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J2、J1昇格とコミュニティづくり 自前のスタジアムを有するサッカークラブによる2つの挑戦

2024.09.26

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※今治.夢スポーツ経営企画室長兼パートナーシップグループ執行役員飛田隆之氏(写真左)とhacomono 蓮田健一

hacomono代表取締役CEO蓮田健一氏をホストとするシリーズ対談の第3回目は、愛媛県今治市でJリーグのFC今治(J3)、そして「アシックス里山スタジアム」を運営する今治.夢スポーツ 執行役員の飛田隆之氏を迎え、にぎわいづくりやマネタイズの考え方、民設民営スタジアムとしての目指す姿などをお聞きしました。

※本記事は、「月刊レジャー産業 2024年8月号」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。

INDEX

PROFILE

飛田隆之 株式会社今治.夢スポーツ 経営企画室長兼パートナーシップグループ執行役員

東京都出身。2005年東京大学経済学部卒業後、三井住友銀行入行。法人営業部・ホールセール統括部・ニューヨーク支店に在籍し、法人営業の現場・企画・海外業務に従事。

2021年4月より、株式会社今治.夢スポーツの経営企画室長として入社、今治へ移住。2023年1月よりパートナーシップグループの担当役員を兼務。

1. シビックプライドを育みコミュニティを生む

蓮田:サッカー元日本代表監督である岡田武史氏がクラブのオーナーになってから、今年11月で10周年を迎えるそうですね。

飛田:はい。当社は、企業理念に「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」と掲げています。FC今治というフットボール事業を核に、この10年で展開してきた教育事業などの取り組みは、すべてこの企業理念に根差しています。

そんななか、2023年1月に竣工した「アシックス里山スタジアム」は、大きな環境変化であり、挑戦の場になっています。

蓮田:挑戦とは。

飛田:2つあります。1つはFC今治がJ2、J1へと昇格し、J1で常時優勝争いをするチームになることです。10年前は四国リーグだったチームですが、その後JFLに昇格し、現在はJ3に所属しています。地域の方々は「自分たちのチーム」という、いわば“シビックプライド”をもってくださっていると感じますし、J2、J1に昇格すればその意識もより強くなるはずです。

もう1つは「コミュニティづくり」です。その大きな要因となっているのが、このスタジアムが「民設民営」であることです。365日自分たちで運営できる場所を得ましたが、Jリーグのホーム戦は年間20試合程度です。したがって、残りの345日をどういう場所にしていくかという議論を重ねるなかで企業理念に立ち返り、「心の豊かさを感じられる場所」にしていこうとの考えに至りました。そして単ににぎわうだけでなく、顔の見える関係性、コミュニティをつくりたいと考えています。

今治.夢スポーツ 飛田隆之氏

今治.夢スポーツ 飛田隆之氏

蓮田:アシックス里山スタジアムが複合施設である背景には、そういう理由があるのですね。

飛田:通常、来場者動線を優先的に考え、スタジアム周りには駐車場を確保するのがセオリーですが、当スタジアムでは周囲にドッグランやカフェを配したほか、「里山ファーム」ではさまざまな農作物を栽培しています。さらにその隣には地域の社会福祉法人が運営する複合福祉施設も所在するなど、スタジアムは多様なにぎわいコンテンツに囲まれています。ソフト面でも今年5月から当スタジアムのネーミングライツパートナーになっていただいているアシックスさんとともに、ランニングやウォーキングイベント、健康プログラムを通じて、地域住民の健康増進・運動の習慣化を進めたいと考えています。さらに今後はアート分野のワークショップなど、コミュニティへの入り口を複数用意したいと思っています。

気候変動をはじめ、今後社会がどう変化していくかわからない時代であることを踏まえ、私たちは「共助」、つまり共に助け合うコミュニティをつくることを標榜しています。そのプロセスとしてにぎわいがあり、コミュニティがあるのです。

蓮田:日本では、民設民営のスタジアム自体もチャレンジですよね。すでにアシックス里山スタジアムは、街を代表するアイコンのような存在になっているのだと思います。

飛田:今治市は人口約15万人で、みなさんが「自分たちの街」と思っている。そこにJリーグクラブができ、スタジアムができるというインパクトは大きいと思いますし、街の人たちと一緒に成長できるよさがあると思います。

hacomono 蓮田健一

hacomono 蓮田健一

2. アナログとデジタルは「or」ではなく「and」。両立は可能

蓮田:チームの成長、コミュニティづくりと並行して、民営スタジアムですから事業としても成長させていくことも求められるかと思います。

飛田:クラブとしての業容を大きくし、にぎわいを生むさまざまなコンテンツをつくると同時に、しっかりと「経営」していかなければなりません。課題はいろいろありますが、特にリソース、なかでも「ヒト」と「カネ」の部分についてはいつも頭の痛い問題です。

蓮田:ヒトについては、DXが解決策の1つになるかと思います。

飛田:サッカースクールでは「hacomono」のシステムを活用させていただいておりますが、実はそれ以外はあまりデジタル化が進められておりません。リソースの効率化を考えるともっと進めていきたいところですが、一方で手触り感を大切にしたいという思いもあります。

蓮田:私はアナログとデジタルの関係性は「or」ではなく「and」だと思っています。人でなければできないことをするために、デジタルでもできることをデジタル化する。例えば、利用者がスマホで混雑状況を確認できて、予約、決済もできると、場所が民主化されて、利用者にとってより使いやすい場所になります。ですからデジタルの利便性と飛田さんのおっしゃる手触り感は両立できるものと考えています。

飛田:われわれがサッカー以外の事業もいろいろやっていることや、スタジアムで実施しているさまざまなイベントなどについては、周知がまだ十分できていないと感じることもありますので、そうした人手だけでは限界のある業務についても、デジタルの力を借りて「見える化」することも必要ですよね。ただ一方で、事業者ごとにアプリがあったりしますので、計画性なくDXによる効率化に取り組んでも、お客さまにたくさんのアプリに登録いただく必要があるといったデメリットも躊躇する要因の1つになっています。

蓮田:アプリ同士の連携は今後進むと思います。実際、当社でもJリーグのシステムとの連携を準備中です。

飛田:連携によるセキュリティ面でのリスクも考えなければなりませんから、どうしても慎重になりますね。一度踏み出したら戻れないと思うので、メリットと課題をよく考えて意思決定しなければなりませんが、リソースを補う意味でもDXは絶対に必要だと思います。

蓮田:デジタルは、人を集めることにも、ビジネスとして伸ばすことにも活用いただけます。今後はFC今治さんが進めるスタジアムを通じたコミュニティづくりについても、さまざまな形で当社のシステムを活用いただけるのではないでしょうか。

飛田:当社のにぎわい、コミュニティづくりはスタートしたばかりで、どう実装するか、具現化するかということはまだこれからです。手触り感も大事にしながら、デジタルの活用のあり方を考えていきたいと思います。

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