【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
「痛みをすぐにでも取り除きたい方」をターゲットに、2017年に1号店を開業してから約6年で全国に81店舗を展開するまでになった「青山筋膜整体理学ボディ」。一般的な整体の約3倍という高価格ながら、多くのお客さまから支持されています。同店を展開する株式会社理学ボディで代表取締役を務める木城 拓也氏に、立ち上げのきっかけやビジネスモデルについて聞きました。
INDEX
PROFILE
木城 拓也 株式会社理学ボディ 代表取締役
理学療法士の国家試験に合格後、整形外科界で名高い増本整形外科クリニックに入職。プロスポーツ選手や箱根駅伝選手などの施術を数多く担当する。国際コース筋膜マニピュレーションの全過程を修了後、パーソナルトレーナーとして独立。2017年10月に「青山筋膜整体理学ボディ」を開業し、2018年7月に株式会社理学ボディを設立する。2023年12月現在、全国に整体を81店舗展開するほか、2022年3月にはピラティススタジオ「ルルト」1号店を恵比寿に出店し、現在までに国内16店舗を展開する。2023年には海外にも進出し、シンガポール、インドネシアなど海外展開にも注力する。
1. 「理学療法士が行うパーソナルトレーニング」で独自の強みを開拓
私は学生時代、硬式野球部に所属していましたが、椎間板ヘルニアで引退を余儀なくされました。これをきっかけに、同じ境遇で苦しんでいる人を助けたいという想いから理学療法士を目指したのです。
理学療法士になるために進学した専門学校は、ある総合フィットネスクラブの法人会員になっていました。生徒も1回500円という安価で利用できたため、専門学校帰りによく通っていました。あるとき「アルバイトになれば、施設を無料で利用できるしお金も稼げる」ということに気づき、その総合フィットネスクラブでアルバイトとして働きはじめました。
パーソナルトレーナーという職業を知ったのも、このアルバイト時代です。実際にパーソナルトレーナーの方と話してみると、スポーツのパフォーマンスアップやよりよい身体づくりに向けた知識やスキルが豊富である一方、今ある痛みを早期に改善するための知識やスキルについては、理学療法士になるために学んでいる自分のほうが多いように感じました。
「“スポーツのパフォーマンスアップ”と“痛みの改善”の両方に対応できることは、パーソナルトレーナーとして大きな強みになるのかもしれない」。そう感じ、理学療法士になるための専門学校に通いながら、パーソナルトレーナーの資格も取得しました。
2. 意欲ある若者が活躍できる場をつくるため「理学ボディ」を立ち上げ
2-1. 学びたくても学べない業界構造に課題
将来を見据えて資格の勉強をしながらも、学生時代はどこか本気で取り組んでいなかったのも事実です。専門学校時代に初めて受けた理学療法士の国家試験では不合格になったりと、どちらかというと落ちこぼれの方でした。
しかし、専門学校を卒業後、就職した整形外科クリニックでの経験がターニングポイントになりました。周りにいるスタッフは勉強や独立への意欲がある者ばかりで、終業後も夜遅くまで店舗で勉強し、週末はセミナーに参加するという日々を送っていました。ある日、入社したばかりの私にも患者さんをみる機会がまわってきたのですが、うまく痛みを取り除くことができません。「もっとスキルを高めなければ患者さんにも申し訳ないし、周りにもおいていかれてしまう」と思い、それ以降は必死で勉強しました。
勉強に励むようになると、ある課題が見えてきました。理学療法士業界に入ってくる若者は「人の身体をよくしたい」という想いであふれており、勤勉です。医学も進歩し続けているので勉強し続けることが必要ですが、1回勉強会に参加すれば1万円は必要になります。
一方で、医療機関で働く理学療法士の給与は診療報酬の影響を受けるため、一般企業のそれと比較して低く、上がりにくくなっています。給与だけでは勉強にかかる費用を賄えないので副業を始めると、今度は勉強する時間がなくなるという悪循環に陥ります。勉強し続けることが必要な業界に、学びへの意欲ある若者が入ってきているのに、勉強が続けられない業界構造になっているんです。
一般企業に就職し、遊びも謳歌する友人たちを見ながら、「遊ぶ時間も惜しんでこんなに仕事も勉強もがんばっているのに、それに見合う収入が得られていない」という悔しさも感じました。
これらの気づきや想いが「理学療法士が努力した分だけきちんと報酬を得られるよう、保険の枠から出ても活躍できる場をつくろう」という起業のきっかけにつながりました。
2-2. 理学療法士兼パーソナルトレーナー、2足のわらじで起業準備
整形外科クリニックで働き出した2年目からは、副業としてフィットネスクラブでパーソナルトレーナーとしての活動も始めました。収入を増やす目的もありましたが、自分でお客さまを獲得しなければならないパーソナルトレーナーという職業は、学んでいた営業やマーケティングスキルを実践する場として最適なんです。起業に向けて必要なスキルが習得できると考えました。
そのうち、パーソナルトレーナーとしての収入が整形外科クリニックの収入を上回るようになったため、整形外科クリニックを退職し、数年間ほどフリーランスのパーソナルトレーナーや理学療法士として活動しました。
販促活動として1人でチラシをまいたり、電話営業や訪問営業も実施しました。その間、ホームページを最適化してくれるというある企業と契約したのですが、高い費用を払ったにもかかわらずまったく集客につながらないという苦い経験もしました。その経験から、人に任せっぱなしにしてはいけないと自分でもSEOやWebマーケティングの勉強を始め、ホームページから順調に集客できるスキルが身に付いたタイミングで、自分の店舗を立ち上げることにしました。
3. 一般的な整体の約3倍の価格で高い成約率を狙う
店舗のコンセプトは「通わせない整体」です。国際的に認められた筋膜マニピュレーションという手法を取り入れた「筋膜整体」を提供し、最短でお客さまの痛みの改善を目指す店舗にしたいと考えたためです。筋膜マニピュレーションや、理学療法士という職業への誇りを込めて店舗名は「青山筋膜整体 理学ボディ」(以下、理学ボディ)と決めました。
整体を提供する店舗において、一般的には新規顧客を獲得し続けていくよりも、チケットなどでリピーターをつくり、通い続けていただくほうが経営方針としては合理的です。しかし、私は理学療法士として「痛みを最短で改善すること」に取り組んできました。お客さまにとってもそのほうが嬉しいはずです。
そこで、痛みを取り除き、短期間でお客さまが店舗を卒業しても経営が継続できるよう、理学ボディでは1回あたりの施術料金を17,000円と設定しました。保険適応の施術には内容や時間に制限がありますが、適応外にすることで痛みの改善に向けて、理学療法士は自らのスキルを最大限発揮することができます。
一般的な整体の1回あたりの平均価格は5,000〜7,000円のため、約3倍です。しかし、私には多くの患者さんを診てきた経験から、「価格が高くてもすぐにこの痛みを改善してくれるなら利用したい」というニーズがあるという確信がありました。ターゲット数は限られても成約率が高ければ顧客の獲得単価を下げられます。
このビジネスモデルならばしっかりと利益を創出できるため、理学療法士はスキルを発揮しながらそれに見合った給与が得られ、お客さまは痛みから解放される、という好循環が生まれると考えました。
それでも、1回17,000円という価格は平均と比べて高価なため、安全を期して1店舗目は高所得層が集まりそうな表参道にオープンしました。2017年10月に1店舗目をオープンし、現在は地方含め81店舗を展開しています。初期集客のスピードにより、初回キャンペーンを実施するか否かの違いはありますが、全店舗、1回の価格は17,000円で統一しています。「高価格でも最短の効果を求めるお客さまはいる」という仮説は間違っていなかったと言えるでしょう。痛みに悩みを抱える方にしっかりと我々の志すサービスが届いているのだと感じています。
【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
【後編】では、81店舗まで広げることができた要因についてご紹介します。