【後編】この記事は2回に分けてお送りしています。
【前編】はこちらから
「LP BASE Toranomon」「LP BASE Setagaya」という2店舗のパーソナルトレーニングジムを運営する株式会社ライフパフォーマンスで代表取締役CEOを務める大塚 慶輔氏。大塚氏はサッカー女子日本代表(なでしこジャパン)やヴィッセル神戸の酒井 高徳選手など、第一線で活躍するアスリートのフィジカルトレーニングを担当するフィジカルコーチでもあります。後編となる本記事では、フィジカルコーチとしての仕事や、ライフパフォーマンスで手がけているもう一つの事業・アスリートサポート事業についてうかがいました。
INDEX
PROFILE
大塚 慶輔 株式会社ライフパフォーマンス代表取締役CEO、なでしこジャパン フィジカルコーチ
筑波大学大学院体育研究科修了後、2005年にアルビレックス新潟ユースフィジカルコーチに就任。その後2020年までJリーグのいくつかのチームにてフィジカルコーチを担当。2021年になでしこジャパンフィジカルコーチに就任。2017年、株式会社ライフパフォーマンスを設立し、アスリートのコンディション管理を行うアスリートサポート事業を開始。2018年にLB BASE Toranomon、2022年にLB BASE Setagayaをオープンする。
1. なでしこジャパンのチームパフォーマンスを上げるミッションを持つフィジカルコーチ
2021年から、サッカー女子日本代表・なでしこジャパンのフィジカルコーチに就任しました。運動、栄養、休養といった体調・コンディションにかかわる要素を管理しています。試合のスケジュールを確認しながら、いつフライトがあって、それにあわせてどんなスケジュールでどんなトレーニングをするのか、いつ何を食べるべきなのか、いつ寝てどのくらい休養をとるのがいいのかといったところを監督や関係スタッフと話しながら決めていきます。
ワールドカップやオリンピックで優勝するために、選手たちがどういうコンディションでいるべきかを考え、そのために逆算してトレーニングやコンディションづくりをやっていく、その方針を決めるのがフィジカルコーチです。基本的にはチームパフォーマンスをあげることがミッションですが、選手個人の長所や短所を見たうえで、個別トレーニングを指導したりもします。
なでしこジャパンでも、ドクターやメディカルスタッフの意見を聞いて、その知見をとりいれた多角的なアドバイスを行っています。
2. アスリートサポート事業で約50人のトップアスリートをサポート
“チーム高徳”として酒井 高徳(さかい ごうとく)選手のサポートをするうちに、このチームの知見をいかし、他のアスリートのサポートもできるのではないかと考えるようになりました。そこではじめたのが、アスリートサポート事業です。現在は約50人のアスリートをサポートしています。選手個人との契約もありますし、アスリートの代理人から「海外でも活躍できるように、移籍前から海外在住中もサポートしてほしい」と頼まれることもあります。2013年から、当時ドイツにいた高徳選手のサポートを経験してきているので、海外在住のアスリートをオンラインで支援する体制も確立しています。具体的には、コンディションデータや食事メニュー、練習メニュー、睡眠状況、怪我の状況などを共有できるツールを使用して、アスリートのコンディションを日々確認し、専門家によるフィードバックを行っています。
経験を積み重ねているので、日本選手が海外チームに移籍した際に、どういう点で困るか、どういうサポートがあったら有益かというのがわかるんです。なので、選手が困る前に先回りしてサポートしたり、選手から「こういう点で困っている」という申告があったらすぐに対応できるチームを整えています。現在は三笘 薫選手や鈴木 彩艶(ザイオン)選手などのサッカー日本代表選手もサポートしています。
3. スタートアップミーティングの目標設定でアスリートが覚醒、キャリアビジョンも明確に
アスリートサポートの一例ですが、アスリートを中心としたスタートアップミーティングを行います。フィジカルコーチ、スポーツドクター、スポーツ栄養士、ビジネスコーチ、メンタルコーチ、トレーナーが一堂に会して、いろいろ質問しながらその選手の目指すところを聞き出すんです。そしてそれぞれの専門家たちが目標達成のために必要な要素をピックアップしていきます。そうやって、中長期の目標と短期の目標をたて、どのように1年を過ごせばその目指すところへ到達できるかと話をしていきます。このミーティングを行うことで、一気にアスリートも覚醒していきます。キャリアビジョンを明確にすることで、そこに行き着くためのルートが設定できますから。
そのアスリートが関東近辺在住であれば、週に1回、虎ノ門や世田谷のLP BASEに通ってもらい、トレーニングや調整を行います。遠隔地であれば、月に1回は来てもらうようにします。海外在住のアスリートは、オンラインでのサポートになります。オンラインサポートに関しては2013年からの積み重ねもありますし、かなり高いレベルでのサポートは可能です。オンラインサポートでも80%の改善はできるんですが、ハイレベルのアスリートであればあるほど、残り20%の改善が大事ですから、細かい調整をするためにも直接来店してもらうよう促しています。
4. アスリートのデュアルキャリア・セカンドキャリアへのチャレンジとしての共同経営
2022年7月に世田谷にオープンした「LP BASE Setagaya」は、畠中 槙之輔選手(横浜F・マリノス所属)が代表を務める株式会社SFM44と、化粧品メーカーの株式会社レカルカとの共同運営になります。レカルカとは、女性層にもアプローチしていきたいという弊社の狙いと、先方もスポーツ事業に関わりを持ちたいと考えていらっしゃったのが、協業の理由です。株式会社SFM44との共同運営は、アスリートのデュアルキャリア、セカンドキャリアを開拓するうえでのチャレンジの一つです。
畠中選手は現在もアスリートとして第一線で活躍していますが、今後、引退したとしても「LP BASE Setagaya」に在籍できるし、共同経営権を持っていればそこからの収益を得られます。現在はサッカー選手としてプレイしながら、ジム運営というセカンドキャリアのノウハウをトレーニングしている状態です。
もともと畠中選手のアスリートサポートを行っていたのですが、そのなかで「今後どうなっていきたいか」といった話をしている際に、将来像としてジムを経営したい、という話が出たんですね。それで、「じゃあ新店舗を出す際に、一緒にやってみてはどうか」と誘いました。
「引退後のアスリートがどう生計を立てていくか」というのは、永遠の課題でもあります。彼との取り組みがうまくいけば、日本各地で他のアスリートとも同じ取り組みができると考えています。実際、福岡や仙台在住で、興味を持ってくれているサッカー選手もいます。来てくださるお客さまにとっても、現役のアスリートに指導してもらえるというのはうれしいでしょうし、お店にとっても集客につながりますよね。
5. 人をサポートするマインドを持ったコーチこそが質の高いコンディショニングを可能に
弊社所属のパフォーマンスコーチは、大学院で学び、スポーツ医科学などの専門的な知見を有しています。またパフォーマンスセラピストは鍼灸師やPT(理学療法士)などの国家資格を有し、現場で経験を積んだ人間です。
我々の強みの一つが、“人”、つまりパフォーマンスコーチやパフォーマンスセラピストの存在です。弊社では、まずパフォーマンスセラピストが怪我をしてパフォーマンスが出しづらい方をケアし、痛みや不安などの問題がない状態に戻します。そして問題がなくなったら、パフォーマンスコーチの指導によりパフォーマンスをあげていく、という体制をとっています。
こういったパフォーマンスセラピストやパフォーマンスコーチというのは、一人ひとりのお客さまに寄り添って、しっかりお話を聞き、その方がジムに通うことにした目的や、目指す目標を引き出せることが大事なんです。もちろんスキルや知識があることが前提ですが、そのうえで人に寄り添い、人をサポートするマインドを持っていることが大切だと思っています。採用は基本的に紹介ベースなのですが、そういったマインドがあると思った方を採用しています。
6. トップアスリートから子どもまで、エビデンスのあるパフォーマンスアップを
株式会社ライフパフォーマンスで行っているアスリートサポート事業、LP BASEのパーソナルジム事業ともに、クライアントの人生全体のパフォーマンスをアップさせていく事業です。Jリーグ、なでしこジャパンといったトップアスリートに対して提供してきたトレーニングメニューや知識・経験を、一般の方にも生かして欲しいと思っています。
そのために、丁寧にコミュニケーションをとりながら、トップアスリートから一般の方までその方の目標に合わせて、さまざまな専門家の知見を提供し総合的にサポートしています。我々が提供するメニューや製品は、すべてエビデンスがあるものです。
トップアスリートの指導でつちかった知見を、ビジネスマン、サッカー上達を目指す子どもたちに提供し、日本のスポーツ界をボトムアップしていきたいと考えています。これからも、我々の知識と経験ですべてのクライアントが人生をパフォーマンスアップしていってほしいですね。