1974年の創業以来、英語劇を軸にした独自の英語教育を続けてきた株式会社モデル・ランゲージ・スタジオ(以下、MLS)。
子どもから大人まで、そして近年は学校教育の現場へ——。
「英語が話せるようになる」その先を見据え続けてきた代表取締役社長:太田 雅一氏に、50年の歩みと、これから目指す教育のかたちについて話を伺いました。
INDEX
PROFILE
株式会社モデル・ランゲージ・スタジオ(MLS)
1974年創立。英語劇の手法を用いた英会話教室をはじめ、英語教師研修、学校出張ワークショップ、俳優研修、企業研修、英語劇の製作公演、教材執筆などを手がける。
東京・神奈川・千葉に計20教室を展開し、約2,000名の生徒が在籍。約60名のクラス講師と80名のアシスタント講師がドラマメソッド®にもとづくレッスンを行っている。
太田 雅一 氏 代表取締役社長
1951年東京生まれ。中央大学法学部在学時に東京学生英語劇連盟(Model Production・MP)に参加し、のちに会長で現ハリウッドキャスティングディレクターの奈良橋陽子氏と出会う。英語劇を推進する英会話学校MLSを1974年に設立。米国俳優Richard A. Via氏から本格的な演劇づくりを学びつつ、教育と第二言語習得の観点を盛り込んだプログラム“Super-STAGE”を開発。現在は「英語劇・ドラマメソッド®」として学校現場や教師へのメソッド普及にも注力している。
1. 英語との出会いは「新しくて、面白い」体験だった
—— 太田さんが英語教育の道に進まれた原点を教えてください。
太田:
英語に強く惹かれたのは、中学1年生のときです。
それまで勉強が特別好きだったわけではありませんが、英語は「新しい教科」で、とにかく新鮮で面白かった。感覚的に「これは違う」と思いました。
もうひとつ印象に残っているのが、高校時代、電車の中で外国人に道を聞かれた経験です。
うまく話せたわけではありませんが、何とか伝えられた。そのときに、英語はテストのためのものではなく、「人とつながるためのツール」なんだと実感しました。学校だけで習った英語で通じたと学校での教育に感動しました。
—— 大学では法学部に進まれていますね。
太田:
当時は弁護士に憧れていました。ただ、実際に学んでみると、前例やルールに縛られる世界がどうしても自分には合わなかった。
その一方で、学外の英語劇クラブにどんどんのめり込んでいきました。
英語で考え、英語で動き、英語で感情を表現する。
「英語を勉強する」のではなく、「英語で生きる」感覚が、圧倒的に楽しかったんです。
大学4年のとき、就職ではなく英語劇の手法を使った英会話スクールを立ち上げる決断を現キャスティングディレクターの奈良橋陽子さんとしました。それがMLSの始まりです。
2. 「英語が話せない」のは、日本人の能力の問題ではない
—— MLSが50年続けてきた教育の軸とは何でしょうか。
太田:
まずお伝えしたいのは、「日本人が英語を話せないのは能力が低いからではない」ということです。
理由は大きく四つあります。
一つは、日本にいれば使う必要ないですよね。
二つ目は、習う時間が足りないですね。アメリカ国務省語学学校の報告だと、話せるようになるには倍の時間が必要です。
三つめは、「話す」ための具体的な指導法がないのではないでしょうか。
四つ目は、日本人の性格・気質です。
「おとなしい・恥ずかしい・集団志向」——いわゆる『お・は・し』と呼んでいます。これは美徳でもありますが、英会話ではブレーキになることが多いです。
—— そこで生まれたのが「ドラマメソッド®」ですね。
太田:
はい。ドラマメソッド®は、演劇の手法を使って英語を体験的に学ぶ方法です。イスに座ってテキストを読むのではなく、立ち上がって体を使い、感情を伴い、相手の目を見て話します。ドラマメソッド®はどちらかと言うと、英会話学習の教え方であり、英語の基礎的な文法、発音、訳などは今の学校の方法で良いと思います。
ドラマメソッド®では、今話したブレーキを一つずつ外していくんです。
3. 体験して初めて分かる、ドラマメソッド®の本質
—— 実際のレッスンでは、どのようなことを行うのでしょうか。
太田:
そもそも、子どもは語学の天才なんです。
少し繰り返せばすぐに覚えますし、照れもない。間違えることも恐れない。思ったことを、そのまま表現する。
大人になると、「正しいかどうか」を先に考えてしまいますよね。
でも語学を身につけるうえでは、その慎重さがブレーキになることも多い。
だから私は、語学を学ぶときは“子どもの心を取り戻す”ことが大事だと思っています。
ドラマメソッド®は、まさにその状態をつくるための指導法です。
(取材当日、編集部も実際にミニレッスンを体験させてもらいました。)
題材は、たった6行のシンプルな対話(Aさん、Bさん)です。どの様な教科書の対話文でも応用できます。
A: You can do it.
B: No, I can’t.
A: Yes, you can.
B: Can I do it?
A: Yes, try.
B: No, I can’t do it.
最初は教科書どおり、文字を見ながら声に出すところからスタート。
文法、発音、訳など確認した後すぐに、太田さんの声がかかります。
太田:
「では、テキストを見ないで。相手の目を見て話してみましょう」
文字を追うのではなく、相手の表情や間合いを感じながら言葉を交わす。
それだけで、同じフレーズがまったく違うものに変わっていきます。
これをTalk and Listen方式と呼んでいます。
太田:
「文字を見ながら話すのは“リーディング”であって、“会話”ではありません。
アイコンタクトは、おとなしさを克服する最初の一歩なんです。また目を見ないで話さないと自信のない人と思われてしまいます」
(次に行ったのは、声の大きさやスピードを変えて話す練習。)
大きな声で、早口で、あえて小さな声で——。
太田:
「これを私たちはダイアログ・ダイナミクス(DD)と呼んでいます。
普段使わない声や動きを引き出すことで、殻が一枚ずつ剥がれていく。表現の幅を広げていくことになります。
続けていくと、自然に身振り手振りが出てくるんですよ」
さらに、「極寒の寒さの中で」「灼熱の砂漠」「キッチンでゴキブリを退治する」「プールの飛び込み台」など、具体的な状況設定を加えていきます。場所や相手に加え、「何を持っているか」という要素を加えることで、表現は一気にリアルになります。次のイラストを参考にして実際に身体を動かして会話してみると本当に楽しいですよ。
(イラスト例)
「極寒の寒さの中で」「灼熱の砂漠」
「キッチンでゴキブリを退治する」「プールの飛び込み台」
太田:
「さらに、『これ、英語で何て言うんだろう?』と自分から聞きたくなる瞬間が一番大事。自分が言いたい言葉を知った時、驚くほど記憶に残ります」
英語を「覚える」から、「使いたくなる」へ。
ドラマメソッド®の本質を、体で理解する時間でした。
4. アクション女優から映画監督まで。“学びのその先”につながるストーリー
—— 印象に残っている生徒さんのエピソードはありますか。
太田:
最近象徴的だった三人をあげたいと思います。
① 初めはアクション女優/パフォーマーの人で、殺陣(たて)などのアクションで海外に挑戦したいという女性です。日本の所作や精神性を含めて、「どう見せればかっこいいのか」を英語で説明したい、とMLSに来てくれました。
通訳を挟むと、どうしてもニュアンスが削がれてしまう。
だからこそ、自分の言葉で伝えたい。その覚悟が伝わってきました。
暁矢薫(アカヤカオル)さん (アクション女優/パフォーマー)
② もう一人は、子どもの頃にMLSで英語劇をしていた元生徒。現在は日本語・英語の両方で脚本を書き、映画監督として作品を発表しています。
「習い事だった英語劇が、そのまま仕事につながっている。そんな報告が増えてきて、とても嬉しいですね」
川俣正志さん (バイリンガル脚本家/映画監督)
③ さらに、インドネシアのバンドン日本人学校で英語教師として働いている先生もいます。MLSで学んだメソッドを現地で実践し、「桃太郎」と、インドネシアで人気の「ラーマヤナ」をモチーフとした英語劇を上演。現地紙にも取り上げられました。海外で我々の台本(音響効果付き)で英語劇をやってもらうことは僕の一つの夢・目標でもあります。
写真右:小中啓子さん
(バンドン日本人学校・英語教師)
(ジャカルタ現地紙に取り上げられる)
「学んで終わりではなく、次に渡す側に回っている。
こうした“学びの連鎖”が起き始めているのは、50年続けてきたからこその手応えです」
5. 教室の外へ。学校教育に届けたい理由
—— 近年は学校教育への展開にも力を入れていますね。
太田:
スタジオに来る生徒は、少なからず英語劇・ドラマメソッド®で習う事を知っています。ですから、英語劇をするにしても好きな人が集まってきます。
でも、この方法は、好きな人がやるだけでなく、すべての人に経験してもらいたいくらいよいものがあるので、誰でもが通う学校で行うべきだと思います。
そこで、私たちが目指しているのは、学校の先生にドラマメソッド®を教えることです。 先生自身が方法を理解し、現場で使えるようになる。生徒の意見を尊重するので先生も楽しめます。 それができれば、特別なスクールに通わなくても、多くの人たちが経験できます。
もしこれが実現したら——
私のミッションは、ひとつ完結したと言えるかもしれません。
ご興味のある方は、拙著「生徒の英会話力が向上する英語劇・ドラマメソッド」(幻冬舎刊)をお読みいただければ幸いです。
将来は電子版で英語、マンガでフランス語の超短縮版も出版予定です。
6. 英語で、日本の良さを伝えられる人を増やしたい
—— 最後に、これからの展望を教えてください。
太田:
英語を話せるようになること自体がゴールではありません。
外国の人と対等に話し、日本の文化や価値観を、自分の言葉で伝えられるようになること。それが大切だと思っています。
日本人の謙虚さや丁寧さは、世界に誇れるものです。
ただ、それを伝える手段としての英語に、少し苦手意識があるだけ。
ドラマメソッド®は、特別な才能がある人のためのものではありません。
「間違ってもいい」「やってみよう」と一歩踏み出す体験を、できるだけ多くの人に届けていきたいですね。
—— 本日はありがとうございました。
編集後記
英語教育の本質が「点数」から「表現」へと移りゆく今、MLSの取り組みは、その未来を半世紀先取りしてきた実践と言えるでしょう。
ご興味ある方は、MLS教員研修のホームページへ:https://www.eigokyouin.jp/
