DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、「デジタル技術を駆使して業務プロセスを改善し、商品やサービスからビジネスモデル、企業風土に至るまで変革することで市場での優位性を確立すること」を指します。そのことから、店舗DXは「デジタル技術を駆使して店舗の業務プロセスをデジタル化することで、経営や事業のビジネスモデルを変革させる」ことを意味します。店舗で働く従業員の管理や各店舗で共有したい情報の伝達がスムーズにできるだけでなく、顧客管理や予約管理、決済も一元化できるなど、さまざまなメリットがあります。
この記事では、店舗DXが必要な理由や導入のメリット・デメリット、店舗DXを実現する際のポイントについて解説します。あわせて、成功事例も紹介しますので、ぜひご一読ください。
INDEX
1. 店舗DXとは?
店舗DXとは、デジタル技術を駆使して店舗の業務プロセスをデジタル化することで、経営や事業のビジネスモデルを変革させることです。業務の効率化を図るだけではなく、集客や新たな商品、サービスの考案にも活用できます。
小売業やフィットネス店舗をはじめとするリアル店舗は、アナログな手法で運営しているところも少なくありません。しかし、情報化が進み、世の中の流れが加速度的に速くなっている昨今、顧客のニーズもまた、速いスピードで変化しています。変化に対応し、競合店舗との価格や質の競争に勝つためには、店舗業務のデジタル化は避けられないでしょう。
2. 店舗DXが必要とされる理由
店舗DXが必要とされている理由は、次のとおりです。
2-1. コロナ禍における需要の変化
コロナ禍を経て、生活スタイルは大きく変わりました。感染症対策として、非対面・非接触での買い物や外食などのニーズが急速に高まり、店舗側もアナログでの商品やサービスの提供だけでは利益が得られにくくなったためです。
2-2. 店舗運営における人手不足の深刻化
日本では少子高齢化が進み、企業の事業活動にも深刻な影響が出始めています。多くの業界・企業で人手不足が問題になっており、従来と同じクオリティの商品やサービスを提供し続けるためには、人材確保だけではなく、業務をより効率的に行うための根本的な対策が急務になったためです。
3. 店舗DXを進めるメリット
店舗DXを進める大きなメリットは、「業務効率・生産性の向上」と「顧客データの分析が可能になったことによる集客施策の効果最大化」の2点です。
具体的にどのようなメリットがあるのか、見てみましょう。
3-1. 業務効率・生産性の向上
店舗DXを進めることで、業務の効率化や生産性の向上が見込めます。今まで人の手で行っていた入力作業や、伝票や請求書、納品書などの作成といった事務作業の一部を、システムが肩代わりできるため、人員を減らした上での効率化が可能です。
また、セルフレジを導入すれば、レジ係の人数を削減できるだけでなく、空いた時間で接客業務や店内の配置換え、掃除などに注力できるようになるため、提供するサービスの質を高められるでしょう。
3-2. お客さまの利便性が高まる
店舗DXは、お客さまの利便性も高めてくれます。たとえば、在庫管理をシステム化すれば、商品の品切れを防げるため、いつ来店しても欲しいものを購入することが可能です。セルフレジを導入した場合は、スタッフが対応してお客さま一人ひとりの支払いを済ませるレジよりも、支払いまでの時間を短縮でき、混雑時の会計待ちの時間が短縮できます。
3-3. ヒューマンエラーを減らせる
店舗DXによって、ヒューマンエラーを減らすことができます。飲食店でのオーダーの聞き間違いや会計時の釣り銭の渡しミスなどといった人的なミスが防げるようになり、クレームを減らすことが可能です。
店長から口頭で指示を出す場合、内容が店舗スタッフにうまく伝わらず、正しく業務が遂行されないことも少なくないでしょう。忙しい時間帯は特に指示の伝達がうまくいかないことが多いため、後から見返せるように、システムを介して指示を出したり、シフトの入れ替わり時の引き継ぎを行うと効果的です。
3-4. 在庫管理・発注業務の負担軽減
在庫管理や発注業務にシステムを利用すれば、大幅な時短につながります。リアルタイムで在庫を一元管理できると、どの店舗にどのくらいの在庫があるのか瞬時に把握することが可能です。また、過剰に発注することも防げるため、常に適切な在庫状態で運営できます。
飲食店の場合は、フードロス削減ができるのでコスト削減にもつながりますし、どの商品が人気でどの商品が不人気なのかも分かるため、適切なタイミングでの商品の入れ替えができます。
3-5. 人手不足を省人化により解消
店舗DXによって業務の効率化が実現すると、少ないスタッフで店舗を回せるようになります。少子高齢化が進んでいるため、現在多くの業界で深刻な人手不足が続いています。店舗DXを進めることで、スタッフ一人ひとりの業務の負担も軽減でき、働きやすい職場環境を整備することも可能です。職場環境が整えば、店舗スタッフのモチベーションが上がり、離職率の低下にもつながります。また、店舗スタッフの新規採用のアピールポイントにもなるでしょう。
3-6. 販促活動のデジタル化が集客につながる
販促活動をデジタル化することで、今まで以上の集客が見込めます。LINE、Twitter、InstagramなどのSNS、メルマガ、デジタルサイネージなどを活用した販促活動を行えば、ターゲットとする顧客層に効果的なアプローチが可能です。
例えば、リピーターを増やしたい場合は、LINE公式アカウントの登録者を増やして定期的にクーポンやキャンペーンの案内を送る、店舗周辺の顧客を集客したい場合は、Googleビジネスプロフィールを使うなど、ターゲットを絞った販促活動も可能です。
3-7. 顧客データの分析・活用ができる
店舗DXを進めることで、顧客データを活用した顧客満足度の向上が可能です。お客さまの名前や性別、年齢、住所、メールアドレスなどの情報をシステムで管理すれば、そのデータをマーケティング施策の立案に使うことも可能です。
商品を購入したお客さまの年齢や性別、購入頻度などを分析することで、新商品の開発に役立てることができます。また、季節や天気によって商品の売れ行きにどのくらいの差が出るのかを分析することで、仕入れる商品の調整が可能になります。
3-8. ペーパーレス化の実現
店舗DXによって、今まで紙で管理していた顧客情報のペーパーレス化が実現します。ペーパーレス化は、電子帳簿保存法の施行など国が推進する取り組みでもあります。
店舗の営業実績や顧客データなどをシステム上で管理できれば、コピー用紙やプリンターのインク代などのコストを削減できます。紙で保管する場合は、紙面やインクの劣化の問題がありますが、データで保存する場合はそのような心配がありません。書類の保管場所も必要なくなるため、そのスペースを休憩室にするなど、従業員の満足度を上げる施策として使うこともできます。
4. 店舗DXを進めるデメリット
店舗DXを進める上で、デメリットもあります。
4-1. 現状の管理方法からの移行期間が生じる
アナログで行っていた顧客や在庫などの情報管理をデジタルに移行する場合、移行期間が必要です。既存のシステムを導入する場合は、比較的スムーズに進められますが、オリジナルのシステムやツールを開発して導入する場合は、構築にかなりの時間がかかるでしょう。
4-2. システムやツールの導入費用が発生する
システムやツールを導入する際は、コストがかかります。1店舗だけ導入するのか、全店舗共通で導入するのかによっても費用は異なります。コスト面だけでシステムやツールを選ぶと、導入してから足りない機能に気づいたり、使いづらさを感じて使わなくなってしまうケースがあります。無料トライアルがある場合は積極的に利用し、必要な機能があるかどうかや使いやすさを確認の上、検討するとよいでしょう。
4-3. システムやツールを管理するための人材の確保・育成が必要
システムやツールを管理するための人材の確保や育成が必要です。さまざまな業界でDX化が進む現在では、専門的なデジタル知識・スキルを持ち、システムやツールの操作・管理に習熟した人材が不足しがちなため、採用が難航する可能性があります。
在籍している店舗スタッフにシステムやツールの操作・管理を任せる場合も、研修制度を整えた上で、一定期間の教育が必要です。システムやツールの導入コストとは別に、人材確保のためのコストがかかることも認識しておいてください。
5. 店舗DXに必要な具体的な取り組みは?
一般的に、店舗DXのために導入されることが多い機能や、システム化することが多い業務を紹介します。すべてを導入する必要はなく、自店舗に適したものや必要なものを選ぶとよいでしょう。
5-1. セルフレジ・セルフオーダー
お客さま自身で、商品のバーコードやタグを読み込み会計するセルフレジや、タブレットなどを使ってオーダーできるセルフオーダーシステムは、飲食店やスーパーマーケット、コンビニ、飲食店などで導入されています。
お客さまがセルフで会計やオーダーができると、レジやオーダーを取るスタッフを削減できます。また、「混雑時になかなかスタッフが来なくてオーダーができない」「会計まで待たされる」といったクレームも減らすことができます。
5-2. キャッシュレス決済
キャッシュレス決済は、レジの混雑解消に役立ちます。財布を開いてお札や小銭を取り出す手間が省けるため、一人当たりの会計時間の短縮が可能です。
現在はクレジットカード以外にもさまざまな種類のキャッシュレス決済があるので、導入する際は、なるべく多くの種類のキャッシュレス決済が可能なシステムを検討すると、お客さまの利便性も高まります。
5-3. 顧客情報管理のデジタル化
顧客情報の管理を紙からデジタルに移行すると、スタッフによる入力業務の負担が減るだけでなく、保管スペースも削減できます。また、全店舗の顧客データを一元管理することで、人気の商品やサービスの分析や曜日・時間ごとの来店数の偏りなどがすぐにわかるため、集客や販促などのマーケティング施策の立案にも活かすことができます。
5-4. 勤怠管理のクラウド化
スタッフの勤怠管理をクラウド化すれば、スマートフォンで出退勤の打刻ができたり、勤怠記録の自動集計ができます。クラウド型の勤怠管理システムは、導入も簡単でコストも抑えられるため、近年人気です。
人の手でタイムカードの集計を行う必要がないため、計算ミスを防ぐだけでなく、人事業務の負担軽減も可能です。
5-5. 在庫管理・発注のシステム化
在庫管理や発注のシステム化は、商品を取り扱う小売業や飲食店などに役立ちます。店舗の商品や材料の在庫がすぐに分かるため、過剰な発注をなくしたり、在庫切れを回避したりできます。
売れ筋の商品もリアルタイムで把握できるので、顧客のニーズを読み取った品揃えやメニューを常に提供できるようになります。
5-6. 顧客登録作業のシステム化
リピーター獲得に便利なのが、顧客登録作業のシステム化です。QR読み取りなどを使って簡単に会員登録できるようにしておくと、登録してもらいやすくなります。登録してくれたお客さまに向けて、クーポンやキャンペーン情報などを定期的に発信すれば、リピーターの育成に役立てられます。
6. 店舗DXを進める際の注意点
店舗DXを進める際には、「なぜ店舗DXを進めるのか」目的を明確することが大切です。課題や改善したい点を洗い出し、そのためにはどんなシステムやツールが必要なのか、慎重に検討します。
最初から大掛かりなシステムやツールを導入すると、膨大なコストがかかる上、店舗スタッフがシステムやツールの操作に習熟するまで、頻繁にトラブルが発生する可能性があるので、まずは小さいところから始めるとよいでしょう。
システムやツールを選ぶ際は、費用対効果を考慮してください。どんなに便利なシステムやツールでも、導入後に「自店舗にあっていない」「効果が出るまでに、予想以上に時間がかかる」「ランニングコストが高い」といった不都合が出てしまうと、店舗DXはうまくいきません。導入前に十分な検討が必要です。
7. 店舗DXで成功した事例
実際に、店舗DXが成功した事例をご紹介します。
7-1. ゴルフスクール「スイング碑文谷」
ゴルフスクールの「スイング碑文谷」では、予約管理システムを導入し、スクールで必要な手続きを簡易化しました。電話やフロントで受け付けていた振替対応を、お客さま自身で予約管理システムから振替手続きができるようにしたことで、電話対応が以前の6〜7割に減りました。入会手続きも、お客さまが必要な情報をあらかじめ予約管理システムに登録しておけるようになったことで、フロントでの手続き時間を大幅に削減でき、お客さまの利便性の向上につなげています。そのほか、出席簿やスタンプカードなどが不要となり、ペーパーレス化も促進した、とのことです。
7-2. ヨガスタジオ「Studio+Lotus8」
ヨガスタジオの「Studio+Lotus8」では、入会手続きや決済、レッスンの予約などを自動化したことで、事務作業の項目を1/3に削減しました。運営フローがシンプルになったことで、新しいスタッフへの引き継ぎ時間も半分になりました。紙で作成し実施していたアンケートも、システムから簡単に作成および実施できるようになったうえ、結果も自動集計ですぐに確認でき、店舗の強みや課題の発見につながったということです。
7-3. スクール「マナビバ」
ミドルシニア向けのさまざまな講座を開講するカルチャースクールの「マナビバ」では、顧客管理はもともとExcelなどを使ったアナログ運用だったため、来店履歴や集計がしづらく、本社での一括管理も難しいという課題がありました。また、お客様にミドルシニア層が多いということもあり、なかなかシステム化に踏み切れないままでした。
課題を解決すべく、予約管理システムを導入したところ、顧客情報、来店情報をクラウドで一元管理できるようになり、本社でリアルタイムの集計が可能になりました。スクールのプログラムも人気度、男女別、年齢別などで集計できるので、常によりよいプログラムを構築できるようになったとのことです。また、店舗ではiPadを使ったセルフチェックインシステムを導入して、出席管理業務の手間を大幅に軽減できたようです。
8. まとめ
リアル店舗の業務や管理をデジタル化すると、店舗スタッフの業務負担を軽減できるだけでなく、お客さまの利便性も上がるため、顧客満足度向上にもつながります。今後もデジタル化は進んでいくので、競争力維持のためにも店舗DXの推進を検討するとよいでしょう。
システムやツールの導入を検討する際は、目的を明確にして、まずは小規模からスタートしてください。費用対効果を考えたシステムやシステムを選ぶことで、店舗DXの失敗を回避できます。