子どもが“また戻ってきたくなる”プログラミングスクールとは? 神戸発「キッズプログラミングスクール ハック」は、2020年のプログラミング教育必修化に先駆け、2015年にスタートしました。現在は関西を中心に6校を展開し、累計生徒数は1,500名以上(2025年4月現在)にのぼります。代表・森田康太郎氏に、地域に根づく教育の可能性と運営のこだわりを聞きました。
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PROFILE
森田 康太郎 株式会社ハック 代表取締役
新卒で大手英会話スクールへ入社し、当時は先進的であったオンライン英会話レッスンのサーバ・システムの構築・運用管理などに従事する。知識や経験を活かし、2007年にシステム開発・サーバ構築から運用保守までをワンストップで提供するMSP(マネージドサービスプロバイダー)を提供する株式会社ビヨンドの創業メンバーとして参画。2016年には株式会社ハックを立ち上げ、小中学生向けプログラミングスクール「キッズプログラミングスクールハック」をスタートする。独自開発のMinecraft©(マインクラフト)用Modの8x9Craft©(ハッククラフト)は当スクール内だけでなく、日本で最も有名なプログラミングスクールや、日本最大手の個別指導塾にも提供実績がある。
1. 子どもたちの豊かな人生のために、出身地の神戸でプログラミングスクールを立ち上げ
—— 「キッズプログラミングスクールハック」(以下、ハック)立ち上げの背景を教えてください。
自分の子どもを「通わせたい」と思えるようなスクールを作りたいという想いが発端でした。コンテンツにプログラミングを選んだのは、私自身がコンピューターを学んだことで、人生の選択肢が広がったと実感していたからです。
正直、どれほどの需要があるかもわかりませんでしたが、2015年に神戸市の「KOBEドリームキャッチプロジェクト 認定ビジネスプラン」(※)に選出されたことで、「自分たちの事業は社会的に価値のある取り組みなのだ」と自信を深めることができました。出身地に貢献したいという思いもあり、2015年に神戸市でパートナーと2人で「キッズプログラミングスクールハック」を立ち上げました。
※神戸市による新規事業に挑戦する中小企業や起業家を支援するプロジェクト。将来性や成長性を審査し選定を行う。
—— 文部科学省がプログラミング教育の必修化を明記した新学習指導要領を発表したのが2017年、そして2020年から実際に必修化されましたが、ハックはかなり前からスタートしていたのですね。
駅前や学校の近くでチラシ配りを行いましたが、当初は集客に苦戦しました。それでも、パートナーとは「レッスンを中止にすることだけは絶対にやめよう」と決めていました。生徒数がある程度集まるのを待っていたら、「ニーズがないのかな」と情熱が薄れて、実現できないまま終わってしまう気がしたからです。生徒がいない時期は、自分たちの子どもやその友だちなど、関係者を集めてレッスンを行っていました。すると、3ヶ月ほど経った頃から、少しずつ生徒が増えていきました。
—— ハックの特徴を教えてください。
現役のエンジニアを中心に講師陣を構成しているため、初級レベルから最先端かつ高度な指導まで対応できるのがハックの強みです。中には、小・中・高・大とハックで学び続けた元生徒も講師として活躍しています。彼らはハックの指導方針をしっかりと理解していて教え方も素晴らしいですし、現役の生徒からすると「近所のお兄ちゃん・お姉ちゃん」のような存在で、親しみやすいようです。

株式会社ハック 代表取締役 森田 康太郎氏
2. 「好き」を育み、いつでも帰ってこられる場所に
—— ハックの運営において大切にしていることを教えてください。
2つあります。1つ目は「長期的な視点」で運営していることです。これは、ハックの構想を相談したある経営者の方の言葉がきっかけでした。その方は、「“教育”とは幼少期から社会に出るまで提供し続けるもの。1世代の教育には20年かかる。もしその“教育”が良いものであれば、成長した子どもが結婚し、次の世代へ、さらには孫へと継承されていくはず。3世代・約60年にわたって受け継がれるようになれば、それは地域の“文化”になる。文化になるまで続ける覚悟があるなら、やるべきだ」と言ってくれました。その言葉で覚悟が決まりました。
2つ目は、「『知る』の共有」と呼んでいますが、「知る」ことを大切にしています。間違いや他人からの否定を恐れず、社内でも積極的にアウトプットを行い、互いに学び合いながらより豊かな人生を育んでいきたいと考えています。言い換えれば、自分たちが面白いと感じたことは、どんどん発信できるような組織でありたいと思っています。—— 長期的な運営のために取り組んでいることはありますか。
ハックでは各校ごとに収支を管理し、それぞれの校舎がきちんと黒字化できているかを定期的にチェックしています。スクール全体を一括で管理する方式を取るところも多いようですが、私たちは各拠点の健全な運営を重視しています。
—— お子さまへの指導において意識していることを教えてください。
まず、コンピューターやプログラミングを「好きになってもらう」ことを大切にしています。そして、その“好き”を伸ばしていける環境を提供したいと考えています。スキルが高まれば壁にぶつかることもあるでしょう。そんな時は、たとえ卒業していても、また気軽に戻ってきてもらえるような場所でありたいと思っています。ハックに来れば、プログラミングの楽しさがよみがえる——そんな存在になりたいですね。

3. 保護者からの感謝の涙に感動、質の高いコンテンツで進化し続けるスクールを目指す
—— これまでの運営の中で、嬉しかった出来事はありますか。
開校当初に入会してくれた子どもたちも、今では20歳前後となり、それぞれの道を歩み始めています。その中の1人が、コンピューターサイエンスで有名なアメリカの某名門私立大学への進学を決めたと聞いたときは本当に嬉しかったです。保護者の方から「もしハックに出会っていなかったら、今の人生はなかったと思う」と涙ながらにお礼の言葉をいただいたことは、最近で最も嬉しかった出来事ですね。
—— 近年は指導の対象者がさらに広がっているようですね。
高校・大学・専門学校・企業などにも講師を派遣して指導を行っています。神戸市立青少年科学館のプログラミング教材の監修や、神戸のOSシネマズさまとの共同プロジェクトにも携わっています。
—— 今後、プログラミングスクール業界はどのように変化していくとお考えですか。また、ハックとしての今後のお取り組みについても教えてください。
プログラミング教育の必修化から数年が経ち、今ではプログラミングを学ぶことが「特別なこと」ではなく「一般的なこと」になってきたと感じます。これから少子化が進む中では、生徒数や教室数を追い続けるよりも、教育コンテンツの開発に注力することが重要になると考えています。そのため、今後も指導コンテンツのアップデートを重ねていくことはもちろん、現役エンジニアが中心の組織だからこそ可能な、独自のコンテンツやシステム開発などにも積極的に取り組んでいきたいと思います。