サッカースクールは、技術を教える場であると同時に、子どもたちが「世界とどう向き合うか」を学ぶ場でもある。
大阪を拠点に、関西7エリア・10会場で会員約300名規模に成長したサッカースクール「エクセルース(EXCELUZ FOOTBALL ACADEMY)」は、育成年代に”世界基準”の環境を提供し続けてきた。
レアル・マドリード出身コーチによる指導、スペイン・アジアへの海外遠征、自社主催の国際大会開催。「日本史上、類を見ないスクールへ」を掲げ、業界の”創造的破壊”に挑む。
代表の岡田彬伸氏は、ブラジル・日本・イタリアの3カ国でフットサル選手としてプレーし、現役引退と同時にエクセルースを立ち上げた異色の経歴を持つ。指導者としてもベンフィカ、ユベントス、マンチェスター・シティなど世界の育成現場を歴訪してきた。
その経験を経て岡田氏が立ち上げたエクセルースには、「サッカーを通じて、世界で活躍する選手を、そして人材を育てたい」という明確な意思がある。
本記事では、エクセルースが9年で築いてきた育成の仕組みと、その背景にある業界への問いについて話を伺った。
INDEX
PROFILE
岡田 彬伸(おかだ・あきのぶ) 株式会社エクセルース 代表取締役
1989年、奈良県平群町生まれ。兄の影響で小学1年生からサッカーを始め、奈良の名門・一条高校で全国高校サッカー選手権・インターハイに出場。近畿大学体育会サッカー部でプレーした後、大学3回生でフットサルに転向。
シュライカー大阪を経てバルドラール浦安からプロキャリアをスタート。ブラジル1部のSUZANO FUTSAL CLUBへ留学し、サンパウロ州プロリーグで得点を決めるなど現地で評価される。帰国後はFリーグの湘南ベルマーレ、デウソン神戸でプレー。2017年、イタリアセリエBのASDアトレティコで現役を引退。
同年4月前身となる EXCELUZ FOOTBALL ACADEMYを立上げ、サンパウロ州、スペイン・インテルモビスターの両指導者ライセンスを保有。MIC国際サッカートーナメント、DONOSTI CUPなどの監督を歴任し、SLベンフィカ、ユベントス、マンチェスター・シティ、ラリーガキャンプなど世界の育成現場を歴訪。
2022年に、株式会社エクセルースを向 慎一と法人設立。
現在は、関西エリアで8会場を展開し、レアル・マドリード出身コーチによる指導をベースにしたDELMUNDO METHODを構築。2026年には自社主催の国際大会「JJG」を初開催するなど、育成業界に新しい価値を提示する為に、「共創」に挑んでいる。
1. スペインで感じた育成年代の衝撃とスクールの立ち上げ

—— エクセルースを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
岡田:
奈良県平群町出身で、兄の影響で小学1年生からサッカーを始めました。最初に夢を持ったのは高校サッカー選手権。お正月にテレビで注目される選手たちに憧れ、奈良で一番強い一条高校へ進学。2年生で選手権のベンチ入り、3年生でインターハイに出場しました。
ただ、夢だった選手権の予選決勝で敗れ、「夢が叶わなかった」という感覚を抱えたまま近畿大学に入りました。
大学では全国の強豪からトップ選手たちと出会い、レベルの差に圧倒されました。
そこで初めて気づいたんです。「自分はプロを目指していなかったんだ」と。
それでも「サッカーで飯を食いたい、サッカーで生きていきたい」という気持ちは変わらなかった。それで、大学3回生のときにシュライカー大阪のトライアウトを受けて、フットサルに転向することを決めました。
—— そこから3カ国でのプロキャリアが始まったわけですね。
岡田:
最初に入ったバルドラール浦安は当時Fリーグのトップクラブで、僕は1試合も出させてもらえなかった。「何しに来てるんだ」という扱いを受けて、ゴキゴキに折られました。
そこで「このままじゃダメだ」と思って、自費でブラジルに半年留学したんです。そこが僕にとって人生の転換期でした。サンパウロ州プロリーグで得点を決め、現地で評価してもらえた。日本に戻る頃には、「海外でやっていく感覚」が自分の中にできていました。
帰国後はFリーグで3年プレーし、デウソン神戸時代に「もう一度海外に挑戦したい」と思い、26歳でイタリア・セリエBへ。3年スパンで考えていたのですが、1年目にビザと怪我で躓き、結果的に27歳で引退を決断しました。
—— 引退と同じ年にエクセルースを立ち上げられていますね。
岡田:
実は、現役中の神戸時代から、奈良で15人規模の小さなフットサルスクールを持っていました。引退後はその延長で会社をやろうと、最初から決めていたんです。
ただ、引退して最初の1年は本当につらかった。関東でサッカースクールのコーチをしながら、月曜日だけ奈良でスクールを開く。毎週夜行バスで往復しながら、1円でも稼ごうと必死でした。
—— 海外でプレー・指導される中で、日本との違いをどう感じていましたか。
岡田:
スペインのMIC国際サッカートーナメントで育成年代の試合を見たとき、衝撃を受けました。バルセロナとパリ・サンジェルマンの一戦でしたが、子どもじゃなかった。プロ選手だったんです。
体格の話ではありません。立ち振る舞い、意識、プレーのすべてがプロのそれでした。スモールライトで縮めたような、本物のプロでした。
—— 大人と子どもの境界線そのものが違う、ということですね。
岡田:
そうです。観客のリテラシーも全然違う。いいプレーには拍手が起き、シュートを外せば「うー」と声が上がる。育成年代の試合なのに、プロと同じ目で見ている。サッカーの文化と歴史が、子どもたちのあり方そのものを形づくっているんです。
これを目の当たりにして、「日本の子どもたちにも、もっと還元できることがあるんじゃないか」と強く思いました。それがエクセルースを立ち上げる、もう一つの動機でした。
—— 日本の育成年代に対して、岡田さんは何を変えなければいけないと考えていますか。
岡田:
日本の育成にも歴史と積み重ねがあって、悪いとは思っていません。ただ、ずっと違和感を持っていたのは、「サッカーの何に対価を払ってもらっているのか」ということでした。
保護者の方が、時間も、お金も、想いも注いで子どもの成長に投資してくださっている。だからこそ、サッカーの技術だけでなく、人としての成長や人生の土台まで届ける責任があると思っています。
2. “三位一体”で育てる、世界基準の育成設計

—— エクセルースの育成プログラムは、SCHOOL・CLINIC・OVERSEASの3軸で構成されていますね。
岡田:
平日のスクールで土台をつくり、土日のクリニックで個別の課題に向き合い、年に数回の海外遠征で世界基準に触れる。この3つを循環させることで、選手の成長を立体的に支える設計にしています。
スクールだけでも、海外遠征だけでも、十分ではない。継続して土台を積み上げながら、定期的に世界の現場に立つ。その往復の中でしか身につかないものが確かにあると、僕自身が現役時代に経験してきました。
—— DELMUNDO METHODは、レアル・マドリードのメソッドを元に構築されていますね。
岡田:
コロナ禍明けから3年間、レアル・マドリード出身のコーチに来てもらいました。メソッドを叩き込んでもらいながら、選手の成長とともに、コーチ陣も成長していった。
それがDELMUNDO METHODの核になっています。
なぜスペインかというと、指導の方法論、言語化、サッカーへの理解——この点においてスペインは突出していると感じていたからです。どの国の育成にも一長一短はある。ただ「考えながらプレーする選手を育てる」という点では、スペインのメソッドを日本に持ち込む価値は大きい。
—— そのメソッドを、日本の子どもたちにそのまま使うわけにはいかないですよね。
岡田:
もちろんです。文化も体格も、サッカー観も違いますから。3年間かけて改良を重ねてきましたが、今もまだ進化の途中です。
—— 海外遠征は、選手たちに何をもたらしますか。
岡田:
僕自身、ブラジル留学で人生が変わった人間です。あの経験を子どもの頃にできていたら、もっと早く自分の進む道が見えていただろうと本気で思う。だからこそ、子どもたちにこそこの経験をしてほしいんです。
海外で試合をして、リテラシーの高い観客に見られ、自分のプレーが世界でどこまで通用するかを肌で知る。そこで初めて、日常のトレーニングへの目的意識が変わる。「何のためにやっているのか」が、自分の中から立ち上がってくるんです。
—— 指導陣にも、海外で戦った経歴を持つ方が多いですね。
岡田:
共に会社設立した向は、Jリーグなどプロで14年のキャリアを持ちます。
ブラジルのトップリーグやFリーグで日本一になったエビーニョ、フットサル元日本代表のフィジカルコーチを務めた下地さん、メンタルコーチの大儀見さん、元プロ選手のコーチ、スペインから国際ライセンスを持つコーチも招聘しています。
僕が大事にしているのは、コーチ自身が学び続けているかどうかです。大人が学ぶ姿勢を見せなければ、子どもは絶対に立ちません。「ダラダラしている大人がダラダラするな」と言っても、何も届かない。コーチ全員に、人生をかけてやってきた選手経験と、今も学び続ける姿勢の両方を求めています。

—— 育成の仕組みとして「EDP」を運用されていますね。
岡田:
EXCELUZ Development Plan、略してEDPです。Jリーグやヨーロッパで使われているIDP(Individual Development Plan)を参考に、エクセルース独自で作り直しました。
100項目の評価指標で年に1回、全選手の現在地を見える化する。グラフ化したシートを選手と保護者にお渡しして、「強みはここ、課題はここ、成長の方向性はここ」を共通言語にする。評価のためではなく、選手・保護者・指導者の三者が同じ地図を持って成長していくための道具です。
正直、ものすごく大変な作業です。セレッソ大阪でこの仕組みを作った方と1年がかりで組み立て、昨年から本格運用を始めました。それでも、これがなければ本当の意味での個別最適化はできないと思っています。
—— 「選手・保護者・指導者の三位一体」というのは、岡田さんが繰り返し語られている言葉ですね。
岡田:
クラブでは、監督と選手の関係においても、勝利やチーム事情とのバランスが必要になる。でも、スクールである僕たちだからこそ、保護者とも緻密にコミュニケーションを取り、選手とも個別に向き合い、三者が同じ方向を向き続けることができる。どれかが欠けると、成長スピードは大きく落ち、継続して伸びていかない。——それが、育成現場を見続けてきた僕の確信です。

3. エクセルースが創る、「世界と戦う」環境

—— 2026年2月に、エクセルース主催の国際大会「JJG」を初開催されました。
岡田:
これまで選手として、指導者として、海外の国際大会に30回以上出場してきました。スペインのMICをはじめ、海外の国際大会は質も規模も次元が違う。「これはお金を払う価値がある」と感じるレベルのものを、ずっと見てきたんです。
それを、日本でも作りたかった。1年がかりで準備し、2026年2月に第1回を開催しました。Jクラブにも多数ご参加いただき、海外チームは今回韓国のみでしたが、スポンサー企業にも多くご協賛いただき、手応えは非常に大きかった。
—— 今後も継続的に展開されていく予定ですか。
岡田:
6月に女子大会、9月にメイン大会と、年間を通して規模を拡大していく構想です。来年以降はさらに軸を太くして、海外チームの招聘も増やしていきたい。
世界基準の場を、日本の子どもたちが当たり前に経験できるようにする——それを自分たちの手で作っていきたいんです。
—— 海外から日本に来る選手も増えているそうですね。
岡田:
タイの選手や中国の選手が、エクセルースに留学に来てくれています。エクセルースが海外の国際大会に出ているのを見て「いいチームだな」と思ってコンタクトをくれた選手もいる。日本に来てサッカーを学びたいという子たちが、確実にいるんです。
これは、僕たちにとって大きな意味がある。日本から世界へ送り出すだけじゃなくて、世界から日本に呼び込む。そのパイプが太くなることが、結局は今いる選手たちへの一番の刺激になると思っています。
通訳の体制や、英語・スペイン語を話せるコーチがいることで、僕たちは海外選手の受け入れもスムーズにできる。これは他のクラブにはなかなかない強みです。
—— 卒業生の方々はどんな進路を歩まれていますか。
岡田:
1期生がもう大学1年生になり、11期生まで輩出してきました。1〜2期生のうち15人ほどはすでにスペインへ長期留学し、現地のチームに所属しています。1年中スペインで生活して、オフシーズンだけ日本に帰ってくる選手も出てきています。
ただ、僕が思っているのは、プロになることだけが成功ではないということです。プロは目指す成功例の一つではあるけれど、そこに至らなかった子たちにも、エクセルースで過ごした時間が人生を支える土台になっていてほしい。
—— 「選手」と「人材」を並べて掲げられている理由は、そこにありますか。
岡田:
そうです。僕たちが本当に育てたいのは、人から応援される人、リーダーシップを持って結果を出せる人、自分の人生を切り拓いていける人材です。サッカーで土台を築いた結果としてプロになるのが一つの形。でも別にサッカーじゃなくてもいい。
「エクセルースをやっていたから、こういうものに挑戦できた」「こういう結果を掴めた」 と言ってもらえる場所でありたい。
それが業界全体に広がれば、保護者の方も「サッカーにお金を払う意味」をもっと深く理解してくれるようになる。サッカー業界そのものの価値が、もう一段上がっていくと思っています。
—— サッカーを続ける場としての、卒業後の関わり方も意識されていますか。
岡田:
とても大事に考えています。僕自身、現役は引退しましたが、サッカーは今も人生を支えるツールです。好きな人にとって、サッカーは一生付き合える競技なんですよ。
それなのに、育成年代でやめた子たちが、その後一切サッカーに関われなくなってしまうのはもったいない。コーチとして戻ってきてくれる子もいますが、コーチじゃない別の形でも、サッカーに関わり続けられる場をエクセルースが作っていきたい。サッカーを長く続けられる業界にしていく。それも、僕がやりたいことの一つです。
—— 関西を超えた展開や、海外拠点の構想はありますか。
岡田:
近い将来は、関西での取り組みを固めることに集中しています。会場を増やすこと自体が目的ではない。ただ、その先で、国際大会の規模を年々大きくしていきながら、日本の育成年代が世界と当たり前につながる場を作る。ここは間違いなく拡大していきます。
—— 最後に、業界関係者の方々に伝えたいメッセージをお聞かせください。
岡田:
僕がずっと思っているのは、学ぶことや成長することに、大人が立たなければ子どもは立たないということです。コーチも、保護者も、僕たち経営者も、まず自分が学び続けていなければ、子どもには何も届かない。
エクセルースは、選手を育てる場であると同時に、コーチが育つ場でありたいと思っています。サッカーが、子どもの人生を豊かにするツールであるように。指導者の人生も、サッカーを通じて豊かになる業界にしていきたい。
『サッカーで人生に喜びと感動を生む。
サッカーを通して世界を見る経験を届ける。
そして、ピッチを去った後も、自分の人生を切り拓く力を残す。
そんな当たり前を、業界に作っていきたい。』
エクセルースは、そのための場所であり続けたいと思っています。
—— 本日はありがとうございました。
編集後記
岡田さんの言葉は、サッカーの話でありながら「育てるとは何か」を問い続けていました。技術を教えるだけでなく、世界で生きる土台をつくる。3カ国を渡り歩いた経験を、惜しげもなく次世代に還元する。「保護者の方が、時間もお金も想いをかけて投資してくださっているのは、サッカーの技術強化のためだけじゃないし、そうあってはならないと思っています。」
—— この言葉は、業界全体に向けた問いとして響きました。育成年代を本気で変えようとする一人の存在が、業界全体の温度を確実に変えていく —— そう感じさせる挑戦でした。
