2016年にオープンした大阪府大阪市にある「Labre」は、インストラクターもすべて女性でそろえる女性専用のパーソナルトレーニングジム(以下、ジム)です。ジムの指導者は男性であることが主流ですが、この施設では体型にコンプレックスを抱える女性でも周囲の目を気にせずトレーニングに集中してほしいという理由から、女性専用かつすべてのインストラクターを女性で揃えています。今回は、オーナーである船場恵美氏に、通いやすい施設づくりや会員に即した継続率向上のためのファン化施策、会員に支持されるインストラクターの採用・教育に関するノウハウを聞きました。女性専用施設に限らず、会員が気持ちよく通える施設づくりにつながるヒントが多いため、ぜひご覧ください。
INDEX
PROFILE
船場 恵美 Labre オーナー
自身がダイエットを目的に加圧トレーニングジムへ通った際、男性指導者の存在や男性会員の多さから、女性が入会しづらい雰囲気を感じたことをきっかけに「Labre」を立ち上げる。体にコンプレックスがある方でも、誰に気兼ねすることなく気軽に利用できる施設をつくることに力を入れている。
1. 退会率抑制と新規集客の両輪で導く安定した施設運営
集客に力を入れるフィットネス施設は多いですが、同時にファンづくりにも力を入れている施設はまだ少ない印象です。ファンの定義はいろいろありますが、「Labre」では「当ジムに愛着をもって通い続けてくれる会員」をファンと位置付けています。ファンを増やすことは退会率の抑制にもつながります。ファンづくりに取り組みつつ、インストラクターが定期的にブログでメッセージを発信するなどして指導者の人格がわかるようにすることで、新たな会員を集客して会員数を増やし、施設が安定稼働していけるというように、いい循環を生み出せるように工夫しています。
2. 会員をファンにする「Labre」の取り組み
現在、体験からの入会率は90%を超えています。インストラクターが全員女性であることの安心感や、同性同士の会話の気楽さや楽しさから「Labre」に入会する方が多い傾向にあります。
入会後も、気持ちよく会員が施設に通い続けてくれるように以下のような配慮をしています。会員目線に立ったこまやかな気遣いが、施設への愛着を育むことにつながっていると考えています。
2-1. 一人ひとりに向けたメッセージ送信で気遣いを示す
「Labre」では、入会した方に必ず公式LINEに登録してもらっています。1週間、来館がない会員にはLINEよりメッセージを送りますが、その際、決まり文句を並べただけの定型文は使いません。担当するインストラクターが会員に合わせたメッセージを送っています。
その結果、9割近い方が、返信をするか、または予約をしてくれるようになりました。システムから自動で1週間ほど来館がない方を抽出し、定型文を送っていた頃は、返信はなく、予約する方もほぼいなかったことを考えると、非常に高い効果が得られました。
メッセージの一例を紹介すると、毎週決まった曜日に来ている方が前日に予約をキャンセルした場合は、理由をヒアリングしたうえで空き日程を伝えます。具体的には、本来の来館予定日に、「○○さん、今日はお休みですがどうしましたか? 明日ならば○時が空いていますが、いかがですか?」などとメッセージを送ります。インストラクターと会員の関係性が縮まるだけでなく、「Labre」に通うことの習慣化を促すことにもつながります。
2-2. 信頼関係の構築にはレッスン前後の雑談が重要
インストラクターが前回のレッスンの状況や会話をしっかりと覚えていると、会員は安心するとともに「自分のことを真剣に考えてくれている」と感じます。レッスンが始まる前に、「前回は少しお疲れのようだったので控えましたが、今日は少し負荷をかけましょう」といったようなお声がけをすると効果的です。
「Labre」のインストラクターは、担当している会員が興味をもっていることを自主的に調べて知識を得たり、レッスン中やその前後の会話をしっかりとカルテに記入するなどして、会員との関係性の構築に活かしています。
2-3. 会員の努力を表彰しモチベーションを高める
新型コロナの感染拡大が始まってからは開催できていませんが、かつては毎年、目標体重を達成してダイエットに成功した会員を5名選出し、表彰するイベントを開催していました。選ばれた会員はほかの会員やインストラクターの前でスピーチをするのですが、ダイエット中の苦しさを思い出して涙ぐむ方も。感動的な場面はInstagramでも発信し、見ている方の運動へのモチベーションアップにつなげていました。
なお、このイベントでは、食事を楽しみながら互いの仕事の話で盛りあがったりと、会員同士のつながりをつくるよい機会にもなっていました。コミュニケーションの輪が広がることで来館へのモチベーションが保たれやすくなり、結果として退会率の減少に良い影響があったのではないかと推察しています。
2-4. 押し売りせず、自主性を育てる雰囲気をつくる
「Labre」では、「運動してください」「プロテインを飲んでください」といった押し売りにも聞こえる発言は、極力しないようにしています。施設として「大切なのは、会員自身が運動の必要性を理解した上で、自主的に行動を起こすことだ」という考えを掲げているからです。インストラクターは、必要性を感じてもらえるように伝え方を意識しています。「〜してください」という押し売り発言をしない取り組みは、会員にかかる来館プレッシャーを減らすだけでなく、前向きに通える雰囲気づくりにもつながっています。
3. 働きやすい環境づくりでインストラクターから選ばれる施設に
「Labre」では、会員だけでなくインストラクターにも気持ちよく働いてもらえる環境を整えています。このことが質のよいレッスン提供につながり、間接的に会員をファンにすることにもつながっています。
3-1. 自分磨きもできる4勤・3休の勤務体制
インストラクターは4日勤務、3日休みという勤務体制です。かつて週5日勤務を実施していた時期もありましたが、体力的に辛いという声や、体調を崩す者が出たことで変更しました。週5日勤務のときより、1日あたりの勤務時間は1時間ほど増えていますが、こちらのほうが体力的な負担が少なくてすむと喜ばれています。
3日間の休みがあることで「休養だけでなく、自分の趣味やスキルアップのために使える」と好評を得ており、これを理由にインストラクターに応募してくる方もいるなど、離職率の低下だけでなく、採用面にも良い効果が出ています。
3-2. モチベーションを向上させる指名料
「Labre」では、インストラクターを指名する場合、レッスン受講料とは別に指名料を支払う形式です。指名料は、インストラクターの経験年数や指名数などによって、500円または1,000円に設定しています。指名が増えれば増えるほど収入につながるので、インストラクターのモチベーションの向上にもつながっています。
3-3. 指導スキルよりも人間性や社会人経験を重視
インストラクターの採用で重視するのは指導スキル以上に人間性です。面接では「自分が輝きたい人物」ではなく「会員を輝かせることに喜びを感じる人物であるか」を見極めるようにしています。
社会人経験も重要視しています。月会費が数万円にもなるパーソナルトレーニングジムに通う会員のなかには、経営層やマネジメント層などのリーダーポジションにいる女性も多いためです。過去に「友だちのような言葉遣いや対応が気になる」との指摘があったこともあり、最低でも社会人経験が4年以上ある人物を採用するようにしています。
社会人経験を重要視する理由はもう1つあります。一般的に、異性よりも同性に対してのほうが自然と厳しい目を向けてしまいがちです。「Labre」は、会員もインストラクターもすべて女性だからこそ、言葉遣いや接客対応には、男性のインストラクターが女性会員に接するとき以上の配慮が必要だと考えています。ビジネスマナーや気配りといったスキル面からも社会人経験のある方を歓迎しています。
3-4. 会員が親近感を覚える人物を採用する
会員の9割は運動初心者であり、「自分のような運動初心者がパーソナルトレーニングなど受けていいのか」と感じている方も多くいます。パーソナルトレーニングに対して「アスリートのような日ごろから運動に取り組んでいる人が受けるもの」というイメージがあるため、筋肉が隆々としたハードにトレーニングしていることがわかる体形のインストラクターでは、会員が気後れしてしまう可能性があります。そのため、会員が「自分もトレーニングして痩せたら、こういう体型になれるかもしれない」と身近に感じられる体形の方を採用するようにしています。
3-5. 接客力向上のためロジカルシンキング(論理的思考)を鍛える研修を実施
指導スキル以上に人間性が重要だと考えるため、すべてのインストラクターを対象に月2回ほど研修を実施しています。
会員の性格に合わせて伝え方や指導方法を変えられるように、教材を使ってロジカルシンキング(物事を体系的に整理し、矛盾や飛躍のない筋道を立てる思考法)や人間の思考法について学ぶだけでなく、全員でディスカッションを行うなどして接客スキルを高めています。なお、ディスカッションは、インストラクターそれぞれの協調性をはかるよい機会にもなっています。
4. 同性だからこその相談しやすさから育む女性の健康
会員に向けた誠実かつ系統立てた取り組みから、「Labre」の会員には7年前のオープン当時から継続している方も多くいます。そのような方からは「お休みしたときに必ずLINEで気遣うようなメッセージを送ってくれるので、『待っていてくれるんだし、行かなきゃ』という前向きな気持ちになり、続けられている」という声が挙がっています。
新型コロナの感染拡大を機に退会された方もいますが、収束とともに徐々に会員数も戻ってきており、かつて実施していた会員の努力を表彰するイベントについても再開を検討しているところです。
一番課題に感じていることは、定期的に結婚、出産などを機に退職するインストラクターが出てしまうことです。実際に退職により、一部のインストラクターが多くのレッスンを担当しなければならない状況になったこともありました。それでも、女性インストラクターのみで運営していくことを今後も変えるつもりはありません。女性が体の悩みを安心して相談し、改善に向けて取り組める場を提供するだけでなく、体調の変化が起こりやすい女性たちが日々を快適に過ごせるように注力していきます。昨年からはブログやInstagramにて、健康情報やインストラクターそれぞれの強みを積極的に発信することに取り組んでおり、ここから少しでも施設の魅力を感じてくれる方を増やしていきたいと考えています。