株式会社hacomono(以下、hacomono)は12月3日(火)、業界の有識者4名をお招きして「hacomono Fitness Headlines 2024」を開催しました。それぞれの方にはディスカッションに先立ちインタビューを実施し、2024年にフィットネス業界で起きたニュースの中から特に注目した3つを選んでいただきました。約25年間に渡り大手総合クラブで勤務し、現在はhacomonoでマーケティングを担当する鶴橋 亮が、そのニュースを選んだ理由や得られた示唆について聞きました。
INDEX
PROFILE
岡部 智洋 株式会社ティップネス 代表取締役社長/日本テレビ放送網株式会社 取締役
日本テレビにてスポーツ局や編成部で活躍後、読売ジャイアンツ広報やティップネス取締役を務め、2023年に株式会社ティップネス代表取締役社長に就任。現在は桐蔭横浜大学客員教授も務めている。自身も日頃からトレーニングに取り組み、2024年別府大分毎日マラソン大会におけるフルマラソンに参加し、3時間7分17秒で完走した。
1. 「chocoZAP」の会員数が120万人を突破
—— 岡部さんがこちらのニュースに注目した理由を教えてください。
出店数と獲得会員数の多さが際立っており、圧倒的な存在感を示しています。「chocoZAP」の会員数120万人は、2024年の日本の人口のおよそ1%に相当します。フィットネス業界は長年、フィットネス参加率3~4%の壁を壊すことができていませんが、この数値に「chocoZAP」は入っていません(※)。「chocoZAP」を含めれば、壁を壊すどころか、軽く超えることになります。「chocoZAP」の躍進は人々を運動に駆り立てる新たな方法を提示していると考えられます。手軽さやアクセスの良さなど、従来のフィットネスモデルにはない強みが、人々の行動を変える大きなヒントになっていることは間違いありません。
※「特定サービス産業動態統計調査」(経済産業省)における「フィットネスクラブ」の定義にあてはまらないため。
—— フィットネス業界の多くの企業が「chocoZAP」の動向に注目しています。その経営スタイル、ブランディングを参考に、どのような取り組みをお考えでしょうか。
フィットネス初心者の方が入会しやすく続けやすい、エントリーモデルの店舗作りです。今、多くの24時間ジムが存在していますが、それらは必ずしもエントリーモデルとは言えません。理由の1つは、スタッフが常駐していない店舗が多く、初心者が安心して利用しづらい点です。また、ボディビルダーやアスリートなど本格的なトレーニングを目的とする方が多く利用しているため、初心者が入りづらい雰囲気があることも課題です。
本来、エントリーモデルになるべきは総合クラブだと思いますが、コロナ禍を経てやや常連の方が増えたように感じています。店舗へのエンゲージメントが高い方たちですからとてもありがたい一方で、常連の方が多くなるとフィットネス初心者のニーズに応えることが難しくなります。体験キャンペーンで初心者の方にも来ていただけるよう取り組んで来ましたが、本当にそれだけでいいのか?と感じていたところに「chocoZAP」が示唆を与えてくれたように感じています。
—— 「chocoZAP」の躍進は、フィットネス業界の多くの企業が脅威と感じる一方で、「フィットネスの裾野を広げてくれてありがたい」という肯定的な声も聞かれています。では「chocoZAP」の月額2,980円(税別)という価格設定についてはどのようにお考えでしょうか。
会費には幅があっていいと思います。「chocoZAP」のように3,000円ほどの店舗もあれば、私は5万円の店舗があってもいいと思います。質の高い指導や、高品質なフィットネスマシンやトレーニングアイテムが用意されていて、自分の体をより良くしてくれるなら「5万円でも出す」という方はいるはずです。
—— 岡部さんご自身も、忙しい仕事の合間に短時間でもトレーニングを続け、その効果を実感されているそうですね。
トレーニングする際、正しいフォームを意識しているからですね。スクワットを例に挙げれば、正しいフォームで行えば20回でも効果を得られます。正しいフォームをとること自体がなかなか難しいのですが、トレーナーと一緒に繰り返していると、脳のメモリーが上書きされてできるようになりますし、できるようになると効果が出やすくなります。無人・有人施設に限らず、このようなサポートを実施していくことが、フィットネス業界として必要だと思います。
岡部 智洋氏
2. フィットネス10社による初のランイベント「ファンランリレー」
—— こちらを選ばれた理由は何でしょうか。
FIA(一般社団法人日本フィットネス産業協会)の企画ではない形で、大手10社が手を組み会員さまの晴れの場を作るという取り組みはこれまでにない新しい挑戦だと思います。これまでの「競争」から、これからは「共創」の時代に移ることを象徴する取り組みです。フィットネス参加率がまだ3~4%台のなかで争っていても仕方がありません。地域の競合ではなくパートナーとして手を取り合うことが、フィットネス参加率を向上させられる近道だと思います。
—— 近年は小規模業態が躍進し、総合クラブは新規出店が止まっています。今後、総合クラブが新時代に対応するにはどのようなアップデートが必要だと思いますか。
日本テレビが主催し、当社も参画している健康キャンペーン「カラダWEEK」に1つの答えがあります。今年は「好きなことで、カラダにいいこと。」を始めるきっかけ作りがテーマです。実は好きなことがないと感じている方が意外に多いんです。ティップネスではそうした方々に「好きなこと」を見つけてもらい、それを通じて健康になるきっかけを提供したいと考えています。「好きなこと」が健康に繋がればとてもいいと思いませんか。
—— フィットネス業界ではターゲットを絞った特化型が成功の鍵とされ、「総合クラブは多様だがターゲットが不明確」との意見もありますが、岡部さんはその多様さが、生きがいを見つけることに繋がると考えているのですね。
「生きがい」につながる「好きなこと」を見つける場所ですね。総合クラブの幅広いコンテンツを体験した結果、例えばダンスが好きになり、もっと極めたいと感じたら、ダンス専門のスクールに進めばいいと思います。
—— 好きなことを見つけた結果、総合クラブを卒業したとしても、総合クラブにとってはその役割を果たせたということでしょうか。
フィットネス業界の店舗をお客さまの層で階層分けすると、これまでは運動初心者も多い総合クラブがピラミッドの一番下にいて、一番上が尖ったコンテンツを提供する専門店という位置づけになります。しかし、「chocoZAP」が現れてくれたことで、我々総合クラブは堂々とミドルの階層に進むべき時ではないかと考えています。
3. 誰でも楽しめるピックルボールに注目集まる
—— 3つ目に挙げていただいたピックルボールはどういう経緯で発見したのでしょうか。
偶然にも、それぞれ異なる業界の方3人から同時期に「面白い」という感想を聞いたので、これは何か特別な魅力があるのだろうと感じたんです。私のなかではボウリングに近いイメージをもっています。運動の得意・不得意や体力に関係なく、どなたでも楽しめる点がこのスポーツの大きな魅力です。
—— その他、2024年のニュース全般から感じたことはありますか?
新規参入するプレイヤーが増えた点が印象的でした。この点をみるに、フィットネスクラブは斜陽産業だという意見も聞かれますが、私はそんなことはないと思います。次のピークに向けて、今は群雄割拠の時代として成長する企業と淘汰される企業の二極化が進んでいる状態だと思うので、総合クラブもここでどう進化するかが重要な時期といえるでしょう。