臣認定健康増進施設の規定が緩和されたことにより、健康増進施設が増加傾向にある
- 少子高齢化対策として、国が健康寿命の増進に向けた取り組みに力を入れている
- 新型コロナの感染拡大などを経て、人々の健康への意識が高まっている
1や2については、Re-Birthへ医師からの問い合わせが増えていることや、日本メディカルフィットネス研究会が開催するセミナーに医師の参加が増えていることから実感しています。特に1については、医学用語を理解できるスタッフがいるケースが多いことから、運動施設のなかでも特にメディカルフィットネス施設が医師から注目されています。
2. フィットネスクラブ未経験かつ運動に対して消極的な会員が90%
では、実際にどのような会員がメディカルフィットネス施設に通っているのか、Re-Birthいわき本店を例に、会員の属性をご紹介します。Re-Birthいわき本店はパーソナルコンディショニングを中心にサービスを提供しており、月会費は9,000〜30,000円となっています。
・シニア世代が中心、男女比はほぼ同等
年齢層は50~70代が約70%、30代約20%、40代約20%、男女比はほぼ1:1です。もともと運動があまり好きではないという方が多く、会員の90%以上が過去にフィットネスクラブに通った経験がありません。「生活習慣病の検診でひっかかった」「医師から運動をすすめられた」というものや、腰痛、膝痛、肩こりを改善したいという理由で入会する方が多いです。
健康で、もともと運動が好きな方が多いフィットネスクラブと大きく異なる点です。
・入会経路は口コミが中心、医師からの紹介もあり
口コミによる入会が最も多く、続いて多いのが、施設の道路に面した部分に掲示しているポスターを見ての入会です。「医療機関との連携をうたうメッセージに興味を引かれた」と言う方が多いです。そのほか「医師に紹介された」という方もいます。Re-Birthいわき本店では、このようにして広告やチラシなどを打つことなく、集客することができています。
・入会の目的は短期的には「健康リスクや痛みの軽減」、長期的には「健康になるため」
短期的な目標は生活習慣病リスクの低減や、腰痛など身体疾患の改善ですが、長期的には「年齢を重ねても健康でいたいから」という理由の方が多いです。ボディメイクを目的とする方はほぼいません。
3. スタッフのサポートがあるから会員にとって必要な施設になれる
Re-Birthの1号店であるいわき本店を立ち上げてから7年が経ちました。運営するなかで感じた、メディカルフィットネス施設を運営することで得られる喜びや、ビジネス的な面からみたメリットをご紹介します。
・会員のQOL(Quality Of Life:生活の質)を向上できる
日々腰痛に悩まされていたある方から、「朝、起きて腰が痛くなかった」と喜んでいただいたことがあります。小さな変化かもしれませんが、毎朝の痛みから解放されただけでも、その方のQOLは大きく向上しました。そのほかにも、「検診結果がよくなった」などのお声をいただくことも多く、人々の健康に貢献できていることを実感します。
・「健康のために必要な場所」だからこそ逆境に強い
コロナ禍、多くのフィットネスクラブが会員数を減らしました。現在でも、コロナ前の水準に戻っていない施設も多くあると聞きます。Re-Birthも、コロナ禍中は会員数が20~30%減りました。しかし収束後の回復は早く、Re-Birthいわき本店はすでにコロナ前の水準に戻りました。
フィットネスクラブの会員は、もともと運動が好きな方が多いと思いますが、メディカルフィットネス施設は逆です。Re-Birthの会員も、多くが運動の必要性を認識しながらも、「運動したら症状が悪化するのでは」「1人ではどんな運動をしたらいいかわからない」という理由から入会しています。会員が「自分の健康のために必要な場所」と認識してくれているため、早く会員数を戻すことができました。
・新たなビジネスの創出につながりやすい
近年、各地でウェルネスなまちづくりに向けたスマートウェルネスシティ構想※が進んでいます。スマートウェルネスシティ構想において、健康増進に貢献できる運動施設の存在は欠かせません。ご高齢の方や体に疾患をもつ方を含め、誰もが安心して運動に取り組める施設づくりに向けて、Re-Birthに相談が寄せられたり、また運営を受託されるなど、新たなビジネス創出につながっています。
※住民の健幸(=健康で幸せ)に重きを置いたまちづくりを指す。体だけでなく心も含めた健康づくりのほか、周辺環境の整備や、地域コミュニティの醸成など、多方面から「健幸づくり」に向けてまちづくりを行う。
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この記事は3回に分けてお届けします。第2部では、実際にメディカルフィットネス施設を開業する際の準備や運営面で意識すべきポイントについて、また第3部では、Re-Birthが連携する医師による、メディカルフィットネス施設と連携することで実現できる健康増進への効果を紹介します。