会員管理・予約システム記事一覧

セミナー記事一覧

北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

2023.07.03

| |
北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

【前編】この記事は2回に分けてお送りしています。
【後編】はこちらから

2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪の二大会連続で、競泳男子100m平泳、200m平泳の二冠を達成した北島 康介氏。4度の五輪を経験し、通算7個のメダルを獲得するなどの多大なる成果と水泳への貢献が認められ、2023年3月14日に国際水泳殿堂より殿堂入りが発表されました。現役選手であった2009年に株式会社IMPRINTを立ち上げ、引退後も同社を起点に、スポーツ習慣の社会浸透に関するさまざまな事業を展開しています。東京都水泳協会の会長であり、事業家としても精力的に活動を続ける同氏に、スポーツ教育に寄せる想いと発展への取り組みについて聞きました(2023年3月9日取材)。

INDEX

PROFILE

北島 康介 株式会社IMPRINT 代表取締役社長兼 CEO

アテネ・北京両五輪金メダリスト。2004年アテネ五輪では100m・200m平泳ぎで金メダルを獲得。2008年北京五輪でも両種目で金メダルを獲得し、日本人唯一となる2種目2連覇を達成。2012年ロンドン五輪では、4x100mメドレーリレーで銀メダルを獲得するなど五輪を始めとした多くの国際大会で活躍。2016年4月の五輪選考会で競技活動を引退。引退後は、東京都水泳協会の会長を務め、自身の冠大会「KOSUKE KITAJIMA CUP」を開催。また、2020年からはインターナショナル・スイミング・リーグ(ISL)のTokyo Frog Kingsのゼネラルマネージャーを務めている。

公式Webサイトはこちら

1. 海外で学んだ「己で選択し、己の道を作る」重要性

――現役時代からさまざまなスポーツ振興事業に取り組まれていますが、どのような想いがあるのでしょうか。

スポーツは、「心と体の健康の増進に大きな効果がある」ということを積極的に発信することで、ただスポーツを観戦するだけでなく、実際に取り組む人々を増やしていきたいと考えています。近年、アスリートがより身近な存在になったことでスポーツへの注目度も高まっているため、この機会を活かし、日本の運動人口増加に貢献するプロジェクトを複数進めています。

東京都水泳協会の会長として、競泳やアーティスティックスイミング、飛び込みなどの普及および大会の運営をしていることもそのひとつです。子どもから社会人の選手まで、皆で泳げる大会の創出を目指して実施している「KOSUKE KITAJIMA CUP(北島康介杯)」は、来年で10回目を迎えます。

このような考えを持つのに至ったきっかけは、2008年の北京五輪後に休養を兼ねて滞在したアメリカで、多くのメダリストを育ててきたスイミングコーチであるデイブ・サロ氏(以下、サロ氏)の指導を受けたことです。

――サロ氏からはどのような指導があったのでしょうか。

一番印象に残っている指導は、「水の中で100%の力を出し切れる状態を自分でつくって来なさい」と言われたことです。日本では、水泳に限らず、スポーツの練習といえば監督やコーチが決めたトレーニングメニューに取り組むのが一般的ですよね。でも、彼は違いました。自らの心身の状態に考慮して自分でトレーニングメニューを選択し、ベストな状態をつくることを求められました。

あるとき、気分が乗らないまま練習に行ったら、サロ氏から「そんな状態なら泳がなくていい。ほかのことをしなさい」と言われました。「泳ぎたくないときには、思い切って泳ぎから離れて違うことをする。アスリートの自主性を重んじることが、結果的に泳ぎにも良い影響をもたらす」という発想をもとにした指導でした。改めて周りの選手たちを見てみると、ヨガをしたりピラティスをしたり、その時々で自分が良いと考えるトレーニングメニューを選択し、実行していることに気がつきました。「水泳選手であっても、自分に必要だと考えたのなら、ヨガやピラティス、リフティングなどをトレーニングに取り入れてもいいのか」と、驚きとともにいい気づきを得ることができました。

「このトレーニングをやれば、絶対にタイムが縮まる」という保証はもちろんありませんし、下手をしたら怪我をする可能性もあります。そういったリスクも理解した上で、監督やコーチの指示にただ従うのではなく「自分で考えて選択し、行動する」という発想は、非常に新鮮でしたね。

――「自分のことは自分で決める」という考えが浸透していたのですね。

当時、南カリフォルニア大学にある施設で練習していたのですが、大会で競い合っていたライバルたちが「康介と一緒に練習できることは誇りだから」「康介と一緒に練習することでレベルを高めたいから」と、わざわざ別の州から練習しに来てくれたときもありました。外国人ということもあり、「もしかしたら、自分は受け入れられないんじゃないか」という不安もあったんですが、そんなふうに言ってくれてうれしかったですね。アメリカでは、「数ある選択肢の中から、理想を求めて自ら行動するのが当たり前」という考え方が浸透していて、日本のスポーツ指導・教育との違いを、改めて感じました。

アメリカ発のトレーニング器具ブランドを販売し、トレーナーをはじめとする専門家に向けて知識や技術を提供するセミナー事業を展開している「Perform Better」の日本法人「Perform Better Japan」を立ち上げたのも、選手を含め運動やスポーツに取り組む人々に、「まずはいろいろなトレーニングの選択肢があることを知ってほしい」という想いがあったからです。自分をより良い状態に導くため、また怪我を予防するためにも、自らの行動を自らが責任を持って選択していくことの大切さを、事業を通して伝えていきたいと考えています。

若いときは「間違えることが怖い」と、選択することに消極的になることもあるかもしれませんが、僕らの世代からすると「間違えて当たり前」。間違えたら、その失敗を次に活かしていけばいいんです。

北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

2. スポーツ指導者が日の目を見るための下支えをしたい

――日本のスポーツ教育の課題のひとつは、自主性が育っていないことかもしれませんね。

なんでもアメリカのやり方を真似ればいいとは思っていないですが、自主性を持つことは、スポーツにおいても人生においても重要だと考えています。現実問題として、小学校の「体育」のように、日本における運動やスポーツは教育的な要素も含んでいるので、サロ氏のような指導に急に変えることは難しい。そこで、まずは自身が手掛けている事業から、スポーツの指導だけでなく、自主性を育てる取り組みを実施し、日本のスポーツ教育を少しずつ変えていけたらと考えています。

思い返せば、幼少の頃からお世話になっていた平井(伯昌)さんも自主性を重んじる指導をされていました。本当はいろいろと言いたいところをぐっと我慢して「お前はどう思う?」「お前は何をしたい?」とまず僕に聞き、それを噛み砕いた上で指導してくださっていましたね。僕が感じている以上に僕の能力に期待してくれて、「北島康介ならできる」と心から信じてくれたことも大きな自信につながりました。

コーチって距離感があって、あまり話したくないときもありますが、僕に対する期待値が高いと「それを越えなければ」という気持ちになっていましたね。たまにイラつくときもありましたが(笑)、やはり結果が出るので信頼は高まっていきました。家族よりも長い時間一緒にいるので、平井さんとは言葉を交わさなくても相手の考えることがわかるようになっていました。不思議な関係ですよね。水泳という競技は指導者がいないと個の成長は難しいので、平井さんのような指導者に巡り会えたことは、本当に運がよかったと思います。

日本でのトレーニングやアメリカでのトレーニング、コーチや仲間たちとの関わりの中で培った経験やスキルは、今手掛けている事業にとても活きていると感じています。今の子どもたちが豊かに育っていくためには、僕ら先達が少しでもいいからレールを敷くべきだと考えているので、事業を通じて、得られた知見を社会に還元していけるとうれしいですね。

――北島さんが引退後に指導者ではなく経営者を選択したことにも、平井さんの影響があるのでしょうか。

そうですね。平井さんの選手のレベルを見抜く力量の高さや、365日24時間常に選手や水泳のことを考えている姿を見て、「僕はここまでの指導者にはなれない」と思いました。一方で、選手として競技生活を送るなかで、より上を目指していくためには指導者の存在は絶対に必要だと感じていたので、僕は経営者として、優秀な指導者の育成と彼らの社会的地位の向上に取り組むことを選択しました。縁の下の力持ちになりたいと思っています。

その一環として、スイミングクラブ「KITAJIMAQUATICS」を設立しました。元競泳日本代表など一流のスイマーをそろえ、各スクールなどに派遣しています。また、僕自身が日米で実践していたトレーニング方法を元にしたオリジナルプログラムを活用し、子どもたちにより高いレベルのパフォーマンスを実現するための指導も提供しています。水泳を通して考える力、行動する力、発言する力を育む「知育」を促進し、自主性を育てる教育にも注力しています。

僕は、単純に子どもたちに水泳を好きになってもらいたいんです。水泳ってすごく苦しいスポーツだけど、自分で選択しながら強くなっていくことを学んで、「ただ苦しいだけの行き詰まるスポーツ」ではなく、楽しんで長く続けてもらえるようにすることが狙いです。

北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

3. 「スポーツのコミュニティ化」という新たな道の模索

――昨年立ち上げた「TOKYO UNITE」も、子どもたちへのスポーツ教育推進やアスリートの活躍の幅を広げる活動のひとつでしょうか。

「TOKYO UNITE」は、スポーツで活躍する選手の可能性を引き出すだけでなく、東京におけるスポーツの魅力を高めながら、さまざまな社会課題と向き合ってアクションを起こし、発信していくプロジェクトです。東京に本拠地を構える14のスポーツチームや団体が連携しています。スポーツ振興に一緒に取り組める仲間が増えたことは、大変心強いですね。

立ち上げのきっかけは、「社会にいい影響を与えるためには、東京にあるプロチームの集合体をつくってコミュニティを形成し、そこでの社会貢献活動を世界に発信すると良いのでは」という話を親交あるプロスポーツチームの関係者としたことです。

野球やサッカーなどのプロスポーツは厳しい世界ですが、大会で優勝すると、選手やチームの知名度が上がったり、大きな賞金を得たりと、選手の活躍の幅が大きく広がる利点もありますよね。水泳競技は民間企業が力を入れているから、他のアマチュア競技と比べると認知度が高く、選手のレベルも底上げされていて、恵まれた状況だと言えます。でも、プロスポーツ化していないため、大会での賞金はありません。そこで、水泳のプロスポーツ化を目指し、2020年にアジア初のプロ競泳チーム「Tokyo Frog Kings」を立ち上げました。今後も継続して、プロチームの更なる活性化や世の中の人々に認知してもらうための活動に取り組んでいきます。

北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

あわせて、世の中の人々に運動やスポーツへの参加を促す活動の一環として、それぞれのスポーツチームや団体がもつ知恵、経験、発信力を結集し、子どもたちがさまざまなスポーツを体験できるイベントも開催しています。また、2023年3月9日には、東京ミッドタウン八重洲に「TOKYO UNITE」のショップをオープンしました。競技間でファンを取り合うのではなく、さまざまなスポーツのファン同士が交流できる場を増やすことで、スポーツコミュニティの形成を促し、運動やスポーツへの興味を喚起していきたいと考えています。

北島康介が語る「経営者として描くスポーツ教育の未来像」

「TOKYO UNITE」だけにとどまらず、運動やスポーツに触れる機会や環境を増やしてスポーツの習慣化を促すために、自治体や大学、企業などと連携したプロジェクトも複数進めています。

後編に続く

この記事は2回に分けてお届けします。後編では、北島 康介氏が取り組んでいる「スポーツ習慣の社会的浸透」を推進するプロジェクトについてお伝えします。

(取材・文:本庄 尚子 / 撮影:塩川 雄也 / 文・編集:松居 恵都子)

hacomonoへのお問い合わせ

製品、サービス、その他hacomonoに関するお問い合わせは
以下のボタンよりお願いいたします。

お問い合わせフォーム

Suggest関連記事

Ranking人気記事ランキング

View More
メルマガ登録

人気コンテンツ、最新記事の情報をお届けいたします。

Suggest関連記事

メルマガ登録

人気コンテンツ、最新記事の情報をお届けいたします。

コピーしました