全国で加速する学校水泳授業の民間委託。設備の老朽化や猛暑、教員の負担増という現場課題に対し、株式会社ルネサンス(以下、ルネサンス)は「安全運用の仕組み化」と「店舗負担を抑える導入手順」で、2025年9月時点で133件の受託を実現しています。地域健康推進部 こども未来共創チームの吉成太紀氏に、事業化のきっかけ、自治体・学校への提案ポイント、現場の反応について訊きました。
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PROFILE
吉成 太紀 株式会社ルネサンス 地域健康推進部こども未来共創チーム 課長代理
2013年に株式会社ルネサンスへ入社し、関東地区や九州地区の店舗で水泳指導・店舗運営に従事する。2020年に社内企画公募制度を活用し、学校水泳の受託事業を提案。2021年に地域健康推進部に異動し、現在は主に自治体向け学校水泳授業を中心に、子ども向け事業を担当している。
1. 学生時代の経験が原点に。施設と先生の課題を解決する事業モデル
—— 現在、水泳指導の受託が拡大する背景には、どのような課題がありますか。
課題は大きく2つです。1つ目は、設備の課題。学習指導要領で水泳が位置づけられた時期に整備された多くのプールの老朽化が進んでいます。さらに、その多くが屋外ですが、近年は猛暑や集中豪雨の影響で授業が中止になることも多く、規定の半分しか水泳の授業を消化できないという状況に陥っています。
2つ目は人的な課題です。長時間労働や保護者対応、事務作業など教師の負担が増える中、特に水泳指導においては水質・設備管理の他、非常に高い安全管理が求められるため、心身の負担が大きくなりがちです。
—— 吉成さんはまだ受託件数がわずかだった時に、事業化を社内企画公募制度を利用して提案されたそうですが、きっかけは何だったのでしょうか。
私は幼少期、ルネサンスのスイミングスクールに通っており、スイミングコーチを目指して大学でも水泳部に所属しました。水泳部では小学校の水泳授業のサポートを行っていたのですが、そこで水質・設備管理や、水泳自体の経験がないのに子どもたちに水泳指導を行わなければならないなど、先生たちの苦労を目の当たりにしたんです。
その他、東日本大震災後に、被災地である気仙沼の小学校で水泳指導を提供した際に、保護者・お子さまからとても喜んでもらえた経験から、「水泳には人を笑顔にする力がある」「プロによる水泳指導が求められている」ことを実感しました。
—— 提案の元は実体験だったのですね。事業化に際して、どのような点が大変でしたか。
関連部署の協力を得ることですね。新規事業として通常業務の他に時間を確保してもらうことが必要になりますから。そこで「なぜ取り組むのか」「ルネサンスが取り組む意義」を明確にし、周囲の理解を得ることに注力しました。その際、ただの施設提供業にしないためにも、「スポーツクラブがもつノウハウで、先生の課題を解決する」をテーマにしました。
 
吉成 太紀氏
2. 不安を解消する「全体像の見える化」がカギ
—— 小学校や自治体への提案をスムーズにするために、どのような準備をしましたか。
社外・社内において、それぞれ次のことに取り組みました。
- 社外:当社の地域健康推進部やマーケティング部と連携し、セミナーの実施やメルマガ・ホワイトペーパーを配信するなどの営業活動を行い、まずは自治体や学校に取り組み内容を認知してもらう営業活動に取り組みました。そして実際の提案時には、「(実現に向けて)決めるべきことリスト」や「指導当日の運用フロー」などを提示しました。全体像が見えると、相手の不安が解消され、検討が前に進みやすくなります。
- 社内:実現すれば、店舗では新たな業務が発生することになります。その負担をできるだけ抑えられるよう、店舗責任者・スタッフと連携しながら水泳授業に関するマニュアルを作成し、すべきことを明確化しました。基本的に営業時間外に実施することもあり、採用サポートにて人員の補充にも取り組みました。
—— 自治体や学校の窓口になるのはどの部署になるのでしょうか。
基本は自治体の教育委員会になります。場所の課題に関しては施設管理課が、指導の質の課題については指導課が窓口になります。地域交流などを目的としたイベントを開催する場合は、学校に直接提案します。
—— 指導は、ルネサンスの施設で実施する、またはルネサンスのスタッフが学校へ赴くなど、複数あると思います。中心となるのはどのパターンでしょうか。
感覚値として、ルネサンスの施設に来ていただくパターンが9割ほどと圧倒的に多いです。そのうち7〜8割は当社スタッフで指導まで行う「施設+指導」がセットのパターンです。人数規模的にプールを全面使用することが多いため、基本的に店舗の休館日を利用して実施します。営業日に実施する場合は、店舗の営業時間前、いわば小学校の1時限目相当にあたる時間帯に実施しています。
 
3. 全国のクラブと共創し泳ぐ楽しさを子どもたちに
—— 実際に多くの小学校の水泳指導を受託している今、ルネサンスとしてどのような価値を提供できていると感じますか?
先生方は指導要領をしっかり学ばれていますが、「より安全で効果的なやり方」の知見は現場で蓄積が必要です。そこに当社の長年のノウハウが活きています。実際、先生方からは水が苦手な生徒への声かけや安全管理に向けた体制作りについて「参考になった」というお声を多くいただいています。特に後者については、プール内外の監視員によるWチェック、溺れている子がいないかの定期的な水底チェック、それらを都度業務日誌に記載するなどの徹底ぶりに感嘆の声が寄せられています。一方の子どもたちからは、「たくさん褒めてくれるから、プールが楽しい」「水温が快適」「虫がいなくて水が綺麗」などと喜ばれています。
—— 貴社の指導をきっかけに、水泳を好きになる子どもが増えているかもしれませんね。
当社では「エンジョイスイミング」というコンセプトを掲げ、「水泳が楽しい」「水泳が好き」と感じてもらえるよう、小さな行動や変化を見逃さず、褒める指導を心がけています。さらに、子どもたちに「1人でできた!」という成功体験を積んでもらうことも大切にしています。これらルネサンスの指導コンセプトが先生方にも浸透し、水泳以外の授業にも波及することで、子どもたちが学校で学ぶこと自体がより楽しくなったら嬉しいです。
—— 受託件数の目標などはありますか。
目標件数は特に設けていませんが、概ね各店舗が年間を通して3校ほど担当している状況にしたいと考えています。ただ、ルネサンスは全国に100店舗以上のプール付帯施設を保有していますが、小学校は全国に約2万校あるとされ(文部科学省 学校基本統計 2025年)、自社だけではとてもカバーできません。ぜひプールを保有する、全国のフィットネスクラブさまと一緒に取り組んでいけたらと考えています。
水難事故をきっかけに日本で水泳指導が始まりましたが、現在でも水難事故は毎年発生しています。我々フィットネス業界が、これまでのノウハウを提供することで、小学校の水泳指導の課題解決だけでなく、水難事故を少しでも減らしていくことに貢献していきたいです。

 
           
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                  