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【健康経営の意味と価値】人的資本最大化のために求められる経営戦略と経営判断

2023.11.27

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この記事は、2回に分けてお届けしています。

>前記事『7年連続「健康経営優良法人」に選出されたルネサンスの健康経営戦略とは』

健康経営企画部の部長として株式会社ルネサンスの健康経営戦略を率いる樋口毅氏。同氏は健康経営会議実行委員会やNPO法人健康経営研究会の理事として、ルネサンスのみならず、他社の健康経営推進のコンサルティングなども実施しています。2013年から健康経営®の普及啓発に取り組む樋口氏に、多くの企業が抱えている健康経営に対する課題についてお聞きしました。

INDEX

PROFILE

樋口 毅 株式会社ルネサンス 執行役員 健康経営企画部 部長/健康経営会議実行委員会 事務局長/健康長寿産業連合会 事務局長/NPO法人健康経営研究会 理事/経済産業省 健康投資ワーキング委員/厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクト委員/スポーツ庁スポーツエールカンパニー認定委員会委員 など

順天堂大学大学院 健康・スポーツ科学研究科修士課程修了。トッパングループ健康保険組合、凸版印刷株式会社などを経て現在に至る。「働く人の健康」をライフワークとして活動中。

公式Webサイトはこちら

1. 健康経営、人をコストととらえるか、資本ととらえるか

現在、ルネサンスでは1,300法人を超える企業に対し、健康経営を促進する健康づくり支援事業を提供しています。2014年に経産省主催で健康経営優良法人認定制度ができましたが、制度策定から10年近くを経て、ようやく「健康経営は経営戦略の一つである」という概念が浸透してきたと思っています。

私は、「健康経営」という言葉を生み出した、NPO法人健康経営研究会の理事も務めています。健康経営研究会では発足の2006年当初から、健康経営を“経営戦略”として位置付けてきました。しかし、未だに、健康経営とは法令遵守を基点とする“健康管理”だと思っている企業が多いことも事実です。

健康経営を“健康管理”事業としてとらえた場合、その多くの施策は「健康経営=コスト解消」視点での取り組みになってしまいます。もちろん、安全配慮義務を含む、健康管理の取り組みは企業の土台づくりのための大切な事業であることは間違いありません。しかしながら、病気になって働くことができなくなって、アブセンティーイズム(健康状態が原因で仕事を欠勤している状態)になっている従業員や、出勤はできているのだけれど、心身の不調によりパフォーマンスが発揮できないプレゼンティーイズム(健康問題のために生産性が低下している状態)になっている従業員に、さらに健康管理コストを投じても、結局は、課題が解消されてマイナスの状態の健康度がゼロに戻るところが限界です。

一方で、健康経営を“経営戦略”として捉えた場合、「健康経営=人という資源を資本に換える経営」となります。従業員の健康を通じて、従業員という“人”の価値が向上し、企業の持続的な成長を支える“人的資本”へと換えていくのです。

【健康経営の意味と価値】人的資本最大化のために求められる経営戦略と経営判断

2. 人的資源の価値を生み出す「健康診断の戦略化」

私は複数の企業で健康経営についてのコンサルティングを行っているのですが、健康経営をどう進めていけばよいのか悩まれている企業は多いと感じます。

前回、弊社では健康診断の再受診率を100%にする取り組みを行っていると話しましたが、これは当社が経営戦略の一環として取り組んでいることの一部です。「従業員の健康度を向上させることで、健康診断の結果をもとに自分を管理できるプロフェッショナルな従業員を増やすこと。そして、プロフェッショナルとして、従業員一人ひとりが、お客さまの生きがいに伴走できる人財となることが目的です」。このように「なぜ、なにに取り組むのか?」というナラティブな(主体的に自社の物語として考えるアプローチ)戦略シナリオを組み立て、人資本価値を生み出すことが、健康経営を経営戦略として実行することだと考えています。

コンサルティングの場で、経営者の皆さんに、「健康診断は、御社にとってどんな便益(ベネフィット)を生み出すための投資ですか」という質問を投げかけさせていただいています。この質問に即答できる経営者はそう多くありません。ここに企業としての目的が明確化されていないということは、健康診断の投資目的は単なる「法令遵守コスト」ということになろうかと思います。健康診断費用は、従業員一人あたり1.5万円ぐらいです。従業員が1万人の会社であれば、1億5千万円の費用を投じていることになります。これだけの費用を出すことは、どの企業でも大変な努力がいることは間違いありません。

改めて、健康診断ひとつをとっても、現状の”当たり前”の法令遵守コストを見直し、その投資に価値を生み出していく経営が必要ではないでしょうか?例えば、健康診断を、自社の従業員の健康度を向上させ、よりよい状態で長く働いてもらうための必要投資として考えたとしたらどうでしょう。少子化により、労働力として、高年齢従業員の力が一層に求められる中で、健康を土台に長く元気に働くことができる従業員を増やしていくことや、外部から業務委託契約などの形態で力を発揮できるパートナーを迎えることは、企業の成長には欠かせない重要なテーマになってきています。健康診断を通じて健康リテラシーを高め、自分のことは、自分で守ることができる従業員を会社から社会に溢れださせること。このように健康診断をテーマにしても、戦略的に健康経営資本をつくる取り組みとして実践する企業と、コストとして取り組んでいる企業では、その企業価値に大きな差が生まれてくるのではないでしょうか?

健康経営を戦略的にとらえるには、経営者・経営層の意識を変えるのと同時に、人事戦略と経営戦略(事業戦略)とを融合させることが重要です。何度も繰り返しますが、法令遵守の視点は大切ですが、健康経営を戦略に変えるためには、「なぜ、なにに取り組むのか?」ということを明らかにし、必要な投資を決断することが必要になります。改めて人事などのチームから、経営層に対してこうした問題提起を行い、積極的な対話を行うことも一層に必要になってくるでしょう。

戦略的に健康経営に取り組むために、「自社の持続的な成長と発展のために、我が社では、従業員という大切な資源を、『何を強みとして、どのように磨いていくのか?』」という問いを、経営者に立てることから始めていくことが対話の切り口として必要になると思います。

3. ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を健康から考える必要性

厚生労働省労働基準局によると、現在、日本においてもっとも頻発する労働災害は、55歳以上の女性従業員による転倒災害です。件数にすると3万6,000件という数になります。転倒によって骨折などの怪我を負った場合、長期の労働災害となることがあります。少子化により労働人口の減少が進む近年、高年齢者や女性の雇用促進が進んでいます。特に、小売業・飲食業などでは、高年齢従業員を積極的に採用していますが、この業種ほど、転倒災害が多く発生していることが実態です。

このように高齢従業員は、転倒以外にも、認知症の発症や、がんや循環器系の疾患の発生など、在職中の健康リスクが高まることは十分に予見できます。在職中の私傷病の発症により、今後、企業内での病気と仕事の両立支援も一層に必要となることでしょう。現在、政府ではエイジフレンドリー制度、SAFE コンソーシアム制度などを通じて、転倒災害などの行動災害防止に向けての高齢従業員の健康確保についての取り組みを開始していますが、まだ企業内で、このテーマの広がりは十分ではありません。

また、今から6年ほど前に「D&Iと健康経営」をテーマにした勉強会を開催したことがあります。当時は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン=国籍・性別・年齢などさまざまな背景を持つ人々の個性を重視して受け入れ、組織内で活用すること)の中心テーマは「女性活躍推進」であり、内容も「企業における女性の健康の必要性」としました。50社100名ほどのD&I担当者にお集まりいただいていたのですが、「女性活躍推進の中で、女性の健康に取り組んでいますか?」という問いかけに対し、手が挙がったのは10%程度だと記憶しています。法律で義務付けられた定期健康診断項目のなかには、女性特有の健康診断項目についての検査はありませんし、健康診断の事後の保健指導も、肥満やメタボリックシンドロームを中心とする内容です。女性の活躍を考えるのであれば、本来は、やせ、貧血、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)などに関連する、女性の健康や働き方に関する支援が必要です。しかし、これらのテーマは、いまだ企業の中心にはなっていないと理解しています。

日本企業は労働安全衛生法など、政府の法制化された枠組みの中で健康管理に取り組んできました。しかしながら、企業が多様な人の知を集めて持続・発展することを目的にD&Iに取り組んでいくためには、法制化された枠組みの中では対応しきれていないテーマがたくさんあります。だからこそ、企業が独自性をもって、自社の従業員の健康を中心テーマに考えながら、その健康や働き方について率先して取り組むことが重要だと思います。なぜなら、生産人口が減少する中では、能力のある人財をパートナーに迎えることこそが、企業の競争力優位につながることには間違いありません。高年齢従業員や女性従業員、LGBTQ従業員など、多様で多才な人が活躍できるダイバーシティな環境を整備するためには、健康をテーマに、企業が法的枠組みをこえて積極的に投資する必要があります。

【健康経営の意味と価値】人的資本最大化のために求められる経営戦略と経営判断

4. 健康経営が人的資本を生み出し企業価値を向上させる

2023年3月期以降、上場企業では有価証券報告書で人的資本経営の取り組みを外部に開示することが義務化されました。しかし、多くの企業では、人的資本を拡充するための独自の活動をどのように示すべきかについて、まだ明確な方針を確立していない状況です。

だからこそ、「健康経営戦略を実行し、人的資本を最大限に活用することが、企業価値の向上につながる」という戦略構想を構築し、これを掲げ、実証していく必要があります。

ルネサンスでは、社内の人的資本向上と同時に、顧客企業への健康づくりに関する各種サービスを展開し、健康経営を社内・社外の事業として両輪で回しています。ヘルスケア産業等に従事する他企業においても、従業員への健康経営への取り組みを、自社ビジネスと連動させていくことで、企業価値を高めていくことは可能なはずです。

従業員が「この会社に大切な家族や友人を迎えて一緒に働きたい」、そう思えるような会社になることこそが、健康経営が実現できている状態だと考えています。そのためには、従業員が理念に共感し、働きたくなる仕事を生み出していくこと。そして、その能力を存分に発揮できるような支援が必要です。毎朝、気持ちよく目が覚め、健康状態が向上した従業員が、上司や同僚と一緒に会社・組織への信頼感を抱きながら、ワクワクした気持ちで業務を遂行できている。このような企業は、競争力が高まり、企業価値も向上していくのではないでしょうか。

こうした企業での成功事例をたくさん増やしていくことで、今後は一層に、健康経営への投資に対する効果(便益)が、ステークホルダーから適切に評価されていくことになると思います。私たちは、自社はもちろんのこと、社会に健康経営が拡がる一翼を担うことにも同時に取り組み、人生100年時代を豊かにする健康ソリューションカンパニーとして、日本における生きがい創造の実現を推進していきたいと思います。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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