電子帳簿保存法とは、国税に関する帳簿や書類を電磁的記録で保存する際の取扱などを定める法律のことです。2023年の税制改正により、どのように自社に導入するべきか検討している事業者は多いでしょう。本記事では、電子帳簿保存法の概要や対象書類の範囲、電子帳簿保存法の改正の目的や導入のメリット・デメリットについて解説していきます。
また、具体的な導入事例についても紹介しているので、ペーパーレス化や経理業務の簡易化を検討している店舗や事業者におすすめです。
INDEX
1. 【基礎知識】電子帳簿保存法とは?わかりやすく解説
電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿や書類を電磁的記録で保存する際の取扱を定める法律のことです。
国税関係の帳簿や書類には以下のようなものがあります。
国税関係帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、固定資産台帳など |
---|---|
国税関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、請求書など |
電子帳簿保存法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに区分されます。
電子帳簿保存法の区分 | 詳細 | 適用 |
---|---|---|
電子帳簿等保存 | ・電子的に作成した帳簿等を電子データのままで保存すること | 任意 |
スキャナ保存 | ・紙の書類等をスキャナで電子データにして保存すること | 任意 |
電子取引 | ・電子データでやり取りした書類等 | 全事業者が対象(2024年1月1日から) |
1-1. 電子帳簿保存法とe-文書法との関係
電子帳簿保存法とe-文書法は、どちらも書類等の電子的な保存について定められた法律です。e-文書法は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」および「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つを合わせた総称で用いられます。
e-文書法は、企業等において紙で保存されていた各種書類を電子的に保存するための法律であるのに対して、電子帳簿保存法は国税庁や財務省で管轄される国税関係帳簿書類等についての電子化と保存方法の特例を定めた法律です。またe-文書法では、電子帳簿保存法の対象書類に加えて定款や株主総会議事録などについても対象となる一方で、免許証や許可証など現物性の高い書類は対象外となります。
2つの法律の関係 | 電子帳簿保存法 | e-文書法 |
---|---|---|
施工 | 1998年7月 | 2005年4月 |
管轄 | 国税庁・財務省 | 各省庁 |
概要 | 国税関係帳簿書類等を電磁的記録で保存する際の取扱などを定める法律 | 企業で紙で保存されていた特定の書類等について電子的な保存を認めた法律 |
1-2. 電子帳簿保存法の対象書類
電子帳簿保存法の対象書類について解説していきます。
- 電子帳簿保存の対象書類
- スキャナ保存の対象書類
それぞれの保存区分の対象書類をくわしくみていきましょう。
1-2-1. 電子帳簿保存の対象書類
電子帳簿保存の対象書類
- 国税関係帳簿
- 決算関係書類
- 取引関係書類
国税関係帳簿 | 国税関係書類 | |
など | 決算関係書類 | 取引関係書類 |
など | 自己発行の写し | |
など | ||
電子帳簿等保存 |
電子帳簿等保存の対象書類は、国税関係帳簿と国税関係書類(決算関係書類・取引関係書類)です。会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿や決算書書類などが電子帳簿等保存の対象となります。電子帳簿等保存の適用は任意であるため、紙として保存することも可能です。しかし、これらの電子的に作成した帳簿や決算書書類を電子データでやり取りした場合、電子取引となるため必ず電子データで保存しなければいけません。
出典:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」
1-2-2. スキャナ保存の対象書類
スキャナ保存の対象書類
- 国税関係書類(取引関係書類)の自己発行の写し
- 国税関係書類(取引関係書類)の取引先から受領
国税関係書類(取引関係書類) | |
自己発行の写し | 取引先から受領 |
など |
など |
スキャナ保存 |
スキャナ保存の対象書類は、取引先から受領した紙の国税関係書類(取引関係書類)や、自己発行した国税関係書類(取引関係書類)の控えが対象です。
スキャナ保存の適用は任意であるため、電子データとして保存することも可能です。
2. 2023年電子帳簿保存法改正の背景と目的
2023年電子帳簿保存法改正の背景と目的は、「DX推進化」や「ペーパーレス化」にあると考えられます。近年ではインターネットを活用したオンライン上での業務が頻繁におこなわれており、社会全体のDX推進化が加速している状況です。そのため、多くの業種で書類が紙媒体から電子化されて、インターネット環境下であれば場所やデバイスを問わずスムーズにやり取りができます。
また、紙媒体で書類のやり取りをおこなうと、紛失や保管に関する問題が生じてしまうため「ペーパーレス化」は情報漏洩の防止や業務効率の向上に欠かせません。2023年の電子帳簿保存法改正により、電子帳簿等保存、スキャナ保存の要件が大幅に緩和され、電子取引については電子データ保存が義務化されました。
今後もあらゆる時代の変化に対応するために、導入が遅れている業種でも電磁的記録により書類等が保存され、電子化が推進されていくと予想されます。
3. 電子帳簿保存法に対応するメリット
電子帳簿保存法に対応するメリットは以下のとおりです。
- 業務の効率化
- 経費の削減に繋がる
- セキュリティの強化に繋がる
- テレワークの促進・定着
それぞれのメリットについてみていきましょう。
3-1. 業務の効率化
電子帳簿保存法に対応するメリットの1つに、業務の効率化が挙げられます。例えば、領収書や書類が電子化されることで、書類の保管・仕分け作業の負担が軽減されるなどです。その他にも、遠隔地や外出中の人に書類等をすぐに共有できるので、場所にとらわれずに業務効率化が図れます。
3-2. 経費の削減に繋がる
電子帳簿保存法に対応するメリットとして、経費の削減に繋がることが挙げられます。
紙媒体でなくなることで、用紙代だけでなく印刷代やインク代、書類の保管や仕分けに必要な費用や契約書に貼る印紙代も軽減できます。
3-3. セキュリティの強化に繋がる
電子帳簿保存法に対応することで、セキュリティの強化に繋がるといったメリットがあります。書類を紙で出力することにより、紛失や情報漏洩につながる恐れがあります。書類が電子化されることにより、セキュリティが高いクラウドサービスなどに保存・仕分けができるので自社のセキュリティリスクを改善できるはずです。
3-4. テレワークの促進・定着
電子帳簿保存法に対応するメリットの1つに、テレワークの促進・定着が挙げられます。インターネット環境下であれば、従業員の居場所を問わずに電子化された書類をやり取りできます。テレワークの推進により、多くの人の働き方が改善されるはずです。
4. 電子帳簿保存法に対応するデメリット
電子帳簿保存法に対応するデメリットは以下のとおりです。
- システム導入コストが発生する
- ワークフローシステムの導入と見直しが必要
- システム障害のリスクがある
それぞれのデメリットについてみていきましょう。
4-1. システム導入コストが発生する
システム導入コストが発生することも、電子帳簿保存法に対応するデメリットとして挙げられます。書類を電子化して管理・運用する場合、ソフトウェアやスキャナなどの導入が必要です。さらに、容量やユーザビリティ、セキュリティ面の強化などを維持するためにも費用がかかることをあらかじめおさえておきましょう。
4-2. ワークフローシステムの導入と見直しが必要
電子帳簿保存法に対応するデメリットの1つに、ワークフローシステムの導入と見直しが必要なことが挙げられます。導入するワークフローシステムによっては、業務のすべてを効率化できない可能性があります。
また、従業員が利用する上で負担やストレスにならないような社内フローの検討も不可欠です。業務効率の向上を実感するには、さまざまな人の意見や見直しを経る必要があります。
4-3. システム障害のリスクがある
システム障害のリスクがあることも電子帳簿保存法に対応するデメリットの1つです。書類を電子化するためには、複数の機器やシステムを活用することになります。
それぞれの機器やシステムに障害が発生した際は、業務が中断されるだけでなく復旧コストもかかります。保守契約の拡充やDX人材の採用などの対策が必要となるでしょう。
5. 【税理士が解説!】今からでも間に合う?電子帳簿保存法対応のポイント
2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法。その猶予期間は2023年12月31日までとされており、2024年1月以降の義務化に向けて各企業が対応を急いでいます。今回は、フィットネス系企業の案件も多く手掛け、バックオフィス業務の効率化サポート、アウトソーシングサービスなども提供する税理士法人エナリ 副所長/みなとみらい拠点長 江成 結己先生に、改正電子帳簿保存法対応に向けて押さえるべきポイントや準備すべきことなどについて、伺いました。
PROFILE
江成 結己公認会計士・社員税理士 税理士法人エナリ 副所長 / みなとみらいの拠点長
有限責任監査法人トーマツで、ベンチャー企業中心に会計監査、上場支援業務を提供。コンサル会社を経て、税理士法人エナリに入所。入所後、新規創業・起業したばかりのベンチャー企業向けに会計税務、資金繰り、事業計画策定サービスの提供を開始。現在では年間100件を超える創業起業に関する相談を受けている。
5-1. すべての企業が対応必須な事項は「電子取引」
——電子帳簿保存法の概要について教えてください。
電子帳簿保存法は、「電子帳簿・電子書類」「スキャナ保存」「電子取引」という3つの区分からなります。
このうち「電子取引」はすべての企業にとって対応必須の事項となっています。請求書や領収書などを電子データで授受した場合には、その電子データを一定の要件を満たした形で保存する必要があるというものです。
「電子帳簿・電子書類」および「スキャナ保存」への対応は任意ですが、これらに対応することでペーパーレス化を目指せます。帳簿については従来、紙の形式が主流でしたが、現在ではほぼすべての会社が会計ソフトなどを使用して作成しています。電子帳簿保存法によって、これらの帳簿を印刷せず電子データのまま保存できるようになりました。これが「電子帳簿・電子書類」の考え方です。また「スキャナ保存」は、紙で受け取った国税関係書類でも、指定された期間(2ヶ月と7営業日)内にスキャンして電子データ化し保存することで、紙として保管する必要がなくなるというものです。
——各社対応必須な「電子取引」においては、電子データ保存時にどのような要件が求められているのでしょうか。
まずは「可視性の確保」です。電子取引で受け取った書類は、電子データとして保存する場所が必要となります。これに対しシステムを利用する場合は、その概要を記載した書類を用意する必要があります。一般的なクラウド会計ソフトであれば、サービス内で提供されているクラウドサーバーを利用することになりますので、そのマニュアルがあれば問題ありません。また、保存された電子データはディスプレイなどを用意してすみやかに出力できるよう見読性を確保しておくことが求められます。さらに、取引年月日、取引先、取引金額で電子データを検索できるようにしておく必要もあります。クラウド会計ソフトであれば、ファイルをアップロードする段階でこれらの情報を入力するため、こうした検索機能の確保という要件はおのずと満たせると思います。
もうひとつは「真実性の確保」です。保存した電子データが改ざんされないようにしておくというもので、いくつかの方法があります。1つは、タイムスタンプを付与する、あるいはタイムスタンプが付与されたデータを受領するというものです。また、訂正や削除ができない、あるいは訂正や削除を確認できるシステムを使うという方法もあります。こうしたシステムを準備できない場合は、社内で訂正や削除に関する規定を定めて運用することが求められます。
5-2. 対応できないとどうなる? 対応のメリットは?
——電子帳簿保存法に対応することによって発生する企業側のメリット・デメリットについてお聞かせください。
メリットを実感できるのは、ペーパーレス化を実現できるという点で「電子帳簿・電子書類」「スキャナ保存」への対応だと思います。
税法上の繰越欠損金などを考慮すると10年間は帳簿を保存した方がよいですが、紙で10年分を保管しようとすると結構な量になります。しかし電子帳簿保存法では、決算書、総勘定元帳、仕訳帳などの帳簿を一貫してシステム上で作成していれば紙での出力や保存が求められなくなるため、企業側も会計事務所側も大きなメリットがあります。また、スキャナ保存によって紙で受領した請求書などをルールに則った形で電子データ化しておけば、紙のほうは破棄してもよいということになります。こちらも企業のメリットになると思います。
ただ、紙での作業を前提としたオペレーションを見直す必要は出てきます。例えば、社内の業務上のルールとして、印刷して何らかの作業をすることが禁止される可能性もあります。請求書の管理など紙を用いるほうが便利なシーンは意外と多いので、それを不便に感じてしまう面もあるかもしれません。
——電子帳簿保存法へ対応できなかった場合にはどのようなリスクがありますか。
必ず対応しなければならない「電子取引」の区分では、2パターンの違反が考えられます。
1つめは、紙でも電子でも保存していない場合。例えば、フィットネスクラブでプロテインを仕入れて電子データで請求書が届いたが、これを紙でも電子でも残していないとなると、青色申告の承認が取り消され、税負担が増える可能性があります。ただ、これは税法上の罰則です。会社法では、懲役や罰金が課される可能性があります。中小企業などではスキャン保存の2ヶ月と7営業日という指定期間内に対応できない場合もあると思いますので、期間を過ぎてしまったら紙で保存しておく必要があるということは押さえておいたほうがよいでしょう。
もう1つは、電子で届いたデータを紙に印刷して残した場合。これに関して国税庁は「直ちに青色申告の承認取り消しにはならない」と回答しています。
なお、紙で受領した書類をそのまま紙で保存しておくことは問題ありません。電子で受け取った書類は原則電子で保存するという点だけ理解しておいていただければ、法律的にはOKだと思います。
——事業者からはどのようなご相談が寄せられていますか。
電子帳簿保存法だけでなく、電子帳簿保存法を含めた社内のバックオフィスの効率化に関するご相談が多いですね。このあたりに対応できる事務所の引き合いは今、非常に多いと思います。
5-3. 最低限の準備期間は約2ヶ月
——まだ準備をしていない企業の場合、準備期間はどのくらいを想定すればよいでしょうか。
2ヶ月ほど見ていただければよいと思います。はじめの1ヶ月くらいで、まずは現状の整理を行っていただきたいです。ユーザーとの契約や業務委託契約を結んでいるトレーナーへの支払いなどで会社が授受している書類が紙なのか電子なのか、会社の預金口座はネットバンクなのか、すべて洗い出して確認します。ここは時間のかかる作業になると思います。こうして現状の整理ができたら、次にやるべきは普段の業務のなかでこれらの書類をどう保存していくか、そのフローを構築していくことです。電子データを受け取る場合は誰がどのフォルダに入れるのか、その担当を決めることでフローが定まっていくと思います。また、紙で受け取っていた書類をスキャナ保存したい場合、新たなフローが発生するので、誰がその作業を担当するのか決める必要があります。その後、社内への周知に少なくとも1ヶ月はかかると思います。これが最低限の対応となるでしょう。
——フィットネス店舗に来店するユーザーや取引先企業への影響はありますか。
一般のユーザーにはそれほど影響はありませんが、法人契約や事業者契約の場合、電子帳簿保存法対応のために請求書を電子化してほしいという要望が寄せられることはありえると思います。
5-4. システム選定は他の業務との連携も考える
——用意すべきIT機器はありますか。
会社の方針によると思いますが、例えば紙の書類をスキャナ保存したい場合はスキャナやファイルサーバーを用意することになると思います。当事務所では、「ScanSnap」という小型のスキャナをお客さまに配布しています。
——システムを導入する場合、どのような機能のあるシステムがおすすめでしょうか。
電子帳簿保存法のことだけを考えると、電子データを保存でき、かつ削除や変更ができないようにするなど要件を満たすものを選んでいただければよいですが、請求書などは支払いや決算などの処理ともつながるものなので、他の業務との連携を考えてシステムを選定することをおすすめします。
——検索機能や真実性の確保といった要件は、管理・会計系ソフトやシステムを導入せずとも対応可能でしょうか。
電子取引がそこまで多くなく、保存の機能だけあれば十分というケースもあると思います。PDFで受け取った書類のファイル名に「取引年月日」「取引先」「取引金額」を入れるようにする形であれば、PC1台でも十分です。ただ、この方法で対応できるかどうかは、電子で受け取る書類の分量や関わるスタッフの人数で判断すべきだと思います。電子で受け取る書類が少なければよいのですが、書類が多かったり複数の人が関わったりすると、ファイルを誰かが消してしまった、どこに保存されているのかわからないなどという事態が起こりえます。扱う書類や関係者が多い場合はシステムを導入したほうがよいでしょう。
——管理・会計系のソフトやシステムを導入する場合は、IT導入補助金制度の利用は可能でしょうか。
可能です。ソフトウェアベンダーへの支払いだけでなく、会計事務所などによるコンサルティングフィーも対象になります。
5-5. 「紙の書類はすべて捨ててもいい」という誤解
——社内規定を準備する必要はありますか。
システムを導入しない場合、真実性の確保のために訂正や削除の防止に関する事務処理規定を定める必要があります。これについては、国税庁が法人および個人事業主向けのサンプルを公開しているので、こちらにのっとって作成していけばよいでしょう。
——実際に現場のオペレーションを構築したり、現場担当者を教育したりするうえで気を付けるべき点をお聞かせください。
スキャナ保存に対応していないのに「電子取引に対応しているから紙の書類は捨ててもいい」という勘違いをされているケースは意外に多いです。電子帳簿保存法にのっとった処理とは何か、そもそも電子帳簿保存法とは何か、現場に理解してもらうことが必要だと思います。
また、オペレーション変更に対して現場が混乱してしまう可能性もあります。特に紙ベースの作業がメインで、電子で受領した書類も紙に印刷していた企業は、新たな業務フローが発生することになります。そのあたりを明示して丁寧に説明する必要もあるでしょう。