オリンピック金メダリスト・北島康介氏をはじめ、国内外の大会で活躍するトップスイマーを数多く輩出してきた東京スイミングセンター。同社は2025年、「競泳の名門」という従来のイメージに、親しみやすさを加えたホームページ(以下、HP)へ刷新しました。その背景と狙い、デジタル化のメリットについて、同社総務部 総務部門長の七呂 靖弘氏にお話を伺いました。
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PROFILE
七呂 靖弘 東京スイミングセンター 総務部 総務部門長
日本スポーツ協会水泳コーチ1、競泳C級審判員、健康運動実践指導者。ベビーから小学生、さらに成人とさまざまな年齢のスイマーを指導した後、現在は総務部にて運営の全体管理を担う。競技会では運営責任者として、多くの大会の運営・進行にも携わっている。
1. 「名門」のイメージに「親しみやすさ」を追加、新規顧客開拓を目指しHPを刷新
—— HPを刷新した一番の理由は何だったのでしょうか。
競泳・体操・大人のフィットネスと指導の幅が広がるなか、旧HPは仕様の問題もあり、操作性が悪くなっていたこともありますが、一番の理由は会員数の伸び悩みでした。これまでは「競泳の名門」としてのブランド力が集客の軸でしたが、少子化の影響もあり、その強みだけでは限界を感じていました。そこで、HPへの流入経路や離脱ポイント、Web広告効果を可視化できるよう、全面的に作り変えることにしたんです。
—— 新しいHPはとても親しみやすい印象を受けます。
そのように感じていただけて嬉しいです。今回はあえて「名門」や「伝統」というイメージを抑えました。選手の活躍により、競泳の情報を探しているコア層には自然と見つけてもらえるようになりましたので、新しいHPでは、これまで獲得できていなかった水泳初心者や、地域にお住まいのフィットネスを楽しみたい方々に親しみを持ってもらえるデザインを意識しました。
—— イメージ刷新について、社内から反対の声はありませんでしたか?
施設として一番優先すべきは会員数の向上であることは皆が認識していましたから、反対意見はほとんどありませんでした。HP制作にあたっては、当社の理想を実現されている、いくつかのスクールさまのHPを参考にさせていただきました。
生徒を指導中の七呂氏
2. デジタル化で電話問い合わせ減少と入会率アップ
—— 刷新してからまだわずかですが、何か変化はありましたか?
電話でのお問い合わせが驚くほど減りました。以前は当スクールに興味を持ってくれた方がHPを訪れても、教室内容やスケジュールを見つけづらく、お電話で問い合わせてくる方が多かったんです。今は、HPで必要な情報にすぐに辿り着けるので、お問い合わせ内容も入会に関する具体的なものに変わってきています。HPがわかりやすくなったことでお客さまの理解度も高まり、フロントでの説明時間も、以前の半分で済むようになりました。
また、入会率もまだわずかではありますが、高まってきています。HPに幅広い世代の写真を掲載したことで、より多くの方に「行ってみようかな」と感じていただけているのだと思います。
—— 短期教室ではすでに会員管理システム「hacomono」を活用されていて、今回のHP刷新により、さらにデジタル化を進めた形になりますね。ちなみに、「hacomono」導入によりどのような効果がありましたか?
総務スタッフがフロントや電話で受け付けていた手続きが、Webで決済まで完了できるようになったことで、窓口対応や電話件数は大きく減りました。また、スタッフ間で情報を共有できる「申し送り機能」を使えば、お子さまの既往歴などをコーチにスムーズに共有できるようになり、安心・安全な指導につながっていることも大きなメリットです。総務の見落としにコーチが気づいてくれるケースもあるなど、情報連携の利便性が高まりました。
—— 一方で、デジタル化により感じている課題はありますか。
限られた人員体制となった分、イレギュラーな事象で人手が必要になった際の対応をどうするかは課題ですね。また、属人化された業務は極力なくし、一人ひとりが複数の業務に対応できる「マルチプレーヤー」となることの重要性も感じています。
3. スイミング業界活性化に向け、生徒の成長データ活用がカギ
—— 今後の目標について教えてください
オリンピアンを輩出するという目標は変わりません。そのために、まずは水泳に取り組む子どもたちを増やし、高みを目指す選手を育成したいと考えています。そのためにも、短期教室の参加者や退会者といった「見込み客リスト」を最大限に活用していくつもりです。最近はメールマガジンの規制が厳しくなってきたので、LINE連携など新しいコミュニケーション方法を模索しているところです。また、少人数運営の中でもお客さまのお困りごとに素早く気づけるよう、高性能な防犯カメラの導入なども検討していきたいと考えています。
—— デジタル化は日本の競泳界やスイミング業界にどのような貢献をもたらすとお考えですか。
現在のように、生徒の成長記録を各クラブで個別に保有しているだけの状態は非常に勿体無いと感じています。デジタル化により生徒情報をデータとして業界全体で共有・分析することで、例えば「幼少期に○○な傾向がある子どもは、将来トップ選手になる可能性が高い」などの傾向を発見できれば、指導の向上や業界活性化につながるはずです。ぜひいつか、そのようなことが実現できれば嬉しいですね。
—— 最後に、デジタル化を躊躇している、または検討中の全国のスイミングスクールの方へメッセージをお願いします。
複数のスクールを検討している保護者にとって、「Webで簡単に振り替えができること」は間違いなく最後の一押しとなります。同業他社だけでなく、たくさんの習い事の中からスイミングを選んでいただくためにもデジタル化は必須条件といえるでしょう。
